104 元に戻った!!
夢から覚めたぼくは、ゆっくりベットから起き上がろうとするけれど、うまく力が入らない。
(困ったな。シャーリー聖女たちに体調不良の連絡をしないと心配して、様子を見にきてくれるだろう)
ぼくは、せめて起き上がってフォーレス医院のシャーリー聖女宛てに休みたいと文を出そうともう一度、身体の向きを変えて起き上がろうとする。
「……あれ?」
ぼくは視界に入った風景がリアナ聖女の部屋ではないことに違和感を覚え、しかも発した声がリアナ聖女の声とは変わっていることに気が付く。
ぼくの発した声が聞こえたのか、近づいてくる足音がする。
(さっき見た夢みたいだなぁ……)
そんな呑気なことを考えていたら、名前を呼ばれた。
「……ア、アーノルド皇子殿下……お気づきになられましたか?」
ぼくの視界いっぱいにライガーンの顔が近づいてくる。
「っぷは。相変わらずライガーンは男前なんだなぁ」
ぼくは、右手を伸ばして彼の頬っぺたを触ってみる。
そこで、数秒、ぼくの思考が停止する。
目の前にいる男性は、紛れもなくライガーンだ。ちょっとやつれた気もするけれど、久しぶりすぎて忘れてしまった。
いや、今はそんなことはどうでもいい……。
「アーノルド皇子殿下。私のことがお分かりになるのですね?」
そう聞かれて、静かにぼくは頷く。
「ぼ、ぼくは……戻って……来られたのか?」
自信は無いけれど、ライガーンの顔が目の前にあるということは、彼が20年前のベルフォン王国に迎えに来てくれたか……ぼくがラーン帝国の元の時代に戻ったのか、どちらかしか考えられない。
「はい……ご無事で何よりです……」
ライガーンは顔を歪めて、ぼくの手を両手で優しく包んでくれた。
「……そうか……戻って来られたのか……」
「おかえりなさいませ。お会いしたくて、たまりませんでしたよ」
ライガーンの目元が光っているのを見て、昨日見た夢も夢ではなく、あの時すでにラーン帝国に戻ってきていたのだと、遅ればせながら気が付いた。
「殿下。お話したいことは山ほどございますが……まだ、体調が宜しくありませんので、後ほど枕元にて語り部のように報告させていただきますね」
さすが、ライガーン。泣きながらでも、仕事をこなそうとするところは健在のようだ。しかも主人であるぼくを休ませてくれそうにないところも……まぁ、積もる話があるのはぼくも一緒だから、彼の報告を静かに聞きながら横たわっておこう。
まずは、なぜぼくの身体がこんなにも重たくてしんどいのか……それが一番知りたいかもしれない。
リアナ聖女は、きちんと元に戻れたのだろうか……。ぼくが戻ってきたのだから、彼女も元に戻れていると信じたい。……魂が消滅してしまったわけではないのだと、今はそう信じることにした。
ライガーンは、ぼくをゆっくり起こすと水を飲ませてくれる。甲斐甲斐しく世話をしてくれる姿を見て、幼い頃からぼくが熱を出すとライガーンがベットに付きっ切りで看病してくれていた時の姿を重なって、嬉しくなる。
「ライガーン。いつも傍にいて、看病もしてくれて……本当にありがとう。この言葉を一生伝えられないんじゃないかと思って……後悔しながら過ごしていたんだ。また会えて嬉しいよ」
水を飲んで落ち着いたぼくは、いつ言えなくなるのかわからない不安定な未来ではなくて、今、目の前にいる間にライガーンに感謝を伝えておきたかった。
照れくさそうに、顔を横に背けたライガーンがとても新鮮に見える。
「あ、ひょっとしてまた泣いているのかい?」
「……殿下。違います。目にゴミが入っただけですので、しばらくお待ちください」
ぼくは、こんな冗談が言えるようになった自分に驚いた。つまらないプライドは……どこかに置いてきたらしい。こんな自分がちょっと好きだと思える。これも、リアナ聖女の……彼女のおかげかもしれない。




