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36 風魔法

「じゃあ、殿下。どれでも構いませんので、できそうな風魔法を見せて下さい」


 え? 一番最初の基礎から教えて欲しいんだけど……私、初心者なんですよ?

 そう思うけれど、言葉にはできないから、どうしようか逡巡する。


「大丈夫ですよ。風魔法は……使ったことはありますよね?」

「はい……」

「では、覚えていそうな風魔法で構いませんので、見せていただけますか?」


 ライガーンとふざけ合っていた時とは別人のようなマヤゴン魔術騎士団長に少し驚く。意外と真面目な人なのかもしれない。


「今、できそうなのは……そよ風を吹かすくらいなんですけど……」


 私は、洗濯物が目の前にあるイメージで、両手を前に突き出す。


「えぇ。素敵じゃないですか、そよ風。是非、それを見せていただけますか?」


 そうマヤゴン魔術騎士団長に促されて、孤児院にいた時を思い出しながら手のひらから風を出す。


「ふむふむ。確かにそよ風ですね。イイ感じです。では、ちょっと強い風を出してみましょうか」

「え? 強い風?」

「そうですね。帽子が風で吹き飛ぶくらいはできますか?」


 う~ん。そよ風以外やったことはないけれど、きっとアーノルド殿下なら訓練していたくらいだから当たり前にできていたのだろう。

 そう思って、孤児院の洗濯物を干している時に、強風でシーツが吹き飛ばされたことがある。

 よし、あの時の風をイメージしてみたらできるかもしれない。


「こんな感じでしょうか?」


 私は、そう言いながら両手から出力する風魔法の出力をほんのちょっと上げてみた。


 シューン!!  ズドーーーーーーーーーン!!!!!


 風を切る音が聞こえたかと思うと、目の前の広場の奥にあった木がなぎ倒され、訓練場を取り囲むレンガ造りの塀がガラガラと崩れていくのか見える。

 しばらくして、反射して戻ってきた爆風が私の身体に襲ってくるのが目に入る。

 それを防ぐようにマヤゴン魔術騎士団長は、風で防壁を作り、私の身体に爆風が当たらないように処理してくれた。


 ど、ど、ど、ど、どうしよう!!!

 破壊してしまった。


「ご、ごめんなさい!! 少し強めただけだったんだけど、こんなにも強い風が出るとは思っていなくて……」


 私は、修理代や弁償することを想像して、真っ青になる。

 人がいる方に出力していたら、大惨事になっていたと思うと怖くなって、両手がカタカタ震え出す。


「ふむふむ。いい感じですね、アーノルド殿下。まぁ、出力調整は必要ですけど、完璧です」


 マヤゴン魔術騎士団長は、私を責めたり怒鳴ったりせず、親指を立てて二パッと八重歯を見せながら褒めてくれる。

 それでも、青ざめた私に気が付いたのか近寄ってきて、私の両手を彼の両手で包んでくれる。


(あ、あったかい……)


 彼の両手は、とても温かく、緊張がほぐれていくのがわかる。

 しばらく、両手を包んでいてもらえたおかげが、手指の震えもいつの間にか無くなっている。

 落ち着いてくると、マヤゴン魔術騎士団長は私の背中をそっとなでて深呼吸をするように助言をくれる。


「スーハー。スーハー」


 何度か繰り返すと、少しずつ上がっていた心拍数も落ち着いてくるのが自分でもわかる。

 そうすると、頭も冷静になって考える余裕ができてきた。


(どういうこと? 魔術騎士団では、これくらいは当たり前ってこと? アーノルド殿下も以前、こんなものすごい風が出来ていたってこと??)


 ラーン帝国の魔術騎士団の強さを感じて、さすが驚いてしまう。

 騎士団だものね。隣国と戦になったり、魔物が出る地域もあるらしいから、これくらい訓練していて当然なのでしょうね。

 そう思っていても、初めて目にした巨大な風魔法を、しかも、自分の手から出したことは無かったから、心臓が止まるかと思ったわよ!!!


「殿下。まだ全然疲れてはいないですよね? 魔力が切れそうってこともないですよね?」

「え? そうだね。魔力はまだ残っているみたい、多分たくさん」

「それなら、問題なしです。じゃあ、このまま訓練を続けましょう。今日の課題は手を上に向けて、手のひらの中で風の渦を作る練習です。小さなそよかぜボールを作ってから、徐々に大きくしていきましょう」


 こうして、私は剣術稽古に加え、風魔法の訓練を行うのが日課になった。

 これも、アーノルド殿下のためね。

 きちんと健康的な生活をしておくから、いつでも戻ってきてもらえるように万全にしておくわよ!!



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