序 章 アラサーフリーター 藤咲水紀
―――― あたしは、いったい、どこで道を間違えたんだろう・・・・・・ ――――
そんなことを考え始めてから、もう、二年が経った。
あたしは、いったい、何がしたいのか。これから先、どうなっちゃうのか。そんなことばかり頭をよぎる。自分で何とかしなくちゃいけない。そんなことはわかってる。
ああ、今日もなんだか身体がだるい。とりあえず、起きて着替えて、気晴らしにでも行こうかな。
「あーぁ・・・・・・。そろそろまた、新しいバイトも探さなきゃ・・・・・・」
正職員だった仕事を、あたしは三年でスパッと辞めた。今は日々のバイト探しに苦労している、ただのフリーター。
貯金を切り崩しながら何とかやってるけど、ちょっとキツくなってきた。
バイト探しも良いけど、新しい正職探しも本気でまた始めなきゃ。
来月頭には、二十八歳にもなるんだしさ。
「・・・・・・令和六年の四月、か。・・・・・・外は桜が満開。・・・・・・時間が過ぎるの、早すぎなんだよ」
仕事を辞めたとき、実家の親からも、兄妹からも、親戚からも「何を考えてるんだ、もったいない!」と言われた。国家公務員だったんだ、あたし。
総務省に入ったんだけど、その大きな組織の中では、なんだか自分が自分じゃない感じで、生きてる実感さえ消えそうだった。
大きな機械の中のどうでもいい部品のような感じが、とても耐えられなかった。
いてもいなくても同じ、みたいな。
「・・・・・・はぁ。ゴミ箱が溢れそうだ。嫌だな。・・・・・・片付けるかぁ・・・・・・」
あたしは変なところで神経質。
ゴミが散らかってたり、本棚の本が乱雑になっていたり、食器棚の皿がズレてたりするのが非常に気持ち悪い。
でも、布団が丸まってたり、調理の際に刻む野菜が適当な切り方だったり、タンスの中の服が夏物冬物ごちゃごちゃに入ってたりしてても、それは別にそこまで気にならない。
何なんだろうね、あたしの感性って。
「・・・・・・学位なんか、何の役にも立ってない。・・・・・・つぶしが利かない人間だな、あたしって」
実家の両親には本当に感謝してる。高校出るまで、あたしが行きたいと言えば塾に行かせてくれたし、あたしがやりたいと言えば習い事もたくさんさせてくれた。
でも、今のあたしは、いったいそれらの何が活かせてるのか。とても、実家になんか戻れない。どのツラ下げて戻れっていうんだ。
幼稚園ではお人形のように可愛いと言われ、小学校から高校までは常に学年トップクラスの成績だった。
文武両道の才女なんて、地元の自治会でもてはやされたりもした。
最終学歴は国立御湯ノ水女子大学文教育学部の言語文化学科卒。
でも、いったい、それが何だっていうの。
小学生の頃はピアノを習い、偶然見たテレビの影響で空手と合気道も習った。
高校でも、部活は空手道部に入ってた。合気道は初段で辞めたけど、空手はあたしの性に合っていた。大学卒業まで、ずっと打ち込んで三段まで取った。今はもう稽古してないけど、身体はまだしっかりと覚えてる。
これは、そんなあたし、藤咲水紀の暇潰し的な日常の話。
どうしたいんだろうね、あたしは。