35 マヤゴン魔術騎士団長②
マヤゴン魔術騎士団長が、こちらを向くとニタリと笑う。
(私とは初対面だけど、いつもアーノルド殿下に対してこんな笑い方をする人なの?)
なんとなく、軽薄そうに見えてしまう。
マヤゴン魔術騎士団長は歩きながら近づいて来て、ライガーンと私の顔を見比べる。
「お疲れ様です、マヤゴン魔術騎士団長。今日はアーノルド殿下の風魔法訓練を宜しくお願い致します」
「おいおい、何がどうなっているんだ?」
「……」
マヤゴン魔術騎士団長はライガーンの傍までいくと、アーノルド殿下に挨拶もせずにライガーンの横に立ち、ニタニタと笑ったままライガーンの肩に右腕を回して肩を組む。
あれ? 開口一番にその台詞? 私には挨拶ないの? なんで?
は! あれか? 上の者からしか話かけちゃいけないというマナーか? え? こんな訓練場では関係ないと思うけど……。
ひとまず、挨拶は基本よね。挨拶をされて嫌な気持ちになる人なんていないはず。よし、自分から挨拶をしよう!
「こんにちは、マヤゴン魔術騎士団長! ご指導宜しくお願い致します!」
「ははははは。こりゃ、威勢がいいねぇ」
マヤゴン魔術騎士団長は、いつもこんな感じなのだろうか。
見た目が100%アーノルド殿下だというのに、挨拶をしても挨拶が返ってこないとは。
模範となる騎士団長がそれでいいのか!
私は、アーノルド殿下ではないけれど、何となく殿下がないがしろにしれているようで、悲しい気持ちになる。
そんな私の気持ちなんて、そっちのけでマヤゴン魔術騎士団長は未だニタニタ顔が収まっていない上に、ライガーンにもう一度質問をする。
「ライガーン殿。殿下は頭を打っていたから、室内にこもっていたとは聞いたが?」
何かを疑っているのか、マヤゴン魔術騎士団長はライガーンに確認する。
「えぇ。殿下ご自身のお言葉ですので、お疑いになられないように宜しくお願い致します。何度もご説明致しましたが、頭をぶつけられたそうです」
「ふ~ん。……ふ~ん。なんでこんな面白いことになってんだ?」
「!」
私は、ギクッとして少し身体が反応してしまう。
バレて……はいないよね? まだ会って数秒だよ? 見た目はアーノルド殿下なんだから、すぐに中身までは気づくはずないよね……。
何となく、怪しまれているような気がして蛇に睨まれた蛙の気持ちになる。蛙になったことがないから知らないけど。
この状況は……良くないわよね。明らかに何かを疑われている。
「まぁ、いいや。久しぶりに酒がうまくなりそうだ。ライガーン殿、今夜は付き合ってくれよ」
「わかりました……。用意しておきます。っていうか、俺の方が年上なんだから、お前が用意するべきだろ」
「あ、それもそうだな。ついつい……」
マヤゴン魔術騎士団長は二パッと白い歯を見せて、ライガーンに回していた腕を離し、そのまま右手で後頭部をガシガシと掻く。
なんだ、ライガーンとマヤゴン魔術騎士団長は軽口を叩けるほど、仲が良いのか。
ちょっと、憧れる。
というか、羨ましいかもしれない。
私には、孤児院時代も見習い聖女をしていた時も、周りの人はみんな優しかったけれど、冗談を言ってふざけ合える友はいなかった。
人に迷惑をかけないように生きていくことばかり気にしていたし、本音で話をすることなんてまずなかった。
だから……ふざけ合える人が今後、一人でもできたらいいなと思う。
そう考えると言いたいことを言い合える目の前は二人は素敵な関係ね! 私の目指すべきじゃれ合い方かもしれない。
「じゃあ、ひとまず、殿下。風魔法を練習しましょうか」
友との雑談を終えたマヤゴン魔術騎士団長は、キリッとした表情に切り替わり、私に指導の開始を知らせる。
メリハリをつけるタイプの人間だということが、纏う空気がピリッとすることで感じとることができる。
「はい。マヤゴン魔術騎士団長、宜しくお願い致します!」
私がそう言うと、ライガーンは少し離れた木の下に移動して行き、私たちの訓練の様子を終始観察し始めた。
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