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115 記憶を辿る

 寝台に横たわりながら、アーノルド殿下だった時のことを思い出す。


「お世話になった方にお礼も言わずに、去ってしまったわね」


 私はラーン帝国に思いを馳せる。アーノルド殿下とシブロン殿下を守るための騎士の方々はライガーンの治癒魔法で少しは、元気になっているといいなと願う。


 それと、先ほど夢を見て思い出しかけている自分の過去についても気になる。


「確か……孤児院にいた時に聞かされた話では、ベルフォン王国の湖で発見されたとのことだったわね」


(思い出した記憶と食い違いがある……。どういうことかしら)

 私が先ほど思い出した記憶は、グライカ帝国の湖に……生贄として足に重りを付けて湖に投げ込まれた記憶だった。


「おかしいわ。私の記憶の中では、私を湖に投げ入れた人たちは、『グライカ帝国に栄光を!!』そう叫びながら、私を冷たい湖に投げ入れたはずだもの……」


 発見された場所は、ベルフォン王国の孤児院の近くの森の湖のそばだとマルク院長からは聞いている。

 それは間違いないはずだ。

(私の身に何が起こったの?!)


 記憶が戻ってきているけれど、なぜ生贄になったのか……その前の記憶はまだ思い出せない。

(ゆっくりでも思い出せたらいいのだけれど……)


 私は、そう思いながら孤児院からこのフォーレス医院に来た時に院長にわたされた細い竹で編まれた箱をチェストの引き出しからそっと取り出してみた。

 箱の蓋に『リアナ 10歳』と書かれた布が四方縫い付けてあり、その懐かしいマルク院長の筆跡を指でなぞってみる。


 私は錠前金具に指をかけて、ゆっくりと蓋を持ち上げた。

 孤児院を去る時に、この箱を渡されたけれどその時は蓋を開けなかった。蓋を開けると小さい汚れた衣類とロープが入っている。

(マルク院長は発見当時に来ていた服と足を拘束していたロープだとおっしゃっていたわね)


 洋服を箱から取り出して、広げてみる。


「確かに……見覚えがある洋服ね。お父様かお母様にねだって買ってもらったのかしら? なんだかとても気に入ってたような気がするわ。しかも……この仕立てだと、貴族のような服のような気がするのだけど」


 フリルのついた襟の端には左右共に小さい刺繍がしてある。

「何だか……この模様知っているわ」

 私は、刺繍の絵を見て記憶の中にも何度もこの模様を見たことがあるのを思い出す。


「どんな意味があったのかしら……」

 私は、左右の襟に向き合った小さい龍の刺繍があるのを見て、何か思い出すかもしれないと思いずっと眺め続けた。

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