100 リアナ聖女、ロントクライン公爵家へ①
ぼくは、アーノルド・スラサク・ラーン。
今はベルフォン王国のリアナ聖女の中に入り込み、Eランクの聖女としてフォーレス医院で働いている。
ぼくの母国ラーン帝国から、このベルフォン王国のしかも20年前の時代に来ていると気が付いてから、しばらく経った。
もとの時代、つまり20年後のラーン帝国に戻れるかは……正直わからない。
でも、いきなりベルフォン王国のリアナ聖女の身体に入り込んでしまったのだから、その逆、つまりいきなり元の10歳のラーン帝国第三皇子のアーノルドの身体に戻る可能性はゼロではないと思っている。
仕方がない。いつ帰れるかはわからないけれど……せっかく皇族から普通の……と言ったら失礼になるだろうけれど、民の立場になって生活ができているのだから、いつか元の身体に戻った時に活かせるように、できるだけいろんな経験をしておこうと思って過ごしている。
ひとまず、リアナ聖女として今後も……戻れなかったら永遠にだけど……聖女として生きていくことも視野に入れて活動してみよう。
あと一つ、気になっているのは以前、フォーレス医院にやってきた怪しげなフードを深くかぶった男性だ。あの男は、ぼくがアーノルド殿下だと知っていた。……ということは、あの男なら元の時代への帰り方を知っているかもしれない。
だから、もしあの男が次に目の前に現れたら、捕まえて問いただす必要がある。ひょっとしたら、あの男が何かを仕掛けたせいで、こんなへんちくりんな状況に陥っているのかもしれない。
いつまでも嘆いていてもどうしようもないから、ぼくはリアナ聖女として一生懸命に生きてみることにした。きっと、ラーン帝国のアーノルド殿下がいなくなっても、悲しんでくれるのは恐らく数人だろう。
ずっと傍にいたライガーンが悲しんでくれていたら……少し嬉しいかな。彼に大事にしてもらっていたとは自覚している。感謝の気持ちも伝えられずに、ここに来てしまったから、もし万が一、もとの身体に帰ることができたのなら、彼やお世話になった人にもっと感謝を伝えようと思う。
自分のことに必死で、何も伝えられていなかったことに、恥ずかしながら会えなくなってから気が付いた。
「さぁ、今日もリアナとして頑張るかな」
ぼくは、いつものように届くことはないとわかっているけれど、日課になっていた郵便受けを確認してから、フォーレス医院の扉を開ける。
今日は、確かロントクライン公爵家へ月に一度のフォーレス医院の報告書を届ける日だ。いつもシャーリー聖女と共に馬車に乗って、報告に行っている。
「おはようございます。シャーリー聖女、辻馬車の乗り場に何時ごろ向かいますか?」
ぼくはロントクライン公爵家への訪問約束時間を知らなかったので、シャーリー聖女に聞いてみる。
なぜなら、彼女はあたふたしていて今すぐにでも外出しそうな勢いだったからだ。
「あ! そうだったわ。今日はロントクライン公爵家に報告書を持って行く日だったわね。うっかりしていたわ」
そう話ながらも、彼女は薬瓶をカバンに詰めてどこかに飛んで行きそうだった。
「リアナ、ごめんなさい。今日は一人で行ってもらえるかしら? もう行き方は覚えているわよね? 今から出てもらえば、ちょうど約束の時間くらいになるから、そこの机に置いてある報告書を持ってお昼すぎくらいに戻ってきてくれるかしら? ちょっと小さな子供たちが食中毒みたいで、急に行くことになったのよ」
「リアナ聖女。私たちもシャーリー聖女に同行するから、今日はフォーレス医院に人がいない状態になるけれど、宜しくお願いね!」
「かしこまりました。昼すぎにフォーレス医院に戻るように報告書をお渡ししたら、戻って参ります」
「お願いね!!」
そう言うと、シャーリー聖女、タチア聖女、トッシーナ聖女の三人は先に出発して行った。
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