いきなり転移しました
誤字脱字多いかも。一人称視点から三人称視点に急変更したので、ちょっとおかしな描写あるかもしれませんが、ご容赦を
物語はかなり早く進んで行きます
太陽が照りつける初夏の草原、そこで少年は一人たたずんでいた。
「あの糞爺、今度は一体、何をやりやがった。俺は彼奴を…美冬が何処に行ったか探さなきゃいけないのに。こんな所でぼーっとしている暇は無いんだよ」
少年は今この場にいない彼の祖父へ文句を言いながら、自分の体を確認した。身につけていた学ランを確認すると、学ランの裾をめくり腰を確認する。腰には彼の祖父が無理矢理装着させた奇妙なベルトが巻き付いていた。少年が所持している物は、学ランと、奇妙なベルトだけである。ポケットの中も空っぽだった。
「俺の名前は相馬隆介だ、記憶もはっきりしている。ここに来る直前の事もはっきりと覚えている。しかし一体ここは何処なんだ。そして、何だよこのベルトは。俺は変身ヒーローじゃねーぞ。しかもベルトを引っ張ってもバックルも外れない。そして腰から下にも上にも移動できないぞ。どうやって外すんだよ!」
七十年代の特撮ヒーローが身につけているような、怪しいバックルが付いたベルトは、リュウスケの腰に巻き付いて外れなかった。
「チッ、外せないならしょうがねえ。それよりまず家に戻らないとな。まずはそれからだ。とにかく人の居るところに向かわないとな」
リュウスケが周囲を見回すと、草原の先に森と山が見えた。草原の途中には道もあった。どれだけ田舎なのか、道は舗装すらされていなかった。
「道なりに歩けば、どこかに着くだろ」
普通の高校生なら、スマフォで連絡を取るのだろうが、リュウスケは、その手の機械が苦手である。だからスマフォどころかガラゲーも持っていなかった。そんな事で友達とどうやってコミュニケーションを取るかと言われそうだが、リュウスケに言わせれば、「口で話せない奴とは付き合えない」ということだった。
リュウスケは、自分が変人だと自覚していた。何しろ都内でも有数の私立の進学校に入学したのに、指定のブレザーじゃなくて、学ランを着ている様な男だ。最初は学校と揉めたが、光速には学生服も可とあったので、リュウスケは学ランで通学しても良い事になった。
「隆ちゃん、少しは空気を読んでよ。隆ちゃんが学ランなんて着ているから、私まで変な目で見られるんだよ」
「知るか。俺はブレザーなんて軟弱な服は嫌なんだよ。男子高校生なら学ランだろ」
「今は令和だよ。隆ちゃんだけ昭和に生きてるみたい」
幼なじみの美冬が、諦め混じりの口調でリュウスケに苦情を言うが、彼は自分の信念で学ランを着ていた。校則にも可と書かれているので、文句を言われる筋合いは無いと彼は思っていた。まあリュウスケの学ラン姿に陰口を言う奴(男に限る)は、後でリュウスケによってシメられた。そのことが原因で、リュウスケは退学させられそうになったが、結局彼は、退学とはならなかった。退学にならなかった理由は、彼が学業では学校のトップであり、その祖父が学校に多額の寄附金を払っていたからである。リュウスケからすると、「爺のおかげで退学にならなかったのは、しゃくに障るが、美冬と別れなくて済んだ事は感謝する」だった。
何せ、美冬は「隆ちゃんと一緒の学校に行きたい」と言うので、リュウスケが頑張って勉強を教え、中の上だった美冬を進学校レベルにまで上げたのだ。そうして二人は同じ高校に入学できた。これでリュウスケが退学になったら洒落にならない所だった。
しかし、その美冬は、現在行方不明だった。リュウスケには、彼女が何処に言ったのか分からない。いや、行方不明では無く、美冬は目の前で消えてしまったのだ。
ーーーー相馬隆介の回想 開始
その日は朝から空模様がおかしかった。学校から帰ろうと思ったら、雨が降り出した。もちろん俺は傘など持ってきていない。まあ走って帰っても良かったが、校門で美冬が待ち構えていた。
「隆ちゃん、傘を持ってないでしょ。一緒に返りましょ」
美冬は自分の傘を差しだした。
「チッ、しょうがねえな。お前の傘を借りるわ」
濡れて返るのも嫌だったので、美冬の傘を借りて、二人で帰路についた。二人の家は隣同士だし、向かう先は同じだ。周りの連中が「リア充氏ね」とか言うが、俺と美冬は特に付き合っているわけでは無い。家が隣通しの、幼なじみなだけだ。それ以上でも、それ以下でも無い。まあ、小さいな頃から頭が良くて、そして妙なこだわりを持つ俺に付き合ってくれたのが、美冬だけだという感じである。
しばらく道路を歩いて、交差点にさしかかる。信号は青だから俺達は、横断歩道を渡った。普通にそれで二人は道路を渡り終えるはずだったのだが、そこに邪魔する奴…いやトラックが突っ込んできた。運転手は居眠りしているのだろう、ブレーキも踏まずに俺達に突っ込んできた。
「隆ちゃん、危ない」
「お前の方が危ねーよ」
俺は傘を捨てて、美冬を突き飛ばした。これでトラックに轢き殺されるのは、俺だけだ。美冬は助かると思ったが、なぜかトラックは美冬の方にハンドルを切った。
「馬鹿野郎!」
俺はそう怒鳴ると、美冬を助けるべくトラックの前に飛び込んだ。もちろんその程度では、美冬がトラックに撥ねられる事は避けられない。だが、俺がクッションになれば、美冬は助かるかもしれない。まあそんな事をあの瞬間の俺は考えていた。
トラックの前で、俺が美冬を抱きかかえようとした瞬間、美冬は俺の目の前から消えてしまった。そう、消えてしまったのだ。
ドカッ
トラックが、俺をはね飛ばす。そこで俺は意識を失った。
★☆★☆
俺が次に目を覚ましたのは、研究室のベッドの上だった。この研究室は、俺の家の地下にある爺の研究室だ。どうして自宅に研究室が何故あるかだって?そりゃ爺がマッドサイエンティストだからだ。
俺が物心ついた頃には、親父もお袋も居なかった。俺を育ててくれたのは爺だ。爺は世間からマッドサイエンティスト呼ばわりされる程の変人だった。変人の俺が言うのもおかしいが、爺は確実に精神がおかしかった。しかし、科学者としては優秀であり、エネルギー関係や化学素材関係の特許を持っていて、金には困っていなかった。しかし研究している内容は、とても世間には認められるような内容ではなかった。
まあ、爺の話は良い。問題は、トラックに撥ねられた俺が、どうして研究室のベッドに拘束されているかだ。トラックに撥ねられた俺が無事なのも不思議だが、そんな理由を考えるより、俺にはやらなきゃ行けないことがあった。
「美冬は消えてしまった。探さないと…。糞、今は爺の実験に付き合っている暇はないんだぞ。早く解放しやがれ!」
爺は時々俺を実験台にする。その実験だが、失敗ばかりで結果は出ていない。どんな実験かは知らないが、失敗する度に爺は落ち込む。爺は落ち込むだけだが、実験台にされる俺には迷惑である。変な薬を飲まされたり、SFの転送器のような物に入れられたりと、さんざんな目に遭うのだ。
「五月蠅いわ、少し黙っていろ。美冬ちゃんが消えたことは分かっておるわ。今それを何とかしようとしてるんじゃ」
実験室の奥から現れた爺が、俺の頭を杖で殴りつける。もの凄く痛いが、俺の頭も並の堅さじゃ無い。杖で殴られたぐらいじゃビクともしない。爺は既に八十を超えていて、若い頃の実験の事故の失敗で、顔が縫い目だらけで、傍目にはゾンビにしか見えない顔つきである。しかし体はまあ元気だし、頭も耄碌はしていない。しかしぶつぶつと言いながら俺を実験台にするほどには、精神はおかしかった。
「何とかって、俺が爺の実験に付き合う事で、美冬が戻ってくるのかよ」
「ふん、それが分からんから実験するのじゃ。少しは黙っていろ」
「くそーっ!早く解放しろ」
ベッドの上で暴れる俺の腰に、爺は手にしたベルトのバックルの様な物を近づけた。するとバックルからベルトが自動的に飛び出し、俺の腰にしっかりと装着された。
「又それかよ。前も失敗しただろうが」
このベルト型の装置は、つい先日実験を行い、失敗作と爺は言っていた。
「あれから改良したんじゃ。これで失敗なら、次はない」
爺は、俺にそう言ってバックルの様子を見る。しかし、しばらく待っても何も起きない。
「…やはり駄目か。『賢者の石』とやらも、どうやら偽物だったようじゃな」
爺はため息をついてガックリと肩を落とす。どうやら実験はまた失敗だったようだ。
「失敗ならさっさと外しやがれ。俺は美冬を探しに行くんだ」
「だからそれが失敗したと言っているんじゃ」
爺が訳の分からないことを叫ぶが、実験の失敗など、俺には関係は無い。俺はベッドの上で暴れるが、手足を拘束しているベルトはビクともしない。
「爺、早く外せ」
「分かった。今外す」
爺がベッドの脇のボタンを押すと、手足を拘束していたベルトが外れる。俺はベッドの上に飛び起きると、実験室の出口に向かった。
「おい、それを置いていけ」
爺が俺の腰のベルトを置いていけと言うが、そんな時間など無い。俺は実験室の扉を開くと、廊下に飛び出した…はずだった
ーーーー相馬隆介の回想 終わり
「実験室は家の地下にあったんだ。こんな草原にあったんじゃねえ。一体どうなってやがる」
リュウスケは、草原に通っている道まで辿り着いたが、前後を見ても誰もいない。道はどちらに進んでも森の中に向かっている。この草原は、森の中にできた空き地のような所だった。
「太陽の位置から、南はあっちか」
道は南北に向かっているので、リュウスケは南に進むことに決めた。リュウスケは、何となくその方角に向かうのが良いという気がしたのだ。
しばらく道を進み、森の中に入る。日本じゃ見たことも無い植物が生い茂っていた。
「もしかすると、実験室を出るときに気絶させられて、それから何処か海外の山奥にでも捨てられたのか?いや、流石にあの爺でも、そんな事をする理由が無いか。
リュウスケが道を進むと、今度は遠くから悲鳴が聞こえた。声の感じから女性の悲鳴だと分かる。
「厄介毎に巻き込まれたか。だが人に合えば、ここが何処か分かるだろ」
リュウスケは悲鳴が聞こえた場所まで走って行った。その走る速度は、もしオリンピックの陸上のコーチが見たら、スカウトが来るぐらい速かった。悲鳴が聞こえてから一分もしない間に、リュウスケは、女性が全裸男に襲われている現場に出くわした。
「女にもてない面だからって、日中堂々女性を襲うな!」
リュウスケは、女性を襲っていた全裸男の背中めがけて、全力でドロップキックをきめた。
「ブギャッ」
全裸男は、リュウスケのドロップキックを受けて、そのまま道の端に生えていた木にぶつかって気絶した。性犯罪者を退治したリュウスケは、襲われていた女性の方に向き直った。
「大丈夫だったか。それでアンタ、ここが何処か知っている…か?」
リュウスケは押し倒されていた女性に手を差し伸べたが、そこで戸惑ってしまった。それは、女性が金髪美人で有り、モデル並の体型をしているという事が理由では無かった。リュウスケが戸惑ったのは、彼女の来ている服が。まるで中世ヨーロッパの騎士のコスプレでもしているのかという金属鎧だったからだ。鎧を着ているのに何故体型が分かったかというと、全裸男に襲われている間に、鎧のベルトが外れていたからである。
「助けてくれてありがとう。危うくオークに犯られるところだったわ」
リュウスケの手を握ってコスプレ金髪女性は、彼にお礼を言って立ち上がる。リュウスケの耳には、彼女の話す言葉は日本語に聞こえたが、実は何か別な言葉で話していることが分かった。リュウスケはその姿から時代遅れのヤンキーだと思われているが、英語とフランス語、イタリア、スペイン…とマルチリンガルのヤンキーだった。つまり、地球であるならよほど特殊な言語で無い限り、聞き取ることぐらいは出来るのだ。どうしてそんなに言葉を知っているかというと、彼の祖父が「いつか必要になる」と、小さな頃から教え込んだんだからだ。しかし、彼女の喋っている言葉は、リュウスケの知る、どの言葉とも一致しなかった。しかし、彼には彼女の言葉は、日本語として理解することが出来た。
そして、女性は「オーク」と言ったが、それは彼女を襲っていた全裸男の事だと、リュウスケには理解できた。リュウスケも「オーク」という単語ぐらいは知っている。しかし全裸男は豚面で毛深いが、人間の様にも見える。それともこの地方では、「全裸の豚面の男をオークというのだろうか」とリュウスケは考え込んでしまった。
「目の前であんな事をされてりゃ、誰だって助けるさ。それで、アンタは俺の質問に答えてくれるのか?ここは一体何処なんだ。日本じゃ無い事は分かるんだが、アンタのような金髪さんがいると言うことは、ヨーロッパの田舎の辺りなのかな?」
「ニホン、ヨーロッパ?そんな地名、私は知りません。ここはアーランド王国の南に広がる魔の森の入り口です。オークから助けられた私が言うのもおかしいのですが、貴方は、そんな事も知らずに、この魔の森に居たのですか?…よく見れば、武器も持たず、鎧も装備していませんね。そんな格好で魔の森で平然としている貴方は、本当に人間ですか?」
金髪女性は、リュウスケが聞いたことの無い国の名前と「魔の森」と言う、ファンタジー用語を連発した。彼女はリュウスケが、素手で学ランしか着用していないことに驚き、最後は彼が本当に人間なのかと疑い、彼から距離をとって身構えた。
「この服は、学ランって言って、まあ日本の高校生なら誰もが着る、戦闘服だ。それよりアンタは、日本もヨーロッパも知らないのか。それでアーランド王国って国は、地球のどの辺りにある国だ。俺は早く日本に戻らなきゃいけないんだ」
リュウスケは手頃な小石を手にとり、地面に世界地図(メルカトル図法)を描いた。これなら、自分の国が地球のどの辺りにあるかぐらい答えられるだろうと、リュウスケは期待したのだが…。
「これが世界地図?私、こんな地図を見たことありませんよ。もしかして貴方、私を田舎者と思って、馬鹿にしているのですか。私はこれでも、アーランド王国の正式な騎士ですよ。まあオークに負ける程度の力しかありませんが、流石にこの世界がどんな形かぐらい知っています。…貴方は、私を馬鹿にしている様ですが、こんな絵を描けるなら、魔物では無いようですね。貴方が人間であるなら、さっさとあのオークにとどめを刺してくれませんか。早くしないとオークが目を覚ましてしまいます。貴方がとどめを刺さないのであれば、私がとどめを刺しますよ」
金髪女性はリュウスケの描いた世界地図を見て、馬鹿にされていると思ったのか少し怒っていた。しかし、リュウスケが魔物で無い事を分かってくれた様だ。そして、彼女は腰に帯びていた剣を抜いた。
「なるほど、この世界地図は見たことが無いと。それで、とどめを刺すって、どういうことだ。まさか彼奴を写真に撮って、SNSにでもアップするつもりか?それは流石に可哀想だ。せめて警察につき出すくらいにしろよ」
「えすえぬえすとは何でしょう。魔法の呪文ですか?貴方、やっぱり私を馬鹿にしてますね。私だって、気絶したオークにとどめくらい刺せますよ」
そう言って、金髪女性は腰から剣を抜くと、気絶中の全裸豚面男に向けて振りかぶった。
「おい、襲われたからって、気絶している奴を問答無用で殺すのか。この国じゃそれが当たり前なのか?」
リュウスケは喧嘩やヤキ入れはするが、それで人を殺したり、相手に再起不能な傷を負わせたことは無い。この金髪女性は、いま明らかに全裸豚面男を殺そうとしている。だからリュウスケは、本当に殺すつもりかと尋ねた。
「当たり前です。オークは魔物ですよ。生かしておいても碌な事をしません。早く殺さないと。…えぃっ」
金髪女性は、気の抜けるかけ声と共にオークの心臓に剣を突き刺した。心臓を貫かれたオークは、ぴくりと動いた後、盛大に血を流して死んでしまった。
「ゲームやっている連中がオークやゴブリンとか言っていたけど。豚面の全裸男が、オークという魔物だったのか。初めて見たぜ」
リュウスケは、ここに来てようやく自分が地球とは違う、別な世界に来てしまったことに気付いた。
「(ここは、どうやら地球とは違う、異世界という奴らしい。爺め、どうして俺をそんな所に送り込んだんだ)」
リュウスケは空を見上げて、心の中で祖父に悪態をつくしかなかった。
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