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プロローグ

どうぞ宜しくお願い致します。

 薄れゆく意識の中、私が最期に見たもの。


 湖面の上にあるであろう、明るい光。

 それがどんどん遠ざかり、身体は深くて暗く冷たい闇に引きずり込まれていく。


 僅かにまだ届いている光に手を伸ばしたいのに、のばすことさえできない。

 足に括られたが重たくて硬い何かが、無常にも最期の光さえ奪おうというかのように、ものすごい勢いで

 湖底へと引っ張っていく。


(あぁ、私、後ろ手に縛られているのだわ…。なぜ。こんなことになったの…)



 途切れる意識の直前。

 どういうわけか、頭の中に声が響いた。


「愚かな人間ども。欲のために贄を寄こすなど。

 憐れな娘よ。真実も知らぬままに、死んでいくとはな」



 私が最期に見たのは、美しく金色に光る二つの眼光だった。



 ■■■



 その日、孤児院のマルク院長から、洗濯が終わったら院長室に来るように呼ばれていた。

 今日は天気も良いし、早く洗濯物が乾きそうだわとルンルンした気持ちで院長室に訪れる。


「リアナ、洗濯、料理、掃除の家事は全て完璧にできるようになったようだね」


「はい。記憶が曖昧だった私を育てて下さったマルク院長には、感謝してもしきれません!! 家事も覚えましたし、下働きでも何でもできます! 早く自立してこの御恩をお返ししていきたいです!」

(ふふふ。早く自立して思うままに生きられる自由が欲しいのよ……とは言えないけど、感謝しているのは本心ですよ!)


「ははは、リアナの元気な声に、こちらが元気を分けてもらっているようだよ。ゆっくり大人になれば良いと思っていたのに子供の成長は早いものだといつも感じさせられるね」


 白髪頭の男性は、自分の左胸を右手で軽く二回たたいて、身体に見えない健康パワーを受け取っているのだというかのような仕草をする。

 椅子に腰かけたマルク院長のすぐ横には、グレーがかった髪を後ろにひとまとめした、院長よりも少し若く見える女性が立っている。


 私には、両親の記憶がないけれど、もし母親という存在がいるとしたら、こんな優しい感じなのかしら。孤児院に暮らすみんなが、私にとっての家族のような物だ。ここで喧嘩しつつも、みんなと仲良く6年間過ごしてきたから、とても大切な場所になっている。

 副院長を母親に見立てて、記憶にはないけれど幼少期に育ててくれた家庭の雰囲気を想像しながら、顎髭をなぞっているマルク院長の次の言葉を待つ。

(ついに、私にもあの日が来たのでしょう? さぁさぁ早く提案してくださいな!)


「リアナは恐らく今年が成人する16歳の年齢になっていると思うから、一度、教会に行って魔力があるのかと、魔力が少しでもあるなら、どんな特性があるのか見てもらおうかと思っているんだが、どうだろうか。何か得意とする魔力がわかれば、今後その分野の職についてもいいと思うのだが」


(キターーーーーー!!!)

 私は心の中で力こぶしを握って、表情に出さないようにして喜びを噛みしめる。


「魔力特性検査ですよね? もちろん、自分の向いている職業を私も知りたいので、是非お願い致します!」


(むふふふ、ずっと待っていたのよ!! この検査をね!!)


「ははは、まだ役に立つほどの魔力があるとはあるとはわからないのだから、期待しすぎてはだめだよ」


 マルク院長の目を真っ直ぐ見て答えた後、院長の向かい側に座っていた私は、勢いよく立ち上がって一礼をした。そんな逸る気持ちの私に、院長は期待を持ちすぎるべきではないと、軽く諭してくれる。きっと、今までマルク院長が見送ってきた成人を迎えた孤児の中には、魔力があると期待しすぎて検査結果にがっかりしたということが何回かあったのだろう。


 マルク院長は副院長に軽く、目で合図を送る。


「かしこまりました。院長、馬車の手配をして参ります」


 私の返事が前向きだろうと予想していた副院長は、すぐさま院長室を退室して、馬車の手配に向かった。

 何も言わなくても、院長の考えがわかるくらい副院長とのつき合いが長いのだということが、誰の目にもすぐにわかる。

 マルク院長は、とても気さくな方だけれど、どんな小さな子供にも相手の意志を確認してくれるところがある。意に沿わないことはできるだけしないで、本人がどう感じて、何をしたいのかと時間を割いてまで聞き取りをしてくれる。もしここで、私がずっと孤児院で暮らしたいと申し出れば、それも叶えてしまうくらい優しい院長なのだ。みんなこの孤児院に恩返しがしたいから、自立してしまうけどね。


 私はそんな院長に育ててもらって、本当に毎日が幸せだった。


「リアナ、もし何も魔力がなくても不安にならなくていいんだよ。成人したからと無理して孤児院を去る必要もないんだからね。リアナがいるだけで、小さい子供たちは安心するし、私だってその笑顔で寿命が延びている気持ちになるのだから」


 マルク院長は、私に魔力が無かった時に落ち込まないように、先に安心する言葉をかけてくれる。


「大丈夫です! どんな結果でも私は受け止める心の準備はできていますから」


 私は、自信を持って魔力がないと落ち込むことはないと、右手で胸を軽くたたいて遠回しに返事をする。

(だって、私、間違いなく魔力があるもの。誰にも話したことがないけどね!)


 私は、孤児院での集団生活を円滑にするために、あまり自己主張は今までしてこなかったし、その方がいいと思って、自分の気持ちをあまり表には出して来なかった。

 自立できれば、自分の思うように生きていけるし、自由も多くなるに違いないと私は考えて、未来に想いを馳せていた。


 こうして、私は魔力特性検査を受けて、自分の使える魔法を調べてもらうことが決まったのだった。

たくさんの小説の中から、見つけて下さりありがとうございます。

面白いと感じてくださったら、ブックマーク、⭐︎評価をして下さると励みになります。


読んで下さり、ありがとうございます(о´∀`о)


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