第4話 未解決事件専門の騎士団特別捜査室
遙か昔、地上と魔界の行き来が自由だった頃、地上は人間以外にも様々な種族が暮らしていた。しかし魔王はそんな世界のあり方を疎み、地上を黒薔薇で覆い尽くして、死の楽園を作ろうと考えたそうだ。
地上の危機に、女神の生まれ変わりである聖女が歌魔法を駆使して地上の黒薔薇を浄化した。魔王は聖女の歌声に惚れ込み、対話を求めて地上に訪れる。
そこで聖女はいかに地上が素晴らしいところかを、七日七晩歌いながら語ったという。
その努力により、魔王は人間の作り出す歌と芸術を気に入り、庇護下の末席に加えたのだ。
それ以降、魔王は魔界と地上の行き来に厳格なルールを取り決めて、人間の不利益にならないよう地上に残る人外を厳選した──それが今の人外貴族である。
魔王は今後地上に黒い花、特に黒薔薇は咲かせないと約束して魔界だけに咲く花にした。それは魔王が聖女に対して敬意と愛を込めた証でもあったという。
だからこの国の中央広場には、聖女に黒薔薇を捧げる魔王のオブジェがある。魔王は骸骨姿で騎士服に身を包み、聖女はウエディングドレスのような美しい服に身を包んでいる。
ちなみにこの中央広場の《聖女と魔王像》は観光名所の一つで、とても人気だ。馬車の窓からオブジェを見ると、地元民でもテンションが上がってしまう。
「んん! やっぱり《聖女と魔王》のロマンスは、いつ読み返しても素敵だわ」
「くだらない。これだから恋愛脳は……。そんな展開は恋愛小説だけだ(くっ、俺だってそんなロマンチックな展開に持ち込めるなら、実行しているからな!)実際は政治的な側面などもあって」
何故か私の隣に座っているイザークはいつもの黒い騎士服に身を包み、両腕を組んで憮然とした表情をしている。眉目秀麗で美しいのだが、紡がれる言葉は嫌味のオンパレードだ。この程度のジャブならスルーできるようになった私は大人になったと思う。
「(黙っていたら格好いいのにな)あー、はいはい。そうですね。物語と現実は違いますよ」
「(今日は白のブラウスに紺のフレアスカート、黒タイツにブーツって、動きやすいとは言えデートみたいな服装かよ!? 可愛すぎるだろうが。……落ち着け、俺)……ったく、どうせ読むなら国指定のガイドブックでも読んだらどうだ?」
「そうですね。それと文句ばかり言うのでしたら次回から、現地集合で結構ですので(毎回、拠点に向かう度に同行するなんて息が詰まるしストレスが溜まるもの!)」
引き攣った笑顔で嫌味に答えたら、イザークは途端に不機嫌になる。
「は? お前の護衛をしてやっているのに、なんだよ、その言い方は(どうせ俺以外の騎士の奴らには、愛想よくするんだろうが)」
「護衛なんて頼んでないわ。仕事なら騎士として歌姫として接してくださらない? 正直、馴れ合いたくないですし、そこまで嫌悪されるのなら、別の騎士の方に」
「お前は──俺じゃなくて言っていうのかよ」
「──っ(その質問は卑怯だ)」
切羽詰まった口調で、ジロリと私を睨んだ。なぜ毎回責めるような言い方をするのだろう。いつもなら目くじらを立てて反論していたが、期間限定とはいえ仕事の同僚となるのだ。大人の対応をしなければ、と自分に言い聞かせる。
それにこの言い回しはたぶん、メアリーっぽいだろう。
「ええ、そうですわ。仕事ですから私情を挟む方では信用出来ませんもの(私が仕事の同僚だというのは苛つくのは分かるけれど、それで八つ当たりされる気も、サンドバッグになるつもりもないわ)」
「そうか、よ」
「!?」
急なカーブでよろける私をイザークは抱きしめて支えてくれた。手に持っていた小説や本が床に落ちる。
「──っ!」
ウッディノートの香りとガッシリとした体に、心臓がドキリと跳ね上がる。
口は悪いし、何かと突っかかってくるのに、こういう時のイザークは驚くほど紳士的で、騎士なのだ。
事故とは言え、抱きしめられているのが夢のよう。
「大丈夫か」
息の掛かる距離で、声が聞こえる。それだけで心臓が飛び出しそうだ。
「(お、落ち着け、自分!)え、ええ……ありがと」
「ったく、いつまで経っても(目が離せなくて、俺が惚れたまま……)お前は変わらないな」
「(はぁ。なんでこんな仲が悪いのに、未だに心から嫌いになれないんだろう)むっ」
感謝の言葉が一瞬で引っ込む。こうやって一々突っかかるからいけないのだ。
床に散らばった本を拾いながら「そうですね」と言葉を返す。張り合うからいけないのだと自分に言い聞かせる。
床にぶちまけてしまった本を拾い上げていると、分厚い資料が目に留まる。『極秘』と書かれた判が押されていた。
「今回の被害者五人分の調査資料だ。……無理にお前が読む必要はないからな」
「仕事なのだから読むに決まっているでしょう!」
ああ言えばこう言う。本当に私たちは同じやりとりばかりで、前に進まない。
(今さら仲良くなんてする気がないってことだったら……嫌だな)
そう思いながらも気持ちを切り替えて、資料に目を通す。
楽しんで頂けたなら幸いです( *・ㅅ・)*_ _))
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次回はお昼過ぎを予定しています!