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第3話 私が大好きな人は、私が大嫌いなようです

 部屋に現れたのは、黒の騎士服に身を包んだ騎士団長ロバート・ギャラガー様だ。

 灰色の髪に、綺麗な青い瞳の御仁で、ガタイもしっかりした騎士の中の騎士。全長二メートルとかなりの巨漢(マッチョ)なのだが、紳士的で、おおらかで明るい。

 この国の英雄でもある彼は気さくかつ、大人気の存在である。そんな彼の登場により空気がガラリと変わった。


「よう、メアリー嬢。イザークがまた暴走したようですまないな」

「いえ。でも助かりましたわ(いつ見てもロバート様は格好いいわ。こう、いるだけで空気が明るくなるし、話しやすい!)」

「(コイツはまた……本当に昔から団長が好きだな)……団長、第三王子の事情聴取は終わったのですか?」


 イザークは不機嫌さを隠しもせず、ロバート様に声をかける。対してロバート様は「ああ」と素っ気なく答えたのち、申し訳なさそうに私に向き直った。


「ロバート様?」

「……メアリー嬢、歌姫である貴女があの場にいたからこそ、被害は最小限に抑えられた。まずはそのことに感謝を。それと悪い噂が拡散されていることについては、陛下と宰相閣下、そして教会上層部も含め、可及的速やかに撤回と正しい情報を国中に公表することが決定した。今は窮屈かもしれないが、今しばらくここでメアリー嬢の身柄を保護させて欲しい」


 ロバート様は懇切丁寧に、私の欲しい情報を教えてくれた。

 そのことに少しだけホッと胸をなで下ろす。


「まあ、それで私は釈放されなかったのですね。てっきり事情聴取で拘束されているのかと思っていましたわ」

「……イザーク、事前に説明をしていなかったのか?」


 ロバート様はニッコリと笑っているが、目は笑っていなかった。凄まじい圧にイザークは目を逸らす。


「言えば余計に不安にすると思ったので……情報共有を怠ったのは、申し訳ありません」

「そうだな。お前はもっと素直に思っていることをメアリー嬢に話したほうがいいぞ。じゃないと後で後悔する」

「はい(……それができれば現状でこうなってはいない、と言いたい。だが、確かに……このままではダメ、だな。素直に好きだと、お前が心配で大切だ──って、()()()()()()()()()()()()、コイツは受け入れるんだろうか)」

(ロバート様相手だとイザークも素直なのよね。……いや、態度が悪いのは私だけ。そう考えると凹むなぁ。イザークがもう少し捻くれた言い方や、嫌味を言わなければ……私だって……)


 口は悪いが心配性で、不器用だけれど困った時にはいつも助けてくれた。私の好きだった幼なじみは、たぶんもういないのだ。少なくとも、その片鱗を私はもう見つけられない。

 それは私自身(メアリー)が変わってしまった──と言うのもあるのだろう。

 イザークの知っていたメアリーはいなくなって、マガイモノのメアリー()になった、あの日から歯車は狂っていたのだ。


 六歳の時に両親が一ヵ月ほど行方不明になった。世界中を飛び回る商人だった両親の身に何か起こった──と、子供ながらに不安になり、その孤独にメアリーは耐えられなかったのだ。


 彼女は壊れかけた心を保つため、自分の中に別人格、蓮見礼華(はすみれいか)を作り出した。と言っても、前世の私の記憶を引っ張り出してきただけなのだが、メアリーはホッとしたのだろう。


 本来は彼女を支える影として、二重人格になるはずだったけれど、無印のメアリーはそれを望まず、礼華の記憶と人格がメアリー(彼女)と混ざり合って、()()()()()()()


(メアリーも礼華も私であることは変わらないけれど、この異世界で存在していた無印の、イザークが好いていた──メアリーじゃないのは確かね)


 以前のメアリーならイザークの素っ気ない態度にも、捻くれた返しはしなかった。

 以前のメアリーならイザークの嫌味にも、過敏に反応せずにやんわりと対応したはずだ。気が強くて、口が達者で、人に頼らない、可愛げのない女の子だと自覚しているのに、イザークの前では上手く猫を被れない。

 だから顔を合わせる度に反発し合う。分かっていても合わないのだから、しょうがないのかもしれない。


 それに今の私だからこそ、前世の知識や経験、能力を駆使して歌姫になることができたと言ってもいいだろう。無印のメアリーだったなら、こうはならなかった。だから後悔はしていない。


(いっそイザークと遭う頻度が減れば……。んー、でも教会経由で来る騎士団からの協力要請は断りたくない。何より捜査協力は大事な臨時収入になるし……)

「さて、今回の事件はどうにも裏がありそうだ。メアリー嬢。申し訳ないが、今回の事件もまた、貴女の力を借りることになると思う」

「教会側とオーナーからの承諾を得ているのなら、私にできる範囲でお力添えしますわ」


 私の返答にロバート様はホッと胸をなで下ろすが、イザークは眉間に皺を寄せてあからさまに不機嫌になる。素人かつ戦力外の歌姫が事件捜査に加わるのが許せないのだろう。


「二人とも知っていると思うが、この地上で黒い花、特に黒薔薇が咲くことはない。今回の事件で開花した黒薔薇は、魔法陣と曲を使って魔界の花を特殊召喚したことで芽吹いたものだというのが分かった」

「《歪曲》による強制召喚ですね……」

「そんなことができる人間がいるとは思えないな」

「ああ。……死亡者は現在五人だが、犯人と思われる黒髪のヴァイオリニストを逃した今、被害者が増える可能性は高い」


 第三王子が話していたリチャード・アランディを含めた五人の死亡原因は、体内から黒薔薇が開花したことで魔力と生命力の全てを根こそぎ奪われたような飢餓死だったそうだ。その発動条件が私の歌にあるというデマだが、それもロバート様は調べてくれたようだ。


「調査の結果、君の歌声を聞いたことで黒薔薇が活性化したのではなく、君の歌声を聞いたからこそ、黒薔薇の活性化を遅らせ、被害者たちを延命させていたことがわかった。君の歌声は教会公認の生命の賛美歌であり、祈りでもある。黒薔薇を完全に浄化できなかったのは、体内の奥深くだったことと歌劇場に一度だけ足を運んだだけだったからだ」

「第三王子の発言が早々に撤回できそうでよかったです!」

「──と言うかあの馬鹿王子が、それに気付いたこと自体が不自然じゃないか?」


 イザークの言いたいことは何となく分かる。王子を唆した人物が裏にいるのではないか──と言うこと。そしてその人物は私を嵌めるつもりだった。


(あるいは教会や歌姫そのもののイメージを下げるため?)

「こちらの調査に《死の商人》あるいは、魔界の人外が関わっている可能性もある」

「魔界の……人外が?」

「ああ。コレは非公開情報だが、八年前に地上と魔界の境界が揺らいだことがあり、そこで一部の魔界の人外が地上に出てしまったことがあってね。その人外の一人が若い騎士達を殺して逃走している」

(八年前って、私の両親が離婚した年……。自分のことでいっぱいっぱいだったけれど、そんなことがあったなんて……)


 イザークの表情がさらに険しくなったが、私と目が合うと不機嫌なまま顔を逸らしてしまった。


「それらの経緯も含め、教皇聖下及び国王陛下から専門部隊を作るように勅命が下った。イザーク、そしてナイトメア伯爵、歌姫メアリー嬢の三人を軸に、未解決事件も含めて対応をしてもらう」


 唐突な事例に、一瞬耳を疑った。


「は? はあああああああああああ!?」

「え? ええええええええええええ!?」

「おお、息ぴったりだな」

「いやいや! なんでそんな危険な任務に、この猪突猛進女を!?」

「ロバート様! なんでそんな大事なお仕事で、人選ミスをしたんですか!?」

「ハハハハッツ! 最高権力者の独断と偏見だ! 諦めろ!」

「うわぁあ……」

「くそっ」


 教皇聖下の直属の部下であるグラート枢機卿が私を指名した理由はなんとなく分かってしまったが、それなら是が非でもイザークは外して欲しかった。

 そしてナイトメア伯爵が選ばれたのは、別名《呪い食いの伯爵》と呼ばれ、人外貴族だからだろう。


(ナイトメア伯爵まで出てくるとなると、王家と教会が本腰を入れて未解決事件の解決を目指すことにしたのね。まあ、不可解な事件がここ数年で一気に増えたもの。それが人外関係なら早めに対処しないと、国としての均衡も崩れかねない。……でも戦力としてはイザーク以外がよかった!)


 深い溜息を落とし、臨時とは言え同僚となる人選に落胆せざるを得ない。となるとしばらく歌姫の活動は歌劇場のみで、パーティーなどでの出張を減らす感じなのだろうか。正直、実入りが良いのなら私はどっちでも構わない。


「拠点は伯爵が手配をしてくれるそうだ。彼の運営しているホテルやカフェ、商業ギルドなどかなりある。資金も全面協力をしてくれるから、安心だぞ!」

「はあ、団長……それなら人選をですね……」

「イザークは本日付で、その捜査騎士団団長に任命する。部下数名の引き抜きも許可しよう」

「俺が団長に……昇格!?」


 イザークは感激に打ち震えていた。無理もない。彼は幼い頃から騎士団団長になるのが夢だったのだから。


(素直に「おめでとう」って言えれば良いのだけれど……。んー、その前にまた皮肉たっぷりに嫌味を言われそう)

「メアリー嬢は一時間の時計算で、今までの二倍の報酬を出すそうだ」

「二倍!」


 私は憂鬱な気持ちから一変して、報酬額を計算する。


「「……………」」


 結果的に私とイザークは渋々ながら、その条件を受け入れることとなった。人間、自分の欲には忠実なのだ。

 こうして私とイザークは、未解決事件専門の騎士団特別捜査室が爆誕したのだった。




楽しんで頂けたなら幸いです( *・ㅅ・)*_ _))

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次回更新は明日の朝を想定してます。

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