106 引き出しの中の日記
王城に戻ってきたぼく、アーノルドはこの一週間寝室で寝て過ごしている。
リアナ聖女がこの身体に入っていた時に、弟のシブロンを助けるために魔力を使い過ぎたのと、僕自身、毒の影響が残っていたのか微熱が続いていたからだ。久しぶりの自分の身体に、まだ何となく馴染んでいないような気がしてしまう。
「殿下。長い間、留守にされていたのですからしばらくはしっかりと休息をお取りください。魔力植物調査での事件で何かわかりましたら、またご報告いたします」
ライガーンは、一日に何度か顔を出して、ぼくの様子を見に来てくれる。
それが、彼の仕事とはいえ、ぼくの身を心から案じてくれていることに気が付けるようになった。
ぼくもリアナ聖女の身体の中に入って、出会ったことのない人と出会い、ラーン帝国の城内ではできないことをたくさん経験することができたせいか……以前より笑えるようになったと自分では思っている。
「以前は……笑い方がわからなかったけれど……今なら、ぎこちなくじゃなくて心の底から笑えるような気がするな」
ぼくは、身体を貸してくれたリアナ聖女に感謝していた。
「このぼくの机でリアナ聖女は勉強していたのかな……」
ぼくは、会ったことのない彼女がどんな生活を送っていたのか気になって、彼女が座っていたと思われる机と椅子に腰をかけてみる。
「ぼく……少し身長伸びたみたいだなぁ」
椅子に腰かけてみると、今まで足のつま先が少ししか床についていなかったのに、少し指全体が床につくようになっている。
ぼくは、机の引き出しを開けてみる。リアナ聖女が何か集めたりしていないかと足跡を辿ってみることにする。
「ん? 何だろう、これ」
まず見つけたのは、一冊のノートだった。
表紙には「アーノルド殿下、おかえりなさい!」
と書いてある。
「これって……ぼく宛てのメッセージだよね?」
中をペラペラっとめくってみると、毎日かかすことなく何かを記載してくれている。
今日のトレーニングメニューに始まり、走り込みで出会った騎士と話した内容、新しく城下にできた美味しいお菓子のお店の情報。あとは、風魔法を使った浮遊魔法がとても苦手だということや、ライガーンと今日はどんなティータイムを過ごしたか……など、リアナ聖女がどのようなアーノルド殿下生活を送ってきていたか詳細に記されている。
ベルフォン王国語で書かれているページもあれば、書けるようになったラーン帝国の言葉で書こうとしたりもしている。
「……リアナ聖女……このラーン帝国語、綴り間違っているよ……」
ぼくは、彼女の書き記してくれたラーン帝国での思い出の一行一行が愛おしく感じて、指で文字をなぞる。ぼくのために……記録をつけて身体が元に戻った時に他の人との会話に齟齬が生じないように配慮していたことが読み取れる。ぼくは彼女が残した日記を何日にもかけて全て読むことにした。
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