39 二人だけのティータイム 【side ライガーン】
俺は、殿下の中にいる人物が殿下ではないと気が付いてから、ずっと殿下の魂の行方を追っている。
手がかりは、殿下の中にいる人物が調べたいと言っていた「ロントクライン公爵領」「災害の情報」というキーワードに基づいて、依然調査をしていた。
俺の手元には部下からの調査報告と思われる一通の手紙が届き、早速封を切る。
これで、少しでも居所がわかって進展してくれたら殿下をお迎えに行けるのだが……。
そう思いながら、急いで文章に目を通す。
「なんだって?」
俺は、短い報告書を読んで、思わず声を発する。
殿下の中の人物が頭をぶつけたと言っていた、その日を含めたの前後3日間のロントクライン公爵領で起こった災害、及び事件の記録を見る。
そこに記載されていたのは、火事2件(空き家のため、けが人なし)、馬車事故3件(高齢者1名が死亡。飛び出した幼児1名死亡)、川の事故1件(救助された子供2名無事)、強盗未遂事件(その場に騎士がいたため、すぐに取り押さえられ被害、けが人なし)
「おかしい……。マヤゴン魔術騎士団長は10代女性と言っていたし、女性なのは間違いないのに該当事件がないだと?」
記録されていない事件なのだろうか。もしくは公にされていない事件なのか。
「くっ、殿下に関する手がかりは何もないということか。引き続き、調査を続けるのと……。殿下の中にいる人物にそれとなく聞いてみるしかないのか」
せめて、殿下の中にいる人物の名前がわかって、その人物を探し出せば、きっと中身は殿下だと思うのだが……。
俺は、両腕を組んで、執務室の中を行ったり来たりと歩き回る。
さすがに、殿下本人が俺宛てに手紙をよこしても、ベルフォン王国からの手紙ならさすがに届く頃だとは思う。連絡できない事情がおありなのだろうか……。
怪我をされていらっしゃるのか、検閲所に怪しまれてここに届かずに手紙を処分されてしまっているのか……。いや、それはないか。
頭の聡いアーノルド殿下のことだから、処分されないような遠回しな伝え方で書かれているに違いない。
「う~ん。どうしたものか」
窓の外を見ると、今日は雪もちらついていないし、風も冷たくなさそう。
俺は悩んだ末、侍女に依頼して庭園の一角にお茶とお菓子を用意してもらうように指示を出した。
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「わ~、綺麗な花だね~」
俺はアーノルド殿下に一緒に庭園で息抜きをしませんかと声をかける。
だから、なんでそんなに殿下の顔をほわほわにして笑顔を作るんだ。硬い表情の殿下の面影が全く無くなっていっているじゃないか!
あんな殿下のほころんだ笑顔を見たら、その笑顔をこの三年間引き出せずに焦がれていた俺まで、つられて笑ってしまうということがわからないのか!
見て見ろ。俺だけじゃなくて、周りの侍女の笑顔まで、引き出してしまっているじゃないか! なんてやつだ!
「あらあら、殿下。いつの間にお花に興味を持たれたんですか?」
「それでは、これからは殿下のお部屋にもお花を飾っても宜しいでしょうか?」
「はい。宜しくお願い致します! 部屋が明るくなるのが嬉しいです!!」
「あら、まぁ! では、殿下の侍従長に話を通しておきますね」
お茶を用意している侍女が殿下との会話を楽しんでいる。
なんで、そんなに周りの者たちと仲良くやっているんだとも思ったが、殿下の中身が今は年若い女性なのだから侍女たちと会話が弾むはずだと納得する。
「殿下。どうぞこちらにお座り下さい」
「ありがとう、ライガーン!」
俺は殿下の椅子を引いて着席を促すと周りの者たちは下がらせて、人払いをしておく。
殿下の足元が冷えないように、念の為、ひざ掛けをかけるのを忘れてはいけない。中身は女性でも、身体は大事な殿下なのだから。
よし、ここまでは、順調だ!
少しでもこの女性がどこの誰か聞き出せればよいんだが……。ひとまず、女性が好きだという甘い物を食べれば気分もほぐれて、話してくれるかもしれない。
室内で話をすると、尋問みたいになってしまいそうだ。
だから、外の心地よい外気に触れて、口を滑らせてくれそうな庭園を選んだ。
俺は、そんな打算をしながら、殿下と二人だけのティータイムを始めた。
読んで下さり、ありがとうございます!
皆様のお手元にお飲み物がございましたら、一緒にティータイムできそうですね!




