31 【挿話】侍女の妄想
パンハー皇子にこてんぱんにされてから、私は毎日走り込みをしたり、剣術の稽古をしている。
(だって、悔しいじゃない! 本当のアーノルド殿下なら強いのよ! 見た事ないけど、多分ね)
今の私より強いのは間違いないし、アーノルド殿下に汚名を着せたままでは、女が廃るわ。
体格差があるから、今はパンハー皇子殿下に負けてしまうかもしれないけど、
あと五、六年もしたらアーノルド殿下だって、背も伸びるしパンハー皇子なんて、こてんぱんにしちゃうんだから!!
私は、そう思いながら、アーノルド本体の筋力が衰えないように努力している。
でもさ、やっぱりアーノルド殿下は男性だから、筋力が戻るのも速い。速い。
室内で引きこもっていて、衰えていた筋肉もすぐについてきているみたい。
素振りするのも、最近は前ほどしんどくないのよね~。
(くっ、これだけ運動しているのに、リアナのお腹周りに見た感じ変化がないのはどういうことよ?)
私は自分のお腹を見て、ため息をつく。
鏡の中のアーノルド殿下の胸板が少し厚くなった気がするけど、それって私の努力のおかげじゃない?
こうなったら、頑張って彼の育成に尽力しようじゃないの。そのうち、女性がキャアキャア言っちゃうくらいの素敵なボディに仕上げるんだから!
なんて、言いながら誰よりも先に私がキャアキャア言っちゃうかもしれないけどね~。
左手首に巻いていた、飾りの包帯もパンハー皇子の打ち込みをした、次の日にははずした。
「怪我を負わされた殿下を思いやるライガーン様」
この姿を想像するのがたまらないんだと城内の侍女が喜んでいたのを、目撃して聞いてしまったからだ!
知っている!
そういう話を想像して楽しむ女性がいるということは、知っている!
でも、違うんだ!! ライガーンとは、そういうのじゃない。
でも、彼女たちの活力になるのであれば、敢えて否定はしない!
妄想くらいさせてあげよう。
そういう楽しみがないと、楽しく働けないのかもしれない。
だって、中身は16歳のリアナだし、ライガーンに頼って、お助けマンとして活用させてもらっているんだから、それくらいの想像は容認してもいいような気がする。表現ならぬ想像の自由というやつね。
むしろ、ライガーンはそれをわかっていて、私に構ってきているんじゃないかしら?
でも、アーノルド殿下が戻って来た時に、不敬罪で侍女が罰せられると可哀想よね。
私は妄想をして楽しんでいる侍女の横を通り過ぎるタイミングで、
人差し指を立てて、口元に持っていき、小声で囁く。
「君たち、不敬にならない程度に妄想は留めておくんだよ」
「!!」
「申し訳ございません!!」
侍女たちは当の本人に気が付かれているとは、思っていなかったのか青い顔をして走り去って行った。
私自身も、先日の剣術稽古の後から、ライガーンの目が射るような視線から、ちょっと柔らかい温厚な視線に変わった気もするのよね。
そんなに、同情してしまうくらいひどかったのね。剣術稽古。
よし。もっと筋肉をつけて、基礎体力もつけておくから、安心してね、アーノルド!!
私は再び、自主訓練を再開し走りだした。
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