引っ越し依頼+α
誤字脱字多いかも。一人称視点から三人称視点に急変更したので、ちょっとおかしな描写あるかもしれませんが、ご容赦を
物語はかなり早く進んで行きます
「この依頼を受ける」
リュウスケが、受付の女性に依頼を持っていくと、何故か呆れた顔をされた。
「これは引っ越しの依頼ですが、この依頼主は、かなりの資産家です。その屋敷の荷物の運搬を貴方一人で受けるつもりですか?」
「いや、そのつもりだが?」
「屋敷には一人で持てない程の荷物もあるのですよ。貴方一人で、どうやって運ぶのですか?」
受付嬢がため息をつくが、リュウスケはその程度の事は想定済みだった。
「俺が一人で運べない荷物が屋敷にはあるのか?俺は金持ちの家の引っ越しの荷物がどのような重さか知らないんだ。どれだけ力があれば良いのか教えて欲しいな」
「…そうですね、例えばあそこにある書類棚、貴方一人で運べますか?」
受付嬢は、そんな事も分からない馬鹿と思ったのか、冒険者ギルドの中でも大きな棚を指し示した。ぎっしりと羊皮紙が詰め込まれた箱を入れた棚は、一人で持ち上げるどころか動かすことすら難しい大きさと重さに見えた。普通の奴らならそれを見て諦めるだろうが、リュウスケはそうじゃない。たとえ無謀な事でも、試してみないことには諦めないヤンキーなのだ。
「なら見ていてくれ」
カウンターを飛び越えて、リュウスケは受付嬢が指し示した書類棚に近寄った。
「ちょっと、勝手にカウンターを超えないでください」
カウンターの中に入ったことで受付嬢が騒ぐが、リュウスケは無視して書類棚の把持に手をかけた。書類棚は厚い板で作られているので、「少し乱暴に扱っても壊れないだろう」とリュウスケは確認した。
「フンッ!」
リュウスケは、気合いを入れて書類棚を持ち上げた。書類棚は、あのゴリラより重かったが、生き物じゃないので暴れない。つまり彼に取ってただの物を持ち上げるのは、力と気合いと根性で何とかなるものなのだ。
書類棚を持ち上げたことで、リュウスケの足下の床がミシミシと音を立てていた。リュウスケは、書類棚を持ち上げたままそっと数歩程歩いた。
「この程度の重さなら、気合いで何とかなる範疇だ!」
「ええっ、あの書類棚を一人で持ち上げるなんて…」
受付嬢が悲鳴のような声を上げて、その後絶句してしまった。書類棚を動かせることは確認できたはずなので、リュウスケは書類棚は元の位置に戻した。受付嬢は信じられないという顔をするが、手をパンパンと払ってリュウスケはカウンターの反対側に戻った。
「それで、この依頼は受けられるよな」
「…そうね。本当に貴方一人でも可能かもしれませんね。でもこの依頼主を怒らせると面倒なのです」
受付嬢は以外と頑固者だった。ここで「荷物を運べることを証明したのに、依頼を受けられないのはどうしてだ」と怒鳴ろうかとリュウスケは思ったが、冒険者登録の初日から問題を起こすのは不味いと自重した。それに相手は女性だ。リュウスケはヤンキーだが、女性には優しくする方だ。喧嘩をふっかけてきた相手がスケバンだと、相手にせず逃げることにしているぐらいだ。
「マスター、この依頼、この人に任せて大丈夫でしょうか?」
受付嬢は自分で判断が出来ないと、化け物に相談した。リュウスケが冒険者登録を頼んだ化け物は、冒険者ギルドのマスターだった。
「!」
「大丈夫かしら」
化け物が頷いたのに、受付嬢が首をかしげながらリュウスケの前に戻って来た。
「ギルドマスターが了承したから、貴方に任せます。くれぐれも依頼人に失礼の無いように依頼を達成してください」
そう言って受付嬢は、リュウスケに木製の割り符を渡してきた。割り符は依頼を受けた事を示す物らしい。
「おう、それで、この依頼だが、何処に向かえば良いんだ?」
「貴方そんな事も知らないで、この依頼を受けたのですか?」
「いや、俺は、今日初めて王都に来たからな。王都の地理なんてほとんど知らないぞ」
「…ここを出て、王城に向かって歩いて下さい。そして、五番目の角を曲がった所にある大きな屋敷が依頼主の屋敷です。依頼主は、王都でも五指に入るボッタクル商店の店主です。失礼の無いようにお願いします」
頭痛でもしたのか、受付嬢は頭に手を当てて、リュウスケに依頼主の居場所を教えた。
「サンキュー。じゃあ、ちゃっちゃと終わらせてくるぜ」
そう言って、リュウスケは冒険者ギルドを出ようとしたが、その前に化け物…ギルドマスターが立ち塞がった。
「何だよ、依頼を受けても良いんだろ」
リュウスケの前に立ち塞がったギルドマスターは、彼にそっと羊皮紙を渡した。リュウスケは、受け取った羊皮紙の内容を見て首を捻ったが、書かれていた内容は理解できた。
「今日冒険者になったばかりの俺に、こんな事をギルドマスターが直接依頼するのか?」
俺は羊皮紙を丸めると、ギルドマスターに投げつけた。ギルドマスターはそれを受け取ると、手の中で燃やしてしまった。魔法も使えるとは、見かけによらず器用なギルドマスターだった。
★☆★☆
リュウスケが依頼主の屋敷に着くと、ドアノッカーを叩いてドアが開くのを待った。
「誰だ、今儂は引っ越し作業で忙しいんだが…」
出てきたのは小太りのオッサンだった。屋敷と聞いたので、メイドが出てくるのを期待していたリュウスケはガッカリしたが、依頼主なので笑顔で応対する。ヤンキーでも営業スマイルぐらい出来るのだ。
「冒険者ギルドから、引っ越しの依頼を受けてきました~」
リュウスケはオッサンに割り符を見せた。
「はぁ、お前一人で引っ越しをするつもりか。馬鹿な事を言うな。どれだけ荷物があると思っているんだ」
依頼主のオッサンがリュウスケ一人でやって来た事に憤慨する。
「取りあえず、運ぶ物を見せてくれますか~」
オッサンが依頼を断ろうとする前に、リュウスケは扉に足を挟み込んで、強引に屋敷の中に入った。
「お前、勝手に入るな!」
オッサンがリュウスケに怒鳴るが、ヤンキーを相手にするには迫力不足だ。
「この木箱が運ぶ荷物ですか~」
屋敷の中は引っ越しの準備中なのか、荷物が積められた木箱と、荷詰め中の木箱が散乱していた。使用人らしき連中が、一生懸命引っ越しの作業をしているので、リュウスケの出迎えを暇だったオッサンがやらざるを得なかったのだ。
「そうだ。これだけの荷物が有るのだ。商店の店員だけでは手が足りないから冒険者ギルドに依頼を出したのに、来たのが変な格好をしたお前一人とは、どういうことだ」
オッサンが怒鳴るが、リュウスケは相手にしなかった。
「そう怒鳴らないでください。俺一人で出来ると冒険者ギルドが判断したんです。あの木箱を引っ越し先に運べば良いんですね」
「そうだが、お前の様な小童一人で運べるわけが無いだろ!」
オッサンはリュウスケの体を見て、呆れていた。木箱は大人二人でも抱えるのが難しい重さに見えた。
「それはやってみないと分かりません。まあ見ててください」
リュウスケは、運ぶ準備の終わっている木箱の中でも、一番大きな木箱を抱えた。傭兵ギルドの書類棚より軽い木箱を、リュウスケは何と肩に担ぎ上げた。
「ヒッ、たった一人であの木箱を持ち上げるとか。化け物か」
「人を化け物呼ばわりとは酷いですね。それで木箱は、何処に運べば良いんでしょうか?」
「あ…ああ、いま案内させる」
屋敷の前には木箱を運ぶための荷馬車が用意されていた。しかし、そんな物を使うよりリュウスケが走って運ぶ方が早い。リュウスケは、木箱を運ぶ先を使用人から聞き出すと、後は一人で木箱を担いで走り出した。引っ越し先の屋敷まで一キロ程度だった。リュウスケの走る速度なら三分で往復できる。木箱を担いで走るリュウスケを、王都の人達が驚きの目で見るが、彼は気にしない。
屋敷の引っ越しは、リュウスケが協力することで、たったの一日で終わった。もちろんオッサンは大喜びだ。何しろこの依頼は、一人当たり一日銀貨五枚の報酬を出すことになっていた。つまりリュウスケ一人で依頼を受け、一日で終わったのだ、報酬は銀貨五枚で済む。オッサンが喜ぶのも当然だ。
「これが最後の荷物ですね~」
最後に残ったのは、木箱ではなく豪華な鞄だった。リュウスケは鞄を抱えて運ぼうとした。
「いや、それは儂が運ぶ。お前は触るな」
小太りのオッサンは、リュウスケから鞄を奪い取った。豪華な鞄だから、貴重な書類が入っているだろうと、リュウスケは確信した。
「そうですか。これで終わりでしたら、依頼完了の割り符を頂けますか」
リュウスケは小太りのオッサンから、引っ越し依頼完了を示す割り符を受け取った。これを冒険者ギルドに提出することで、冒険者はギルドから依頼料を貰える。
「それじゃ、引っ越し依頼は終わりました。後は、オッサンを運ぶだけだ。それを大事に抱えてくれ。今から俺はアンタを運ぶことになるんだ。鞄を手放すなよ」
「はぁ、何を言っている?」
ボッタクル商店の店主である小太りのオッサンは、突然口調の変わったリュウスケの態度と、彼が言っている事が理解できていなかった。
「ほら、最後の荷物を運ぶぞ」
使用人達があっけにとられる中、リュウスケは鞄を抱えたオッサン肩に乗せると、走り始めた。小太りのオッサンと鞄は、今まで運んだ木箱に比べて羽のような軽さだった。
「お、おい。辞めるんだ。何をする、こんな依頼は出していないぞ」
「いや、これは俺が受けた依頼だ。だけど依頼主はオッサンじゃ無い」
リュウスケは、オッサンを肩に乗せたまま王都を走った。彼が向かったのは、木箱を送り届けた新しい屋敷では無かった。リュウスケがボッタクル商会の店主を運んだ先は、王都の官公庁というか、役所が集まっている建物の前だった。
「ほい、これで最後の依頼も完了と」
「な、何故儂をここに運んだんだ。こんな所に用はない。早く儂を引っ越し先の屋敷につれて行け。儂が頼んだのは引っ越しの手伝いだ。ここに儂を運ぶ依頼など出しておらぬぞ」
「貴方をここに運ぶ依頼を出したのは、私です」
リュウスケに喰ってかかるオッサンの前に立ち塞がったのは、建物から出てきた役人達だった。
「ゲエッ、お前は」
「アンタ誰?」
リュウスケがギルドマスターから直接受けた依頼は、「最後の荷物を持ったボッタクル商会の店主をこの役所の前に連れてくる」という内容の依頼だった。もちろんリュウスケは、建物から出てきた役人とは初対面で、どんな人達ともわからない。雰囲気から役人だと感じているだけである。
「私ですか、この王都で税務を管理している者です。最近王都の商店で、税金を誤魔化している人がいましてね。ただ証拠を隠すのが上手で、今まで手つかずだったのですよ。それでまあ、その御本人に証拠を持って、直接役所に来て貰おうと思っただけです」
「ああ、なるほど。オッサン、脱税してたのか。それでギルドマスターは、俺にこんな変な依頼を出したのか」
リュウスケは、ようやく依頼の内容に納得がいった。本当は、送り届ける先が役所だったので、単に引っ越しの手続きでもあるのかと誤解していた。
「ええ。王都にいる冒険者が普通に引っ越しの手伝いをしていたら、この人も警戒して証拠を一まとめにしなかったでしょう。しかし、今日冒険者になったばかりの貴方が、荷物をせっせと運んでくれたおかげで、この人も警戒せずに証拠の書類を一まとめにしてくれました。まさかここまで上手くいくとは思いませんでしたよ」
そう言って役人達は微笑んだ。
「な、何を言う。儂は税金など誤魔化しておらんぞ」
ボッタクル商店の店主はそう言い張り、逃げ道を探してきょろきょろするが、オッサンは既に税務署の役員に囲まれていた。何処にも逃げ道は無かった。オッサンが抱えている鞄の中には、脱税の証拠が入っていることは確実だ。つまり、彼はここで裁かれることになるのだ。
「それじゃ、俺は依頼完了で良いんだよな」
「はい、ギルドマスターにはそう伝えておきます」
「おう、頼むぜ」
リュウスケは役人に後を任せると、冒険者ギルドに向かって走り出した。日が落ちるまでに門の前に辿り着かないと、彼はアンジェリカとの約束を破ってしまう。そうなると夕食をおごって貰えないのだ。リュウスケは、全速で冒険者ギルドに戻った。
「おい、儂を置いていくな~」
後ろからオッサンの叫び声が聞こえるが、リュウスケの依頼は完了した。「後は自分で頑張ってくれ」と叫んで、リュウスケは夕暮れが近づく王都を走った。
★☆★☆
「何とか間に合ったな」
冒険者ギルドで割り符を見せて、リュウスケは銀貨五枚を手に入れた。日本円換算なら五千円ぐらいである。銀貨五枚は、王都では安い宿で一泊できるぐらいの価値しか無い。「引っ越し手伝い」の依頼が残っていたのは、この安い依頼料が原因であった。リュウスケは、夕食の当てがあったから、その依頼を受けた。いやそれ以外の依頼は専門的な知識が無いと難しいか、王都から離れる依頼ばかりだったから、リュウスケは受けられなかったのだ。
そしてリュウスケはギルドマスターから直接依頼された依頼も達成した。其方は割り符なども無く、報奨金も無い。金にもならない依頼を、何故リュウスケが受けたかだが、それは冒険者ランクに係わってくる依頼だったからだ。リュウスケがその依頼を達成したことで、彼は冒険者ランクを二つあげて貰えるという報酬を得る。
何故冒険者ギルドが、その様な好待遇でリュウスケに依頼を頼んだかというと、あの化け物…ギルドマスターは、リュウスケがアンジェリカと村を巡っていた事を知っていたからだった。つまりリュウスケが、魔物退治が出来る力を持っていることを知っていたのだ。
冒険者と言っても、最低ランクでは、王都の雑務や近くの森での採取依頼しか受けられない。魔物退治依頼を受けるには、ランクを最低でも一つはあげる必要がある。ギルドマスターは、リュウスケの噂を冒険者から聞いて、魔物退治を受けられるように、彼のランクを上げるつもりだった。そしてリュウスケが噂通り、真面目な人物か判断するために直接依頼を出した。
ランクを上げるには、冒険者ギルドで試験を受けなきゃ駄目なのだが、それは明日行うと受付嬢はリュウスケに伝えた。銀貨とその話を聞いたリュウスケは、「じゃあ、明日くるぜ」と言って、冒険者ギルドを飛び出した。今彼が一番心配しているのは、アンジェリカが約束を忘れていないかだった。アンジェリカと会えなければ、彼の夕食は麻袋の中の黒パンだけとなる。
夕暮れの門は王都に入る人で混雑していた。リュウスケは、「待ち合わせ場所を違った場所にすれば良かったな」と呟きながら、門に向かった。
「アンジェリカ、約束を忘れてなきゃ良いが…。そうなったら黒パンで我慢するしか無いか」
「忘れてませんよ」
リュウスケは後ろから声を掛けられて驚いた。どうやらアンジェリカは彼より先に門の所で待っていたようだ。アンジェリカは、鎧を脱いでワンピースのような服を着て、騎士から町娘に変身していた。
「おう、飯を奢ってくれるんだよな。期待しているぜ」
「はぁ、約束ですからね。『騎士たる者、約束は守るべし』です。…ですが、私は色々あってあまり金を持っていないのです。豪華な夕食とか期待しないでくださいね」
騎士の心構えを言っている時のアンジェリカは凜々しかったが、最後の方は何故か情けない顔になっていた。
「任務を終えたばかりなのに、金が無いのか。騎士団ってケチなのか?やっぱり入らなくて正解だったな」
「騎士団はケチではありませんよ。私がオークに襲われた時に路銀を無くしたのと、後は色々家庭の事情がありまして…」
「まあ、俺は飯を奢って貰えるならそれで良い。アンジェリカの事情とかどうでも良いからな」
「…少しは気遣ってくれても良いのでは。とにかく夕飯を食べに行きましょう。それぐらいの金は持っています」
そう言って、アンジェリカは王都の中を歩き出した。もちろんリュウスケは彼女の後をついていく。夕暮れ時は飲食店もかき入れ時だろう、あちこちから良い匂いが漂ってくる。
「さて、ここに入りましょう。料理の味も値段もそれなりに良いお店です」
アンジェリカが案内してくれた店は、表通りからかなり離れた所にある店だった。町並みから見て、庶民が入るような大衆食堂っぽい店だ。客もそういった連中だとリュウスケには見えた。
「奢って貰えるだけありがたい」
アンジェリカの後を追って、リュウスケはその大衆食堂に入った。
お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたら評価・ブックマークをお願いします。




