22 リアナの治療
先ほど大泣きしていた女性は、なぜかぼくのことを「リアナ」と繰り返し呼ぶ。
よくわからないが、今は手当てが必要だから、彼らのされるがままに横たわろう。
ぼくが皇子のアーノルドとは気づいていないだけかもしれない。
疲れた目を軽く開けて彼らの様子を見ていると、大泣きしていた女性が聖女だということがわかる。
なぜなら、騎士の二人が「聖女様」とその女性に声をかけていたからだ。
どうやら、ぼくを安全な場所に運ぶ時も、彼女の白いローブを下に敷いて、その上にぼくを横たえさせて担架にして移動していた。
ぼくの身体に負担がかからないように配慮してくれたのだと、遅れながら気が付く。
陽の光で真っ白く輝くローブが、泥まみれのぼくを寝かすことで汚れてしまうことさえ、気にしていない様子を見て彼女は本当に心から聖女なのだなと感心した。
(そういえば、足などはまだ切断されずについているのだろうか・・・)
あれだけの衝撃を受けていたのだから、痛みで感覚が麻痺しているだけで、足を失っていても不思議ではない。
不安になって目線を足元の方に向けるが、いつも通りの見慣れた自分の爪先が目に入る。
(あぁ、足は失わずに済んだのだな)
そのまま視線を上半身へ移すと、成長途中で子供らしい体格を残した両腕が見えている。
(腕も・・・、失ってはいないな)
骨折しているのか、腕にも痛みが走る。
ひょっとして骨折していたから、先ほどは思ったように風魔法が出力できなかったのではないだろうか。
(うん。恐らくそうだろう。いくら鍛錬を積んでいても、骨折した状態で風魔法を使用したことは今まで一度も無かったからな)
ぼくは、自分の魔法が上手く発動しなかったのは、怪我をしていたためだと結論づけた。
この時のぼくは、自分の身体が他者の者の器だとは、気づいていなかったのだ。
■■■
先ほどの聖女は「シャーリー聖女」という名前だった。
騎士の二人が彼女の名前と聖女のランクを尋ねているのが、ぼくの耳にも届いたからだ。
「リアナ。もう大丈夫よ。今すぐ骨折を治してあげるわね」
この目の前のシャーリー聖女は、すぐにぼくの骨折の治療をしてくれるようだ。
先ほど彼女は騎士にCランクだと伝えていた。
(あぁ、ライガーンはどうしていないのだ。彼がいれば一瞬で完治できるはずなのに・・・)
土砂崩れから救出されたのに、ライガーンが駆けつけてこないことに違和感を感じる。
彼はぼくが物心つく前からの顔見知りだ。彼がラーン帝国の大学機関を卒業してから、ぼくの側近として傍につくようになったのだから、よく勘が働く彼がこの場にいないのはあり得ない。
(ひょっとして、彼も負傷して動けないのか?)
いつまでたっても姿を見せないのであれば、彼自身が負傷しているのだろうか。
そう思って、すぐその考えを否定する。
いや。その可能性も低いな。
彼は自分自身の治癒もあっという間にかけてしまうほどの、回復魔法の使い手なのだから。
では、ライガーンがここにいない理由が何だろうか。
そう冷静に考えて、担架代わりのローブの上で寝ているぼくの横に近づき、膝をついて座るシャーリー聖女の服をもう一度眺める。
おかしい。
我が国、ラーン帝国の帝都の聖女が着用しているのは癒しの色だとされれている、薄い黄緑色の制服のはずだ。
それが主流だと思っていたが、ここは帝都ではないのだろうか。
もしくは、このシャーリー聖女は他国の聖女で、たまたまラーン帝国にいただけなのだろうか。
疑問は次々浮かび上がってくるけれど、それは後で確認すれば良い。
ひとまず、治療してもらうのが先決だ。
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