第六話 カップ麺と塩むすび
「・・・・・・っしょ・・・・・・と!」
・・・・・・どさあっ! がらあんっ! どささっ!
「頑張るなぁ、ねーちゃん! そんなに鉄筋たくさん運べるなら、即戦力だなや。がはははは!」
「若ぇのによく働きやがるし、たいしたもんだ! どわははは! うちの倅の嫁に欲しいくらいだ」
汗が目にしみる。髪を束ねてタオルも巻いたけど、だめか。工事現場の作業員たちには、さぞ珍しく映ってるんだろうな。こんなアラサー女が、夜中にバイトで資材運びに来たことがさ。
でも、他にもいるでしょうよ、若いバイトさんたちはさ。珍しくない。あたしはコアラじゃないんだからさ。
なんで工事現場なんかにいるのかというと、今月、財布が厳しくなってきたから、バイトアプリで日雇いの求人を探したの。
時間も短く、そこそこ額も良かったのがこれだったんだ。鉄鋼会社が募集をかけていた、夜間工事現場への資材搬入の手伝い。
「大丈夫か? 無理せず、休み休みでいいんだぞ? ずっと動きっぱなしじゃないか」
「・・・・・・いえ。まだまだあたしは平気ですんで。あと、何本運べばいいんですか?」
「あと二百五十本だ。他のバイトさんたちにも振り分けるから、藤咲さんは少し休んでな」
「二百五十本か。あの、高萩さん・・・・・・。休憩したら、その分ってバイト代、減っちゃいます?」
「いや? それは心配ない。説明したはずだけど、あくまでも休憩時間込みだから安心してくれ」
「あ、そうでしたっけ・・・・・・。じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて・・・・・・。休憩入ります」
あたしの周りには今、ガテン系の人と、モヤシのようなバイトの人たちしかいない。
バイト募集をした親会社である株式会社 磯原鉄鋼の高萩穐さんは、ガテン系の格好をしているが、実は営業部長だそうだ。
営業って、あたしのイメージだとビシッとネクタイ&スーツってイメージなんだけど。鉄鋼会社は営業の人も現場に出るってことなんだろうか。業界人じゃないから、よくその辺はわからないや。
それにしても、あたしより何歳も若いのに、ぴしっとしてるなぁ。
「飯場のプレハブに、バイトさんたち用のカップ麺やおにぎりがあるから、食べていいぞー」
また、おにぎりか。最近、ほんとにあたしはおにぎりに縁があるな。
さすがに三時間ぶっ通しで動くと、ちょっと疲れる。腕と腰が、少し痛い。あちこち、身体がなまってるな。お相撲さんみたいに、毎日ちゃんこ鍋でも食べて鍛えまくろうかな。
「・・・・・・これか。お湯もある。・・・・・・じゃ、もらおうっと」
シンプルなカップ麺に、塩味のみのおにぎり。塩むすび、ってやつか。
こんな、いかにも工事現場の間食っぽいメニューだけれど、なんだかこれがすごくありがたい。
「あ。・・・・・・おいしい」
身体を動かした後だからか、すごくおいしい。でも、あれからプレハブで休んでるのはあたしだけしかいないけど、本当にいいのかな。ぽつんと一人でいると、なぜか妙に不安になるんだよね。
「ちょっと! おい! バイト君たちさぁ! もっとやる気出してくれ! しっかりしてっ!」
他のバイトさんたちが、外で高萩さんに怒られてる。
あのバイトさんたちはみんなあたしより若そうだけど、腕も脚も針金みたいに細い男性ばっか。なんでこれに申し込んだのって思うくらい、絶対にパワー無いでしょうよって体型。小柄なプロレスラーのような作業員と相反しすぎだよ。
「・・・・・・ったく! 困っちまうぜ! これじゃなかなか、搬入時間内に終わらねーなぁ」
大変そうだな、高萩さん。めっちゃイライラしてんじゃん。わかるよ。だって、あたしと一緒に来たバイトさんたち、最初っから覇気が無い感じで青白い幽霊みたいなんだもん。元気なさすぎ。
「それに比べ、藤咲さんはしっかりやってくれてるから助かるよ! よくあの鉄筋を運べたね?」
「え? まぁ・・・・・・何というか、マグレですよ。マグレ」
「マグレ・・・・・・で、あんなたくさん運べっかな? ま、いいか! やってもらえれば!」
ざっくりしてさっぱりしてるな、高萩さん。外は暗いからわかんなかったけど、明るいプレハブ内ならよくわかる。
スマホを持つ手先に続く腕は太くガッシリしてて、日に焼けた「ザ・ガテン系」な見た目の人だったんだ。左目の上に、さくっと一筋の傷痕がある。昔の古傷なのかな。
「高萩さんって、営業部長なんですよね? ・・・・・・どう見ても超ガテン系ですけどー・・・・・・」
「俺? まぁ一応肩書きはそうなんだけど、元々は作業員上がりなんだ。営業 兼 作業員、かな」
やっぱりそうだったんだ。だって、額にタオル巻いてる作業服姿が、すごく板に付いてるし。
あと、思ったけど、なんかけっこう昔はヤンチャっぽかったことを思わせる口調と雰囲気だわ。
「・・・・・・爽やかですよね、高萩さん。スポーツとか、やってました?」
「ははは。キックボクシングを今もやっててね。まぁ、趣味程度なんですけどねっ」
キックボクシングか。塩むすびを持つ高萩さんの手は、確かに、ごっつい。ってか、バイトさん用の塩むすび、さりげなく食べちゃってるよ高萩さん。
「趣味程度・・・・・・。本当に? すごくプロっぽい身体ですけど・・・・・・」
「まぁ、昔、一回だけプロテストも受けたことはあったんだけど。C級ライセンスだけどね」
「やっぱり。・・・・・・一般人と違う感じの身体だから、あたし、何となくそんな気がして・・・・・・」
「藤咲さんは、他のバイト君らとは、何か違うね。力もあるし、見た目と裏腹に体育会系かい?」
最近、こんな感じに問われることが多いなぁ。きっとあたしは、体育会系の方に入っちゃうのだろう。
空手の実績も一応ある。中学から十年間やってたし、高校時代は県で一位、インターハイはベスト16。大学時代も栃木代表選手として国体に出たこともある。
これで「文化系ですよ」なんて言ったら、ふざけんなと言われるだろうな。
「体育会系・・・・・・には見えないと思いますけど、一応、体育会系・・・・・・だと思います」
「ははは! やっぱそうか! ・・・・・・じゃあ、休んだら残り時間、またよろしく頼むな!」
爽やかな人だな。ところで、用意されてたおにぎり、ほとんど高萩さんが食べちゃったよ。やっぱりガテン系の人だから、ガッツリ食べるんだね。
さて、あたしも食べて仕事に戻るとするか。