108 ティータイム
忙しいライガーンが、ぼくの執務室にやってきた。
「リアナ聖女がやっていた時と同じルーティン、つまり習慣を引き続き行うから宜しくお願いいたします」
ぼくは、昨晩、ライガーンにそのように伝えた。
彼は……ちょっと驚いた顔をしたけれど、ぼくの入れ替わりによる違和感をなくす為にも必要なことなんだと説明すると、すぐに快諾してくれる。
入れ替わり前のぼくなら、ライガーンと一緒にお茶を飲むなんて考えられないんだけれど、まぁ、やったことがないことに挑戦するのが楽しいということは、ベルフォン王国でEランク聖女として過ごした時間の中で学ぶことができた。皇族だから、慎重になるのも大事だけれど、もっと肩の力を抜けばいいのだと、知ることができたなら、実践するのみだ。
「ねぇ、リアナ聖女は毎日、何かしらの訓練の後にこれを食べていたんでしょう? どんな感じだったの?」
ライガーンは、アーノルド殿下に聞かれて毎日どんな感じで過ごしていたのかを教えてくれる。
「彼女はですね、運動して汗をかいた後に甘い物を食べると幸せになると言っていましたね」
「へぇ、どのお菓子が好きだったの?」
「そうですねぇ……大きいケーキは、口から溢れて口の周りを汚しておりましたので、いつも小さめで一口で食べられるような物を好んで食べていましたかね……カロン……とかよく召し上がっていましたね」
ぼくは、ライガーンが窓の外を見て記憶を辿って、懐かしんでいるのを感じとる。
「口から溢れるってすごいねぇ。彼女、子供みたいだったんだね」
「そうかもしれませんね。多分、ケーキなどの甘味をあまり食べたことがなかったのかもしれません。私が一口サイズに切り分けて、口の前までフォークを運んだことも……ありましたね」
ぼくは、ベルフォン王国でのリアナ聖女の生活を思い出す。孤児院で育っているし、甘い物があったとしても、みんなでわけて食べるような生活だっただろうから、口にしたことがなかったかもしれない。
「じゃあさ、リアナ聖女、元の身体に戻っていたとしたら、このおいしいお菓子が恋しくなって苦労するかもしれないね」
「その可能性はありますね。20年前の世界にいらっしゃるので、お届けするというわけにも……いきませんしね」
ぼくは、ライガーンと共通の話題が出来たことがとても嬉しい。趣味らしい趣味もないし、皇族としてやるべきことの話しかしてこなかった気がする。こういう雑談というのか、仕事と関係ない話をするのも、人と関わる上で大切なんだと学ぶことができた。
「そういえばさ、午前中がリアナ聖女が行っていた走り込みも同じようにやってみたんだ」
ぼくは、ライガーンにリアナ聖女と同じことをこなしてみて、どうだったのか説明を始めた。




