第2話 捻くれた幼馴染みと私の関係
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貴族牢ウヌス。牢と言っても、それなりに整った客室に閉じ込められて一週間が経った。
「あーーー、腹立つ!」
事情聴取としてあてがわれた部屋に届いた新聞紙を見て、早くも後悔した。誰が『呪われた歌姫』だ!
新聞の一面を読み終えた直後、くしゃくしゃにしてゴミ篭にポイする。それを見て「品がない」と窘めるのは、幼なじみの騎士団副長イザークだ。
黒の騎士服はムカツクほどよく似合っている。
「そんな短慮だから付け入られるんだろうが」
「うるさいわね!」
このイザークという男は、濃紺の長い髪を無造作に一つ結びで束ねていて、鳶色の眼光は常に怒っているか不機嫌だ。整った顔立ちなのだが、無表情だから余計にそう感じるのだろう。
私よりも四つ上なので、上からの物言いも多い。
無愛想だが騎士団の中では二十三歳で騎士団副長である。男爵家の三男坊だったのに、えらく出世したものだ。なぜそこまでこの男のことを知っているのかと言えば、幼なじみで、ムカツクことに初恋の相手でもある。その過去をできるだけ速やかに消し去りたい。
(よりにもよってなんで、事情聴取の相手がイザークなのよ!)
「それで、ヴァイオリンの演奏者が黒い茨を生やして《歪曲》を披露したが、お前の歌魔法で相殺されたので尻尾を巻いて逃げた──だったか」
「そうよ。あれは禁忌演奏曲の一つ。遙か昔に使われていた人外召喚の儀式曲だわ」
「だからってお前が歌魔法を披露した後、人外と対峙して勝算はあったのか?(なんでコイツはいつも無茶を……。俺の寿命をどれだけ縮めれば気が済むんだ!?)」
イザークは片眉を吊り上げて私を睨んだ。苛立った声音にこちらもカチンとくる。
そうやっていつも、いつも癇に障る言い方ばかりをするのだ。
「(昔はもっと心配とか、気遣ってくれたけれど……。それを期待してもしょうが無いわね。私はもうイザークの知っているメアリーじゃないもの)……悪い? それが最適解だと思ったからやったのよ?」
私の言葉にイザークはますます険しい顔で睨む。そんな圧には屈しないのだから。
「(俺たち騎士団の到着を待つこともせずに、何かあったらどうするんだ?)……だとしても、軽率な行動だったな。それに犯人を取り逃がしてもいるじゃないか」
「私は歌姫であって、騎士団じゃないのよ。無償でその場の浄化を優先したのだから、謝礼が出ても良いと思うけれど?」
「また金か。……本当に、歌の次は金だな(そんなに金に困っているのなら、なんでいの一番俺に相談をしないで、あのオーナーに頼るんだ!? ああー、思い出したら腹が立ってきた!)」
軽蔑した目に胸が痛む。別に金の亡者になったわけでも、贅沢したいわけでもない。オーナーが肩代わりしている借金を少しでも減らしたいからだ。それに早く独り立ちもしたい。
それなのに、いつからかイザークは私のことを「悪女」と罵り、「徒花だな」と目で蔑む。そりゃあ没落して、歌姫になるまでは平民だったけれども。
「お金は大事よ。金銭に余裕がある騎士団様は、その苦労なんか知らないでしょうけれどね。両親のことで大変だった時のことを知らない人間に、とやかく言われる筋合いはないわ」
「なっ!?」
つい言葉が滑る。本当はもっとちゃんとしたいのに、イザーク相手につっけんどんな態度しかとれない。
そんなんだから「可愛気がない」と言われるのだ。
私たちの関係は拗れて歪んだまま──。
しかし不穏な空気は唐突に終わりを告げる。
「おいおい、話が脱線しているじゃないか! イザーク。彼女は功労者であって、容疑者じゃない。それなのに何故、彼女を責めて、挙げ句の果てに険悪になっているんだ!?」
「団長」
「ロバート様!」
楽しんで頂けたなら幸いです( *・ㅅ・)*_ _))
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