102 リアナ聖女、ロントクライン公爵家へ③
「いや~。お引止めして申し訳ございません。シャーリー聖女からいつもお名前は聞いているのですけれど、あなた様がリアナ聖女で間違いございませんか?」
「はい」
「孤児院から我が領にやってきたとお聞きしていましたが、もう仕事にもなれたようで安心いたしました」
ぼくは、リアナ聖女の生い立ちを思い出していた。寮の彼女の机の中に、中身は読んでいないけれど孤児院の院長先生からリアナ聖女宛ての手紙を何度か受け取ったことがある。
やはり、リアナ聖女は孤児院で育っていたのか……。
シャーリー聖女やトッシーナ聖女にも孤児院に手紙を出しているのか聞かれたことがあったから、そうではないかと予想はしていたけれど、孤児院出身だったのか。
彼女もぼくと同じように寂しい思いをしながら、生き抜いてきた人物なのかもしれないと少しだけ思いを重ねてみてみた。両親からの愛情も受け取れていないぼくと、何となく似ているような気がして孤独を感じて育ってきているのは、第三皇子だからではなくて、どこにでもありふれていることだと感じさせられた。
「実はですね……」
孤児院から移って来たこと以外にも気になることがあるらしい。
「はい、何でしょうか」
「以前、我が家の門番に報告書を届けていただくのを目撃したことがありまして。その後、シャーリー聖女にお聞きしたのですが、風魔法を使えるのはリアナ聖女しかいらっしゃらないと伺ったものですから、どういった魔法なのか気になりまして、いつかお会いしてみたいと思っていたのです」
そうか。この公爵様は風魔法が気になっているからぼく……というか、外見はリアナ聖女なんだけれども、呼び止めたのか。ぼくは、風魔法に興味を示している公爵の出方を伺った。あまり、リアナ聖女に興味を持たれても、今後、身体が元に戻った時に彼女が困るかもしれない。
「そうなのですね。私は簡単な風魔法しか使えませんので、あまりフォーレス医院でお役に立てることは少ないのですが、時々、風魔法を使うことがございます。あまり魔力が多くないので、本当にたまにしか使わないのですが……」
魔力が少ないというのは、もっぱらの嘘だ。でも、リアナ聖女が高位貴族に目を付けられてしまうのは避けたいと思っている。ずっと元に戻れずにぼくかもしれないけれど、常に身体が元に戻ったことを想定して物事を決めておきたいと思っている。
でも、風魔法の訓練をしておけば、彼女がこの身体に戻って来た時に身体が風魔法に馴染んで便利になって、彼女の役にも立てたらいいなと微かに思っている部分がある。だからこそ、時々、文書や薬を届けるために風魔法を使っているのだけれど、ぼくの一方的な風魔法の押し売りなので彼女には必要ないかもしれない。
「そうなのですね。もし、宜しければ、どのような感じにこの報告書を飛ばしているのか少しだけ見せていただけませんか?」
「……わかりました」
報告書を空中に浮かすくらいなら、ベルフォン王国の風魔法の属性を持つ騎士でもやっているはずだ。そんなに難しくはないから。
ぼくは、公爵様に手渡された報告書を、今一度手に取り、空中に浮かす。室内では少し狭いけれど、問題はないだろう。
「このように空中に浮かして、飛ばしているだけですよ」
ぼくは、応接室から廊下の方に報告書を飛ばす。そして、開いている窓から一度、外に報告書を出してから、再び、別の窓から報告書を室内に取り込み、公爵様の目の前まで戻す。
「わ~。本当に素晴らしいコントロールですね。お見事です」
「いえ、それほど難しくはありません」
他の人に取られたり、鳥などの襲撃に合ったり不測の事態が起きた時に、防犯上つけている防御魔法は今はかけずにただ飛ばすだけに留めておいた。
きっと、防御魔法が以前かけて配達したのも、気づかれているかもしれない。でも……これ以上、手の内を見せるのは危険だと判断したぼくは、この後に予定があるからと断りを入れて早々に公爵家を引き上げた。
「危なかったな……」
ぼくは、無事にうまく公爵家を後にすることができて、ホッとしている。
あの風魔法は、軍事にも使えるし、爆弾を運んだり、悪用しようと思えば応用ができてしまう。リアナ聖女にできることが多いとわかれば、軍の手伝いをお願いされてしまうかもしれない。軍に子飼いにされる可能性だってでてきてしまう。きっと、彼女はそういうことは望んでいないんじゃないかと思う。だって、聖女なんだから回復魔法を上達させることに尽力したいに違いない。
ぼくは、リアナ聖女がどんなことを考えて、行動する人物なのか直接会うことはできないけれど、いつか彼女と会って話してみることができたらいいなと心のどこかで思った。
いつもなら、空中を風魔法で浮遊して移動して帰るところだけれど、今日は控えておこう。
フォーレス医院に戻ったぼくは、いつものように忙しい先輩聖女の代わりに店番をして、食中毒の対応に追われてたシャーリー聖女、トッシーナ聖女、タチア聖女にこの日は会う事もなく閉院の時間を迎え、帰路についた。
まさか、この日を境にお世話になった先輩聖女に挨拶をすることなく、ベルフォン王国を急に去る事になるとは……ぼくは予想だにしていなかった。
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