38 風魔法の訓練にて
私は毎日ように、剣術、風魔法、ラーン帝国語、皇子としてのマナーを学んでいる。
本当は、歴史とかも知っていたほうがいいんだろうけど、まだスラスラとラーン帝国語を読める段階までには至っていないから、もう少し先になりそうだ。
「さてと、今日も風魔法の練習ね」
私はマヤゴン魔術騎士団長と毎日、顔を合わすようになった。
最初は手を上に向けて、風の渦巻きボールを作ることさえなかなかできなかったけれど、マヤゴン魔術騎士団長が私の後ろに立って、私の手を持って、私の身体から一気に魔力が出て行かないように一緒に調整してくれたから、安心して訓練することができた。
「殿下。渦巻きボールを作るのが上手になりましたので、今日はそれを投げる練習をしましょう」
「マヤゴン魔術騎士団長とキャッチボールをするってことかな?」
「その提案もとても魅力的ですが、今回はあの壁際に立っている的を狙ってみましょう」
マヤゴン魔術騎士団長が指差す方向を見てみると、昨日まではなかった場所に大きな的ができている。
でも、なんだか木で作られた壁ではなさそうねぇ。
いったい何でできているのかしら。
私の思っていることを見透かしたように、マヤゴン魔術騎士団長は説明を付け加える。
「あれはですね~。私が作った的なんですよ。あの的に当てると……」
「当てるとどうなるの?」
「当てると……吸い込まれます!」
「おぉ! それは便利だね。どこも壊す心配がないから安心して当てられるね!」
私は無邪気に笑いながら、マヤゴン魔術騎士団長に伝えると、彼は少し口元の八重歯を覗かせてニヤリと笑う。
「そうでしょう? でも、あれは吸い込むだけではありません」
「ん? どういうこと? 吐き出すこともできるの?」
「さすが、殿下。ご明察!!」
マヤゴン魔術騎士団長はパチパチと手を叩いてほめてくれるけれど、彼がニヤリと笑う時には別の意図があるのよねぇ。
「では、殿下に問題です。どこで吐き出したら効果的でしょう?」
「う~ん。そうだな。何か危ないものが飛んできた時に風魔法が使えない人も使えるとか?」
「さすがですね。まぁ、似たような感じですが、戦争になった時に使うことができますね」
「ひぃ」
私は声を出して、驚いてしまった。私が練習用に的に当てた風魔法で誰か人の命を奪ってしまうとしたら、怖くなる。
マヤゴン魔術騎士団長は、怖がる私をみて少し楽しんだのだろう。
「ご安心下さい。殿下が使った的をそんな恐ろしいことには使いませんから……。そうですね、屋根に積もった雪を落とすのに使ったり、もっと素敵な使い方ができますから」
マヤゴン魔術騎士団長は私を安心させるために、別の使い道があると教えてくれる。
「もう! 時々、怖がらせるようなこと言うけど、絶対、楽しんでいるでしょう?」
私は頬を膨らまして、抗議する。
でも、本当は彼が伝えたいことは何となくわかっている。
マヤゴン魔術騎士団長は正しい使い方をしないと、魔術で人を意図していなくても殺めてしまう可能性があるということを教えてくれているのだ。
ちょっといたずらっぽく、茶化しながら私に指導するのは、怖がるのも当然だけれど、魔術を使うということは危険もはらんでいることを伝えてくれようと考えた上で必要なやり取りなのだと、私は気づいている。
結局、なんやかんや言いながらマヤゴン魔術騎士騎士団長は優しい人なのよね。
それでも、毎日、風魔法の訓練が終わるとライガーンが私の執務室にやってきて、
「マヤゴン魔術騎士団長に変なこと言われたり、されたりしていませんか? 担当変えなくて大丈夫ですか?」と
しつこいくらいに聞いてくるの。
ライガーンって、本当に心配症だよね~。
そんなことを思って、ふっと思い出し笑いをするとマヤゴン魔術騎士団長は必ず指摘してくる。
「殿下。今、ライガーン殿のことを考えていたでしょう。困ります。風魔法を使っている間は私のことだけを考えて、集中して下さい」
って言うから、更に笑いが止まらなくなるの。
私が殿下の中にいるから良いものの、その台詞を妙齢の女性に使ったら、すぐその女性はマヤゴン魔術騎士団長に絆されてしまいそうよね。
読んで下さり、ありがとうございます!
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・☆評価をして下さると励みになります。




