15 探り合い①
私は早速、今朝、寝室まで来てくれた次期宰相のライガーンを部屋に呼び寄せる。
「もうお加減は宜しいのでしょうか?」
呼び寄せたライガーンは、アーノルド殿下の体調を気にかけていたようだ。
「うん。もう大丈夫! 心配かけてごめんね?」
そう言って、ライガーンに謝罪をしておく。あなたのご主人様はいずこかわかりませんが誠心誠意、体調管理はしておきたいと思いますと心に決めて、笑顔で返事をする。
すると、ライガーンが「くっ」といいながら一瞬だけ目をそらすのが見えた。
「実はね、夜中にベットから落ちて頭をぶつけたんだ。それで、記憶が曖昧で……迷惑かけると思うけれど、宜しくお願い致します」
私は想像上のアーノルド殿下は、こんな感じかな?と思いながら、記憶がなくなっているから、多少、おかしな行動をするかもしれないと示唆しておく。
「かしこまりました。そのように侍従や専属護衛を始め、他の者にも伝えておきますので、お気になさらずに。それで言葉遣いや行動がいつもと異なったのですね」
(えっ、私のイメージの黒髪少年は、実際には、こんな話し方をしていなかったということよね? 大失敗じゃないの! さすがに言葉遣いは直さないと不自然かしら……)
「でも、今のままの殿下で構いませんよ。そのうち記憶も戻るかもしれませんし。お身体に障らないように、お過ごしやすい生活を気にせずお送りください」
ライガーンってば、とても優しい紳士なんじゃない! ありがとう!言葉遣いはおいおい直して修正していくわ!
「ありがとう! 早速で申し訳ないんだけど、食事のマナーの本と、最近の起こった災害の情報、ロントクライン公爵領に関する書物か資料があったら、目を通したいんだけど……」
「かしこまりました。執務室に運びいれておきます」
そういうと、ライガーンは退室するべく扉に向かって歩き出す。
「ライガーン殿がいてくれて、本当に良かった! ありがとう!」
そうお礼を伝えると、ライガーンは無言で頷き退室していった。
さぁ、私も執務室に行きましょうか! あ、しまった!
部屋の場所がわからないから、ライガーンと一緒に行けば良かったと少しだけうなだれる。
まぁ、誰かに聞けばいいか。記憶喪失なんだし。
そう気持ちを切り替えて、私は執務室に向かった。
■■■
「どういうことだ?」
俺は、執務室に殿下がご所望の書物や資料を持ち、その題名を見て首を傾げる。
あの何者かは、隣国の間者なのだろうか。このラーン帝国にロントクライン公爵領など存在しない。どこの国だったか、調べる必要がある。
あとは、災害情報だと? 災害とアーノルド殿下に何かしらの関係があるのだろうか。
まぁ、食事のマナー関係は、ボロを出さないために必要な知識なのだろうが、殿下の体内に入っておきながら今さらマナーを学ぶということは、おそらく貴族ではないのだろう。しかも、付け焼き刃で学ぶのなら、悪意があって殿下の身体にいるのではなくて、不可抗力で殿下の身体に入ってしまったという可能性も出てくる。
そうこう考え事をしている内に、殿下の執務室に到着すると殿下はすでに椅子に座っており、手元には紙が1枚置いてある。
「殿下。お待たせ致しました」
「重たいのにありがとう!」
そんな会話をしながら、机の上に持ってきた書物や資料を置くと、同時に彼が持っている紙切れをチラッと盗み見る。
あれは、我が国の言語ではない。筆跡も殿下とは異なり、女性のような繊細な筆遣いだ。ということは、やはり他国からの諜報員の可能性も捨てきれない。
ライガーンは、ラーン帝国の機密文書や情報などは決して見られることがないように、殿下の執務室を後にすると、すぐさま対応に追われていた。
読んで下さり、ありがとうございます!




