13 アーノルド殿下の中の人 【side ライガーン】
アレは誰だ?!
俺は殿下の部屋の扉を閉めて、扉の前で立ち止まる。
アレは間違いなく殿下ではない。殿下ではない、何者かだ。
そう思い至り、内密に魔術師に助言を求めるべきだとすぐさま結論づけ、執務室に向かって早足で歩きだす。
どこでどうなったのか、記憶を探ってみる。
今朝、殿下の扉前に立つ護衛は昨晩から今朝にかけて何も以上は無かったと報告を受けている。
ということは、どこからも侵入ができないとは思うのだが、窓から侵入されたのだろうか。
後で確認してみる必要があるな。
まず、アーノルド殿下には表情がない。
為政者としてということもあるが、たびたび命を狙われており、殿下のご母堂であらせられる皇后陛下が崩御されてからは笑顔を拝顔することは叶わなくなった。
口元は笑おうとしているが痛々しいほど、悲しい目をされて笑うのだ。
自然と花のように笑うお姿は幼少期を最後に見ていない。
そもそも、毎日、殿下の部屋を訪れると殿下の着替えは終わっており、俺が扉を開けると椅子に腰かけて、読書をされて過ごされているのが日課だ。
今朝は、初めてお姿が見当たらないので、寝室と室内で繋がっていて、隣接している書庫にでもいらっしゃるのだろうと思っていた。
今は子供らしい遊びも全くしない殿下に、少しでも遊び心を取り戻して欲しいと思い、冗談でかくれんぼをしていて探しているように見せかけたのだ。
それが、まさか本当にかくれんぼをなさっているとは、誰が思っていようか!!
クローゼットの中に殿下のお身体を見つけた時は、どういった心境の変化で隠れていたのか、子供らしいことをなさる殿下に小さな喜びを一瞬感じてしまった。
それが、どうしたことが私の目の前に姿を現すと、今まで見た事もないような天使のようなほほ笑みで挨拶をされるではないか!!
素晴らしい笑顔に心臓は跳ね上がり、喜んだの束の間、すぐにこの目の前にいるのは殿下ではないと確信をする。
屈託のない笑顔を見せられると、今、目の前にいる人物は危険人物かもしれないと脳内に警報音が鳴り響く。
かくれんぼを隠密の真似だったと、首を横にかしげながら答える仕草を見て、大きな不安に駆られる。
殿下は「うん」などど返事はしない。近しい俺にさえ「はい」と答えるのに。
お前は誰だ?と。本当のアーノルド殿下はどこだと。
何者か暴く機会が欲しくて、身支度の手伝いを申し出てみたが、瞳をほんのりウルウルさせて頬を真っ赤にしながら、上目遣いで断ってくる仕草は、本物の殿下がやっていたのなら、あまりの可愛い仕草で心臓を鷲掴みされるところだ。
でも、何やら女性っぽい仕草にも見える。
アーノルド殿下の中身は女性なのでは・・・という疑問が頭を過る。
殿下を捕らえることもできるが、身体本体は間違いなく殿下そのものなのだ。
中にいる人物が自死しようものなら我が国の尊大な御身を危険に晒してしまうことになる。
アーノルド殿下に恋をしている令嬢が魔術で、入り込んでいる可能性を考える。
恋する乙女は予測不可能な愚かな行動に出る事も、理解していた。痴情のもつれを知らないわけではない。
そう結論づけた俺は、あの得体のしれない殿下をしばらく放置して、中の人物の好きに行動させてみることにする。
こんな現象は、魔術しかできえないと思い、引退した元魔術師団長に早馬を出し、来城するように依頼をした。
誰が殿下の身体を乗っ取っているかは不明だが、ここ数年、見た事もなかった殿下の笑顔を見てしまい、それを頭の中で何度も何度も反芻して思い出す。
あ~、俺、すでに外見だけは殿下の最高に可愛い笑顔に、心を掴まれかけているじゃないかと思いながら、思い出し笑いをしてしまっているのに気が付き、自分のにやけた顔を右手慌てて覆い隠す。
やばい。不敬だとわかっている。殿下の魂がどこにあるのか追及したり、やるべきことは山ほどあるのに、あの殿下乗っ取り犯に少しだけ感謝している自分がいることに、俺は気が付かないふりをした。
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