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1 魔力特性検査

 私、リアナは16歳だ。


 16歳というのはわかっているけれど、自分が生まれた日はわからない。

 正確にいうと、覚えていたはずだけど、誕生日を思い出すことはできない。私が発見された時、答えられていたのは、当時10歳だという年齢とリアナという名前だけだった。


 私は断片的にしか10歳より前の記憶が思い出せないし、思い出せる事柄も限られている。例えば、どこかの風景や、孤児院に来るまでに学んでいたことの一部だ。誰に教わったかわからないけれど、有名な詩や文字、計算の仕方などは覚えているようで、自然と歌を口ずさむこともある。


 10歳の私が発見されたのは、この近くの湖の傍。横たわっている状態で、通りがかった荷馬車が見つけてくれたらしい。

 らしい…というのは、発見された時の記憶も鮮明に思い出せないので、後で受け入れてもらった孤児院のマルク院長から教えてもらった話だからだ。


 私はすみれ色の髪に金色の瞳で、どちらかというと幼い顔つきらしく、年相応というより、年下に見られることが多いかな。

 身長が低いことも関係があるのかもしれない。

 いっぱい食べてもなかなか大きくならなかったのだから、仕方がない。孤児院では、できるだけ自給自足をして、最低限の食事をすることが常であって、私は毎日お腹いっぱい食べるということはやっていないのだもの。中には将来、騎士になりたいからとなるべくたくさん食べて筋力をつけようとしている男の子もいるから、できる限りそういう子に食事が多くいけばいいなとは思ってしまう。


 私が一命を取り留めた時に家名は言っていなかったので、出自はあまり良くないのかなと思っている。

 村の口減らしに捨てられる子も多いし、貴族の中では愛人の子だからと本妻に恨まれて命を落とす子も多いと聞く。きっと、私もそんな感じで殺されかけたのだろう。


 私を発見した時、衣服も髪も濡れており、傍には足から切り離されたロープと大きな岩が置いてあったらしい。

 足に残っていたロープはまだ濡れていたのにも関わらず、焼き切った痕跡があった。

 だから、荷馬車の御者もどうやってこの少女が助かったのか、私が自分でロープを切り離すことができたから生き残れたのか、それとも、神がかりな力によって助かったのか全くわからないとマルク院長に伝えたそうだ。

 なぜなら、横たわる私の傍にあったのは、大人の頭よりも大きい岩だったから、どうやって10歳の子供が自力で外したのかと、不可解な事が多かったからだ。


 荷馬車の御者も発見した私を見て、発見時の状況から、何かの事件に巻き込まれた可能性を考えて、身元が判明してしまう役所には連れていかず、再び私が危険に晒されることもあるかもしれないと判断して、公にすることなく既知の友人だったマルク院長の孤児院まで連れてきたらしい。


 私が湖にいた経緯は、わからないけれど、御者さんとマルク院長の機転に感謝してもしきれない。

 だって、私自身、人前で使ったことはないけれど回復魔法は使えるし、風魔法が使えてしまうから、おそらく魔力が原因で捨てられたのではないかと予想しているからだ。でも脅威になる魔法ではないとは思うんだけどな。


 だから、教会に行って、自分の魔力特性を知りたかった。

 ひょっとしたら、気が付いていないだけで他にも魔法が使えるかもしれない。


 回復魔法の使える聖女だとわかれば、王宮だったり、医院だったり手に職を持つこともできる。

 聖女は貴重職だから、貴族のお抱え聖女なんかもいたりするし、給料も待遇も悪くないと聞いている。


 つまり、今日、教会で聖女だとわかれば、きっと自立して働くことができるはずだ。


 いつまでも、孤児院に世話になってはいけないと最近は思っていたから、マルク院長からの提案は大賛成だった。


 でも、でも、聖女以外に特性があるなら、それを磨いてその道を切り開いてもいいかもしれないわね!

 聖女の仕事がない時に、副業として何かできるかもしれないし!!

 冒険者と一緒にどこかに冒険にいって、一緒に戦うことも、なんなら回復魔法をかけることもできちゃうかもしれないし!!!


 夢は大きい方がいいわね!


 そう意気込んでいるうちに、教会の前に馬車が到着した。


 マルク院長の後ろに続いて、私も教会の中に入っていく。


 この教会には、何度も来たことがある。孤児院といえども、自分たちで食べて生活していかなければいけないので、教会の掃除や、教会に来た人に寒さを防ぐためのひざ掛けを作って、教会に売ることで生活の足しにしているからだ。


 でも、今日は今まで入ったことのない鍵のかかった扉を開けてもらい、地下の階段を下りていく。

 階段を下りたところに、顔なじみの司祭が立っていた。


「ようこそ、おいでくださいました」


 そう笑顔で出迎えて下さった司祭は、マルク院長と私を小さな控室に案内してくれる。


「今日はリアナさんの魔力特性検査ですね」


「どうぞ、宜しくお願い致します」


 マルク院長の挨拶が言い終わると同時に私も、ペコリと無言でお辞儀をする。


「では、まずはじめに検査の方法についてお伝えしますね」


 司祭は何度も行っているであろう手順を丁寧に説明していく。


「この隣の部屋には、検査を受ける人しか入れません。他の人の魔力が干渉しないように特別な障壁魔法が施されているからです。

 部屋の中央に魔法陣がありますので、そこに立っていてください。測定が終わると目の前の聖水に色が付きますので、それで魔力の有無、得意な魔法の種類がわかります。リアナさんは、もし色が出ましたら、何色が出たのか覚えておいて後ほど教えてくださいね。その色が何の魔力なのか、お伝えいたしますから」


 そこまでの説明は理解できたので、静かに頷くと司祭はそのまま説明を続ける。


「ごく稀ですが、二つ、三つの魔法の特性を持ち合わせている方がいます。そういう場合、色は何色か現れますが、一番面積の大きい色が一番得意な魔法ということになります。例えば、三色現れて三つともが同じ面積の場合、三つの魔法がまんべんなく使えるはずです」


 その後、司祭は少し顔を曇らせて、危険な色の説明を始める。


「時々、呪いをかけられている方がいらっしゃるのですが、その時は呪いが邪魔をして検査の測定を行うことができません」


「そういう場合は、何色になるのですか? 無色でしょうか?」


 私は、呪いという存在を聞いたことがなかったので、念の為、どんな色になるのか尋ねておく。


「色は真っ黒ですね。おそらく魔法の特性も色も現れているのでしょうが、呪いの黒色が邪魔をして測定することができません。そういった場合は、軽い呪いであれば聖女様に解いてもらえば、後日、再検査することも可能です。ちなみに、魔力が全くない時は、無色のままで聖水に色はつきません」


 司祭は、そこまで説明すると検査をする部屋の扉を開けて、私一人が入室するように案内してくれた。


「わぁ~」


 思わず、見た事もないような神聖な場所に声が漏れてしまう。

 地下だというのに、部屋全体が白を基調としているせいかとても明るい。


 きっと、聖水自体がキラキラしているのが、天井や壁に反射しているのじゃないかしら。


「魔法陣てこれね」


 部屋いっぱいの大きな魔法陣を想像していたけれど、実際は両手を広げたほどの大きさしかない小さな魔法陣が床に描かれている。


「まぁ、一人しか測定しないのだから、この大きさで十分なのか」


 そう気持ちを落ち着かせるために、独り言をいうと静かに魔法陣の真ん中に立つ。


 回復魔法がある場合は、何色が出るのかしら…。


 間違いなく回復魔法は使えるので、その色が出る事は予想できていた。あとは、風魔法。自分の身体の中に「気」のような物が流れているのは感じとれるので、その二つの色は出てくるのだと思うのだけど…。


 魔法陣に立ってしばらくすると、魔法陣は強い光を一瞬放ってすぐに消えてしまった。

 どうやら、測定は終わったようだ。


 ゆっくり、目の前にある胸の高さにある聖水の入った器に両手をかけて、背伸びをしながら覗き込む。


 無色でなかなか変化しないと思って、見続けているとゆっくりユラユラと水面が動き出し緑色が出現した。


「緑色は回復魔法とかかしら? …風魔法の色は出てこないのかなぁ…」


 緑一色だったのに、聖水がまた動き出して時間差で色が出現してくる。


「あれ? あれれ?」


 マーブル模様のように緑色、金色、黒色が出現したと思ったら、グルグル~と勝手に混ざりはじめ、

 最終的には黒一色になった。


「え!? 私、呪いも持っているの?!」


 心の中が予想していなかった黒色の結果に胸がザワザワざわめき、不安に駆られる。

 でも、マルク院長と司祭に結果を報告しなければいけない。


「どうしましょう…。これ以上、育ててもらったマルク院長にご迷惑おかけしたくないんだけどなぁ…。まさか呪いを持っていたなんて、考えたこともなかったわ」


 どんな顔で伝えようか思案している間に、聖水は測定前と同じようにキラキラと煌めきを放つ無色に戻っていった。


 嘘も方便よね!

 マルク院長の心労を減らすためにも、そうしましょう!! 

 最初に緑色が出たんだし、全く嘘を言っているわけではないはず!!!


 私はそう心に決めて、金色、黒色は報告せずに緑色が出たことだけを、控え室で待つ司祭とマルク院長に報告をしたのだった。



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