24 宿屋での出来事
シャーリー聖女と同室になったぼくは、極力、彼女のプライベートな側面を見ないように壁側のベットを陣取る。
そうだ。これは、患者と聖女というだけのことだ。親切な彼女はぼくの怪我を心配しているだけのことだと思うことにした。
そう思えば気が楽になる。
しかも、アーノルドとして心配しているのではないようだ。
シャーリー聖女は、宿屋の近くでまだ開いていた店で安い着替えを購入してきてくれた。
さすがに泥だらけの着の身着のままでは、宿にも迷惑をかけてしまうからだ。
「これ、リアナの分の衣類をここに置いておくわね」
「ありがとうございます」
ぼくは、ベットの端に置かれた衣類を手にとる。
やはり・・・。
どう考えても農村部などで女性が身に着けている簡易的でシンプルなドレスだ。
(これを・・・買ってきたということは、ぼくはやはり女性に見えているのだろう)
先ほど、宿屋の受付横の窓に映り込んだ女性の姿を思い出す。
考え事を始めたぼくをよそに、シャーリー聖女は浴室で身体を清め、すぐにベットに横になってしまった。
回復魔法の消費が大きかったのだろう。横たわって三秒後には寝息が聞こえてきた。
(よっぽど、疲れていたんだな。それなのに、ぼくの衣類まで買い求めに行ってくれて・・)
ぼくも疲れてはいたが、自分の今の状況を確認するために、浴室で身体を綺麗にした後、もう一度自分の身体を観察する。
やはり、自分自身の髪、手足、下半身、どこをどう見ても自分の目には10歳のアーノルドが見えている。
自分には自分の身体が見えているということか。
では、先ほど窓ガラスに映り込んだのが女性というのは、どういうことだ?
他の人には、あちらの姿が見えているということか?
シャーリー聖女の対応といい、そうとしか考えられない。
恐る恐る、浴室にある鏡を覗き込んで見ると・・・
(やっぱり、女性が映っている!)
間違いない。この鏡に映っている姿が他の人には見えているようだ。
(君はリアナという名前かい?)
返事がないことはわかっているが、鏡に映る女性に手を振って心の中で問いかけてみる。
きっと、そうなのだろう。
スミレ色した長い髪に、ぼくよりも薄い金色の瞳をしている女性が、ぼくと同じように動揺した顔つきで手を振っている。
(中身はアーノルドで、身体はリアナという人物になっているということか・・・)
いきなりの土砂崩れ現場に巻き込まれた時からリアナの身体の中に、ぼくはいるということか。
さすがのライガーンでも、外見が異なるのだからぼくをすぐに見つけることは出来ないことに納得がいく。
だから、彼はぼくの傍にいないのか。
自力で何とか情報収集をするしかないようだ。
そうやるべきことが、決まって方向性が見えてきたため、頬っぺたをペチンと両手で叩いてから浴室の鏡から遠ざかる。
(は! すまぬ。リアナ嬢!! うっかりそなたの肌を見てしまった!! 本当に申し訳なかった!! 不慮の事故だ!!!!!)
アーノルドには、女性の身体は刺激が強く、顔を真っ赤にして慌てて目をつぶりながら浴室を離れ、慌ててシャーリー聖女が買ってきた服に袖を通す。
ドレスになろうが、構わない。今はリアナ嬢に一刻も早く衣類を着せてあげなければいけないからだ。
その日のアーノルドは、いろんな意味でなかなか寝付くことができなかった。
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