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110 似顔絵

 ラーン帝国の第三皇子アーノルドの身体に戻ってきて、体力もすっかり戻っていたと思う。


 ぼくは、月に二回ほど絵を描く時間をとっている。

 これは昔からの習慣というか、母が亡くなってから時々、言葉にできないモヤモヤとした気持ちの持って行き場を絵を描くことで落ち着かせる為に医師に勧められたという経緯がある。


「そういえば……リアナ聖女の身体に入っている時は、絵を描かなかったな」


 ぼくは、ベルフォン王国のリアナ聖女の身体にいた時を思い返す。

 薬草のデッサンなどをしていたからそれが良かったのかもしれない。


 ラーン帝国に戻ってきて……描くは初めてだった。


 ぼくは、いつものように庭園のいくつかあるうちの日陰になっているベンチに座る。

 ここで季節の花や風景、虫や鳥をいつもなら描くんだけど……。


「そうだ!! 今日はリアナ聖女の似顔絵を描いてみよう!!」


 ぼくは、ベルフォン王国で毎日、鏡に映るリアナ聖女の顔を見てきた。

 ぼくの人生に色どりを添えてくれた彼女を忘れないように、記憶が鮮明なうちに描いておこうと思った。



 どれくらい時間が経っただろうか。

 あーでもない、こーでもないと思いながら顔の輪郭や眉、目など思い通りに描けていない部分は何度でも修正した。


 色を付けるところまではやっていない。鉛筆でひたすら彼女に似せていこうと努力する。


 ふと、ぼくの手元に影が差した。

 不思議に思って顔を上げると、マヤゴン魔術騎士団長が後ろから覗き込むような形でぼくの絵を見ている。


「これは……リアナですね?」

「そうなんだ!! なんでマヤゴン魔術騎士団長はすぐにこの女性がリアナ聖女だってわかったの?」


 ぼくは、すぐに彼女の絵だとわかってくれて嬉しくなる。

「……ここだけの話ですが……私の右目は魔眼なんです。だから、私にはアーノルド殿下の身体の横にうっすらリアナの姿も見えていたんですよ」


 ぼくは、驚いてマヤゴン魔術騎士団長の顔を見上げた。

 瞳を左右見比べても魔眼には全く見えない。でも嘘を言っているとも思えなかった。


「……だから、マヤゴン魔術騎士団長は、すぐにリアナ聖女が消えたってわかったんだね!」

「ええ、そうなんです」


「どうかなぁ……似てるかなぁ。彼女の顔を忘れないうちに描いておこうと思ってさ」

「確かに良い案ですね。……でも、リアナはもう少し鼻筋が通って、まつげも長かったと思うのですがどうでしょうか?」


 マヤゴン魔術騎士団長は、顎に手をあてて空を見上げる。

 きっとマヤゴン魔術騎士団長もリアナの面影がどうだったのか、思い出そうとしてくれているのだろう。


「そうだった!! ありがとう! まつ毛は長かったよね。きっと大人になったらもっと美人さんになるよね?」


「そうですね。あとは……目尻は少し垂れ気味だったと思うのですが……」

「確かに!! そうだった!! マヤゴン魔術騎士団長はよく特徴を覚えているね!」

「……そうですね。無事、20年前に帰れているなら安心ですが……彼女の傍は陽だまりみたいな感じでしたね」


 陽だまりか……。ぼくは、直接リアナ聖女と話したことはないけれど、彼女がアーノルド殿下として何をやっていたかという日記から読み取るに、とても思いやりの溢れる人格だったことは文字を通して伝わってきた。


「それとですね……口元は……」

「まだあるの?! 」


 ぼくは、マヤゴン魔術騎士団長と話合いながら、少しでも本物にそっくりになるように、丁寧に似顔絵を仕上げていった。

お読みいただきありがとうございます!


今日は私も絵を描きに行きます。たまにはのんびりと色を塗るのも気持ちの良いものですよね。

いつの間にか顔に絵の具がつくのは何故なのでしょう。

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