101 リアナ聖女 ロントクライン公爵家へ②
「さてと……報告書は持ったし、お金も持った。よし、出発しよう!」
リアナ聖女の身体の中に入り込んだままのラーン帝国第三皇子のアーノルドであるぼくは、お遣いに行くのを楽しみにしている。皇子の時に体験できなかったことが、リアナ聖女の身体であれば、体験できるからね。
「ん~。いつも配達の時は風魔法を使って報告書を飛ばすだけの時もあるけれど、今日は辻馬車に乗って、街中を見ながら行ってみようかな」
いつもは早く配達をすることを心掛けているから、報告書だけビューーーーンとロントクライン公爵家邸の門番まで飛ばしてしまうのだけれど、上からの景色とみんなと同じ目線で見えてくるものは違うはずだ。今日は昼過ぎまでにフォーレス医院に帰ればいいのだから、辻馬車に揺られながら行くのもいいかもしれない。
季節を感じながら移動するのも悪くない。
「よし、じゃあまず辻馬車の乗り場まで向かって馬車に乗り込もう」
ぼくは、シャーリー聖女や他の先輩聖女に辻馬車の乗り方は教えてもらっているから、もう一人でどこへでも馬車を使って移動できるような気がしてしまう。土地勘さえついてしまえば、方角がわかるし難しいことは何もない。
無事、辻馬車に乗り込み、隣に座った子連れのご婦人と会話を楽しむうちに、ロントクライン公爵邸の一番近い場所で馬車を降りる。あっという間に目的地についてしまいそうだ。
今日は、今、ベルフォン王国で子供たちが好んで口ずさむ歌を馬車の中で隣にいた小さい子に教えてもらった。
そういう何気ない会話というものは、ラーン帝国にいる時にはできなかったから、とても新鮮だった。身分を気にしなくてもいいし、話かけても相手も畏まることなく返事をしてくれる今の聖女という立場がとても充実している。
ロントクライン公爵邸の前まで行くと門番に挨拶をして、シャーリー聖女から預かってきた報告書を手渡す。すると、門番の顔色が変わったことに気が付いた。
「フォーレス医院の方でいらっしゃいますね? 恐れ入りますが、公爵様に中までご案内するように申し付かっておりますので、宜しくお願いいたします」
「……はい」
あれ? シャーリー聖女からは何も聞いていないけれど、何か口頭でも報告が必要な件があったのだろうか。ぼくは、一瞬、戸惑う。
姿はリアナ聖女だけれど、中身がラーン帝国の皇族なのだから、あまり他国の高位貴族の方とは接触しないように何となく避けていたんだけれど……仕方がない。用向きだけを確認したら、すぐにここから離れよう。間者ではないけれど、自分自身が聖女に変装している間者みたいな気持ちになってきて、落ち着かない。
門番に促されて通された先には、背筋をピンと伸ばした執事長がリアナ聖女にも丁寧に挨拶をして応接室に通してくれる。
確か……ロントクライン公爵の現当主は平民にも治療を受けやすい環境を整えるように、身分の低い人たちや領民を大事にする方だと聞いている。恐らく、身分にとらわれない考えもお持ちの有能な人物に違いない。
ぼくが応接室に通されてから、ほどなくして公爵家当主が応接室に入ってきた。
見た目は、20代後半だろうか。口ひげでも生やしていそうな、もっと年上を想像していたので意外と若い人物で少し驚く。
応接室では、飲み物を出され報告書を届けてくれてありがとうと言ったことや、当たり障りのない会話をするに留まる。
「あの……私、予定がございますので……」
ぼくがリアナ聖女のふりをして、そろそろ帰ろうかと思った矢先、慌てて公爵はぼくを引き留めた理由を話始めた。
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