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19 パンハー第二皇子

 私の初めての剣術稽古が終わった。


 だめね。アーノルド殿下というのだから、自己防衛できるくらい剣術を上達させないと、いざというときに身を守ることができないわ。


 私は上手に剣を振る事すらできないだけでなく、年齢のわりに上達していた本来のアーノルド殿下の足元にも及ばないらしい。

 第三騎士団のベン騎士団長の驚きを隠せないため息を聞いてしまった。


(わかっていたけど、ショック~!)


 あれは、精神的に応えるわね。

 せめて元の殿下と同じくらいは動けるようにならないと、会わせる顔がない。


 後で、鏡に映る殿下のご尊顔に謝っておきましょう。

(聞こえているかは知らないけど。誠意、大事!)


「お疲れ様でした」


 ライガーンが手拭いを手渡してくれるが、彼は下手になったとも腕前が落ちましたねとも、何も語らなかった。

 言うのもはばかれるからだろう。


「アーノルド殿下、落ち込むことはありませんよ。練習をした分だけ、前と同じくらい上達しますからご安心下さい」

 あからさまにしょげている私を慰めてくれているのが、背中に添えられた手からも伝わってくる。


「ありがとう。早く上達しないといけないね。明日から毎日、身体を鍛える内容もスケジュールに組み込んでくれると嬉しいな」

「かしこまりました。でも、あまりご無理なさらないでくださいね」


 アーノルド殿下には、素敵な側近がいるのね。きっとこの人たちに大事にされて愛されながら成長なさっていたに違いない。

 アーノルド殿下にお会いしたことはないけれど、アーノルド殿下も素晴らしい人なのだろうと周りの人からの言葉で推察することができた。



 執務室に戻ろうと歩き出した、その時。


「よ~、アーノルド。頭打ったんだって? もう良くなったようだなぁ」


 一人の男性、恐らくリアナよりも年上と見られる十代後半くらいの男性に呼び止められる。


 えっと、この人は誰でしょう? 私に敬語を使わないとすれば、身内に違いないわね。

 でも、残念ながら私は孤児で育ったせいか、家族構成に全く興味がなかったので、殿下のご家族についてライガーンに尋ねたことがない。それを察知してくれたライガーンが、私の耳にこっそり耳打ちをしてくれる。


 ライガーン、ナイスフォローだわ! 


「お気遣いありがとうございます。パンハー皇子殿下」


 私は、ライガーンに教えていただいた名前をそのまま復唱する。


「へ~、記憶がないってのは、本当だったみたいだな」


 なんと! 耳打ちして名前を教えてもらったことが、すでにバレているわ! 


「パンハー殿下も今から剣術の稽古ですか?」


 ライガーンが会話を続けてくれる。


「あぁ、久ぶりに愚弟の稽古に付き合ってやろうと思って、わざわざ足を運んでやったぞ」

「恐れながら、アーノルド殿下はまだ本調子ではございませんので、本日は辞退させていただきたく存じます」


 ライガーンは、口元は笑っているけれど、目に不満を表している。よくわからないけれど、普段からアーノルド殿下とパンハー殿下は仲が良くないようね。


「へ~、自信がないのか。記憶がなくなると腕前も落ちるんだな」


 パンハー殿下は、今の私の核心をついてくる。今日、初めて剣を握ったのだから、当たり前なのだけれど。


「じゃあ、三分だけ打ち込みの相手になってくれたら、ここを通してやるよ」


 私は、断りたいけれど、この場を長引かせて他の者が集まってくるのも、アーノルド殿下にとっては良くないのではないかと判断する。


「わかりました。ただし、ご指摘の通り、腕前は初心者と思って打ち込んでいただけますか」

「あぁ、わかった」


 意地わるそうな笑顔で、木刀を渡される。

 その後は予想通り、悲惨な結果だった。木刀で左右の腕だけでなく、足も叩かれてボロボロだった。パンハー殿下は満足したのか、打ち込みだけするとそのまま帰って行った。


 全然手加減なんてする気ないじゃないか!!

 わかっていたけどさ! 


 私は打撲だらけの身体を引きずって、居室に一度戻った。ライガーンも見ているだけで辛かったのか、眉間に皺をよせている。

 情けない主で申し訳ないと心の中で謝罪しておく。


 アーノルドも、ごめん。身体いっぱい傷をつけてしまった。


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