表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷い道と目的地 ~藤咲水紀の日常~  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
15/28

第十四話  女三人の、火花散る闘牌!

「・・・・・・なんだろなー。なんだろなー。・・・・・・こいつで、どうじゃっ? 通れっ!」


   ・・・・・・タァンッ!

   どんっ! ぱたん!


「残念でした、賤ヶ岳さん! リーチ、一発、(トン)(ハツ)、ドラ二つ! 一万二千点の(はね)(まん)ね!」

「な、な、な、なーんてこったい! 強いなぁ、お嬢ちゃん!」

「運ですよ、運! まぁ、あとは、確率?」


 あたしは今日、息抜きにひっさびさの雀荘へ来てるんだ。

 大学生の頃、電車で二駅先のところにあるこの雀荘に、たまに遊びに来てたの。大学の近くだと、何だかんだで変な噂が立つからね。「藤咲水紀は金に困って賭博に走ってる」なんて言われたら嫌だし。

 賭けてないから。普通にゲームとして楽しんでるだけだよ。

 今日はたまたま、同じ時間帯であの賤ヶ岳さんにこの店で会ったんだ。あとは、初顔な人たちと四人で卓を囲んで、楽しく一局打ってるの。麻雀って結構、頭使うから好き。


「お姉さん、強いね! プロの打ち手みたいだよ」

「本当にね。見た感じかなり若いけど、大学生?」


 同じ卓にいるサラリーマン風な男の人たちに、嬉しいことを言われちゃった。やっぱりあたし、まだ大学生でもいける見た目なんだろうか。今日はラフなパーカーとジーンズ姿なんだけどな。


「お嬢ちゃんは、度胸もいいもんだ。ワシもその度胸が、麻雀には欲しいとこだなぁ」

「やめてよ賤ヶ岳さん。あたしは、ただ普通に楽しんで打ってるだけだよー」


 小学生から高校生の頃まで、よく家族でファミリー麻雀をやってたんだ。こたつ卓の上で、父、母、兄貴とともに、楽しくジャラジャラやったっけなぁ。優味は「興味ない」とか言って、パソコンでオンラインゲームをやってたなぁ。

 あたし、昔からカードゲームやボードゲームなどが好きなんだけど、その中でもチェスや将棋、そして麻雀が大好きなんだ。だって面白いんだもん。


   じゃらじゃらじゃらじゃらら ぱちんぱちんぱちん たんたんたんっ!


「・・・・・・じゃあ、こいつで、どうだっ! 今度は、通ってくれぇ!」


   ・・・・・・タァンッ!

   どんっ! ぱたん!


「ごめん、賤ヶ岳さん! 一気通貫(イッツー)混一色(ホンイツ)! はい、満貫(まんがん)ーっ! 八千点ちょうだいっ!」

「あっらまぁ! なーんだろな、なんだろな! お嬢ちゃんの牌読み、鋭すぎるよぉ」


 あれ、ちょっと勝ちすぎたかな。賤ヶ岳さんや男の人らが、苦笑いしてるよ。


「じゃ、じゃあ、我々はこの辺で・・・・・・」

「そ、そうだなっ・・・・・・。では、すみませんがー・・・・・・」


 あ、あらら。これはまずい。あたし、ちょっと調子に乗り過ぎちゃったな。男の人ら、そそくさと帰っちゃったよ。どうしよう。賤ヶ岳さんと、二人麻雀ってのもなぁ。


   からんからぁーん  がらがらがらー


「お? 誰か女性が来たぞい? この卓空いてるから、こっちへ呼ぼうか?」

「そうですねー・・・・・・って! ん!」


 今入ってきたお客さん、あたし、知ってる顔だぞ。


「あっらぁ? ミズキちゃんじゃないの! え? 麻雀、やるんだぁ!」

「は、はい。一応、ちょこっとは・・・・・・。川熊さんこそ、今日ってジム休みでしたっけ?」

「そうそう。オーナーが不在だから、今日は臨時で休みなんだ」


 驚いたな。こんなとこで、ボクシングジムの川熊さんに会うなんて。賤ヶ岳さんに、あたしに、川熊さん、か。あと一人いれば、場が立つんだけどなぁ。


   ・・・・・・からんからぁーん  がらがらがらー


「お! また、女性が一人来たぞい。こっちへ呼ぼうかや」

「ん? んんん?」


 申し合わせたかのようなタイミングで、もう一人お客さんが入ってきた。あたし、その顔もまた、知ってるぞ。


「あ、ミズキさん! その節はありがとうございマシタ! オチャヅケ、美味しかったデス!」

「ど、どうも、チェンさん。・・・・・・麻雀、やるんだ?」

「はい。ワタシ、テーブルゲーム大好きなんです。マージャン、面白いですカラ」


 なんだかすごく変わった面子が揃ってしまった。

 賤ヶ岳さんが「これで揃ったね」って笑顔になってる。さっきまであたしに振り込みまくった点数を一回チャラにして、ゼロから始め直すからだろうか。まぁいいや。あたしも、今日はたくさん楽しんで帰りたいし。


「じゃあ、やろっか。人数も揃ったことだしさ。あたし、ちょっと楽しみだな」


 東西南北の牌を引き合って仮席を決めた。東席になった賤ヶ岳さんがその後にサイコロを振ったら、五の目が出たので、親は賤ヶ岳さんからスタート。

 なんだか、本当に麻雀日記みたいになってきたけど気にしないでね。


 〔東〕ウクレレ漫談師 賤ヶ岳鐘楼 

 〔南〕ボクシングコーチ 川熊愛子

 〔西〕あたし 藤咲水紀

 〔北〕御湯ノ水女子大留学生 チェン・メイヤン


 あたしは賭け麻雀などはやらないけど、なんだか、雰囲気はみんな真剣そのものだ。普通にゲームとしての麻雀を仲良くやるはずなんだけどな。三人とも、真剣勝負に挑む勝負師の目だよ。

 数分間やってわかったけど、さっきまで入ってたサラリーマン風の男の人たちとは、川熊さんもチェンさんも手つきが違う。慣れすぎている。

 これは確かに、面白い勝負になりそうだ。


「なんだろなー。なんだろなー。・・・・・・えい! 通ってくれぇ!」


   ・・・・・・タァンッ!

   どどんっ! ぱたん!


「ロンっ! 大当たり! タンヤオ、一盃口(イーペイコー)三色同順(サンショク)、ドラ! 満貫ですよ!」

「どひゃ! やっちまったぁ。そんな待ち方だったんかいなぁー」


 賤ヶ岳さん、さっそく川熊さんに振り込んじゃったね。ってか、大丈夫かなぁ。賤ヶ岳さん、さっきからめっちゃ負けまくりだけど。ま、気持ち切り替えて、次だね。


「むー。むー。なーんだろなー。・・・・・・でい! 通ってくれぃ!」


   ・・・・・・タァンッ!

   どだんっ! ぱたん!


「ローンっ! あはは。当たっちゃいマシタ。対々和(トイトイ)、ドラ三。ワタシも、満貫ですね」

「うひゃあ、勘弁してちょうだいよー。おじさん、点棒なくなっちゃうぞー・・・・・・」


 チェンさん、全然揃ってないようなポーカーフェイスだったのに、満貫になる手で静かに待ってたなんて。あたし、読めなかったな。こりゃ、相当やり込んでる感じだね。シンガポールでも雀荘ってあるのかどうかが気になる。

 さてさて、あたしもうかうかしてられないや。面白い勝負だからこそ、こっちもマジになって楽しまなきゃね。さてと、次はどういう手でいこうかな。


「(・・・・・・うーん。・・・・・・これは危険牌。でも、行けるかナ? よし、これを切ろう!)」


   ・・・・・・タァンッ!

   どんっ! ぱたん!


「ロン! 大当たりっ! 清一色(チンイツ)、ドラ! 跳満だねーっ」

「あっ! まさか、跳満手で待ってたなんテ。やりますね、ミズキさん」


 チェンさんを直撃して、これであたしが逆転したよ。川熊さんが「ほぉー」と笑ってる。対面の賤ヶ岳さんは「危なかった」って汗を拭いてるよ。

 やっぱり、こういう真剣勝負は悪くない。楽しいね。さて、次だ次。


「女は度胸! 麻雀もボクシングも、勝負の鉄則は同じはずっ! 気負けしたらダメだよね!」


   ・・・・・・タァンッ!

   どんっ! ぱたん!


「ロン! 二盃口(リャンペイコー)、ドラ二つ! 満貫だよ! 八千点ちょうだいっ」

「うわ! ミズキちゃん、そっちの手で待ってたのか! くっ、逆読みだったー・・・・・・」


 よぉし、これであたしも、なんとか食らいついていけるよ。チェンさんと川熊さんそれぞれに直撃して点数をもらったから、このまま安い点数の手で上がれば、勝てるはず。

 さぁて、次はオーラスだ。ここを乗り切って、あたし、トップ勝利しちゃおうっと。


「・・・・・・ん? ありゃ? ・・・・・・んんん? ありゃりゃ?」

「どうしたの、賤ヶ岳さん? 親なんだから、早く切って始めようよ」

「目がかすむ、とかではありませんよネ?」

「さっきまでは普通に牌を並べてたのにね。どうしたんだろね、ミズキちゃん?」

「さぁ? 賤ヶ岳さん、どうしたのさ?」

「あ、あがっちゃってる・・・・・・ねぇ、こりゃ。しかも、とんでもねぇ手で・・・・・・」

「「「 ・・・・・・えっ? 」」」


   ずどんっ! ぱたん!


「ダ、ダブル(やく)(まん)・・・・・・じゃ! 天和(テンホー)緑一色(リューイーソー)! 親のダブル役満で、全員三万二千点なりー」

「「「 ええええ! 」」」


 あたしの目の前で、とんでもないことが起きた。牌を引いて並べた段階であがってる場合の、役満の「天和」と、緑色の牌だけで構成された役満「緑一色」を、賤ヶ岳さんがやってのけた。

 同時に二つの役満によって、あたしも、チェンさんも、川熊さんも、一気に点数がゼロの通称「ハコテン」になってしまった。こんなことってあるのかな。あるんだろうね。今、目の前で起きたんだし。


「し、信じらんないな。あたし、ダブル役満なんて初めて見た。しかも天和なんて・・・・・・」

「ほ、本当にね。ミズキちゃんやこちらの女の子も強いとは思ったけど、ラストでこれは・・・・・・」

「ワタシ、日本に来てけっこうマージャンやりましたケド、こんなのって初めてデス」


 本当にそうだよね。賤ヶ岳さん、今日、雀荘に来ないで宝くじでも買った方が良かったんじゃないのかな。天和で運を使っちゃ、今後、当たるもんも当たらなくなっちゃいそう。


「いやぁ、愉快だわ。これは気分が良い勝ち方だぁね。なんだろなー、なんだろなー♪」


 先のことって、本当にわからないもんだよね。こんな予測できない未来、嫌いじゃないけどさ。

 つい数分前まではあたしが一位、川熊さんが二位、チェンさんが三位、だいぶ離れて賤ヶ岳さんが最下位だったのにさ。一気に大逆転されたよ。でも、楽しいゲームだったからいいか。

 それにしても、緑一色、か。可愛がってた後輩の顔が、なんだか急に頭に浮かんできたな。

 あれからどうしただろうか。総務省への出向、行く気になったのかなぁ。あとで電話してみるか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ