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37 酒を飲みながら 【side  ライガーン】

 夜遅く。


 俺の執務室をノックする音がする。


「どうぞ」

「やぁ、まだ仕事中か? 遅くまで働きすぎなんじゃないか?」

「いや。もう風呂も入ったし、お前を待っていただけだ」

「相変わらずだなぁ、ライガーン殿は」


(いつも敬語なんて使わないのに、俺の名前を呼ぶ時だけ使うのがマヤゴンの特徴だ)

 そう感じていても言葉にはせず、俺は執務室の奥にあるソファを指差す。


 現魔術騎士団長とは、学年が俺の方が一つ上だが学生時代からお互い顔合わすことが多く、今でも時々、情報交換を兼ねて一緒にお酒を飲むことがある。


 マヤゴンは手に持っていた、ワインを開けて二人分のグラスに注いでくれる。


「なんか、こうやってお酒飲むのは久しぶりだなぁ。……にしても、今日は本当に驚いたぞ」


 マヤゴンは一口ワインを飲んでから、美味しいから飲んでみろよと言いたげな目をして俺にも飲むように手で促す。


「殿下が寝台から落ちて頭を打ったって聞いた時は、何て間抜けなんだと思ってしまったが……。あれは殿下の嘘だったんだな」


 マヤゴンは意外と鋭い。魔術騎士団長を任されているくらいなのだから、実力はお墨つきなのだが、一瞬で見破るとは恐れ入るな。

 俺は、マヤゴンが今日、殿下を見てどう感じたのか知りたかった。


「マヤゴン。お前は……どこまで視えているんだ?」

「あぁ、やっぱり気になるよな~」

「もったいぶらずに、早く教えろよ。俺が確信が持てるまで1か月かかったのに。お前は一瞬でわかったってことだろう?」


 俺は、殿下の中に別の人がいると気が付いてから、それがどういう人物か見極めるために1か月を要した。

 慎重に行動しないと、ラーン帝国の機密情報が漏れる可能性があるからだ。


「まずはねぇ。中身は女の子ってことだろう?」

「……そんなことまで、わかっているのか。確かにところどころの仕草で女性っぽいなとはわかるかもしれないが、年齢までもわかるのか?」

「う~んとねぇ、多分10代後半じゃないかな。多分ね」


 マヤゴンが何を根拠にそう話しているのかは、教えてもらえないのだが、彼には魔術師として特別な才能があるため、俺のような凡人にはわからない部分もよく視えていることが多い。


「もっとさぁ、早く呼んでくれても良かったんじゃない? ライガーン殿」

「お前は、もっと早くから楽しみたかっただけなんだろう、この状況を。もともとは忙しいお前ではなくて、元魔術騎士団長に伝令を出して、殿下と対面して欲しいと依頼していたんだ」

「へぇ、それなのに元魔術騎士団長がここに来ていないのは、どういうことさ」

「それは、俺にもよくわからないが、対面するのは断られたよ。しかも『殿下は問題ないからそのままいつも通りにしておけばいい。想定内だ』としか手紙に書いていなかった」

「ふ~ん。あの人が言うなら大丈夫なんだろうね。理由はわからないけれど、殿下になりかわっている彼女は害なしってことだよ」


 俺たちは、元魔術騎士団長に問題ないと言われたことも気になっていた。彼は何かを知っているのだろうか。


「マヤゴン……俺はこれは魔術による入れ替わりなじゃいかと思っているんだが、お前の見解はどうなんだ?」

「まぁ……そうだね。入れ替わり現象だね。耳にしたことはあったけれど、実物で入れ替わりを見たのは初めてだな」

「! やはり入れ替わっているのか? では、アーノルド殿下の中身は今、あの女性の中にいるということか?」

「多分ね。確証はないけれど、あの女の子の身体の中にいるんじゃないかな」

「ご無事ならいいのだが……」


 そうか……早くアーノルド殿下を探して差し上げねば。

 殿下のことだから、俺宛てに手紙くらいは寄こしてくれているとは思うのだが、まだ届いていないだけだろうか。


「それはそうと、マヤゴン。今日、風魔法訓練の時にお前は殿下の手を両手で包んでいただろう? あれは何を調べていたんだ?」


 俺は、今日の風魔法の訓練でマヤゴンが殿下に寄り添っている姿を見て、てっきり目の前の怪しい人物の正体を調べるためにあんな行動をとっているのだと思っていた。


「ん?」

 マヤゴンは何の事か、わからずに数秒考えて、今日の行動を振り返っている。


「あ、あれはねぇ。何も調べていないよ」

「? じゃあ、なんで、彼女の手を包んだり背中をさすったりしていたんだ?」

「それは……目の前に可愛い女の子がいて、自分の魔力にビックリしてカタカタ震えていたらさぁ。何となく守ってあげたいっていうか、優しくしてあげたくなっちゃってさ……そういうのってあるでしょ?」

「マヤゴン……まさか、そんな気持ちで触っていたのか?」

「そうだよ」


 チッ。

 俺は心の中で舌打ちをする。

 殿下の中にいる人物が悪でないことは、俺もわかっているつもりだ。

 にしても、会ったばかりのこの目の前の人物が、すぐさま彼女に手を差し出すことができるなんて……何だか腹がたつ。

 俺の方が、先に彼女が良い心根を持っていると気が付いていたのに。


 そんなモヤモヤとした感情が俺の中にうずまき、今日は深酒をしてしまった。




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