天才か!
皆さま、こんにちは。
僕、長谷部は某大学読書サークル研究会に所属する、3年生だ。ひたすら読書をするだけという虚しいサークルだが、そのサークルに弓月さんという新聞紙をこよなく愛する女性がいる。
新聞紙はなにかと便利だ。弓月氏曰く、①トイレットペーパー代わり②防寒対策③火起こし④番組欄やニュースなどの情報源⑤道の駅にて野菜を包むetc。
それ以外にも、温かい缶コーヒーを包んで保温、えんぴつを入れる筆入れに、雨に濡れたランドセルを拭く、たまにしか特集しない『量子力学』について学ぶ、夜空の星座を新聞紙に開けた穴から覗く、夏祭りの金魚すくいで穴が開いてしまったポイの代わりにする(ダメ)、チェックメイトオォと叫びながら新聞紙を破る(?)、ひまわりをふわっと包んでブーケにする、新聞紙で作ったおふだをむやみやたら家中に貼る、体育祭の短距離走にて新聞紙バトンを使う、ポーカーフェイスで行う『たたいてかぶってジャンケンポン』の叩き棒に、屋根裏のマックロクロスケを捕獲する際、手足が汚れないように使用する、など。
うん。
そんな弓月氏が、最近。
「長谷部くん、見て!」
ドヤ顔で見せてきたのは、新聞紙で作ったエコバッグ。
「リサイクルだしエコだしSDGsだし丈夫だし新聞紙最高! ちゃんと持ち手もついてるんだよ!」
と、バッグを持ってポーズを取る。弓月さんは大学のミスキャンパスで優勝するくらいの美貌をお持ちでいらっしゃるので、持っているエコバッグはまるでヴィトンかグッチかぐらいの輝きがある。
「おお〜〜すごい! 手作り? 見えな〜い。奥さまそれお幾らなの? え、タダですって? イイネ!」
僕も調子に乗ってそんなことを言っちゃうもんだから、弓月さんはその新聞愛を熱烈エスカレーションしていったと言っても過言ではないのだろうけど。
そしてついに! 最終形態に入ってしまったのだ!
「長谷部くーん。見てー!」
相変わらず、ガサガサと音を立ててサークル室へと入ってきた弓月さんを見て、仰け反ってしまった。
「新聞紙でウェディングドレス作ったの! リサイクルだしエコだしSDGsだし丈夫だし新聞紙最高!」
一瞬沈黙。だがしかし、ここまでやりやがったかと感心した次第である。
おいおいあんた天才か! ってね! こりゃ結婚指輪も新聞紙だぞい! ってね!
ちなみに弓月さんと付き合いたい弓月さん大好き人間の僕には、いったい誰と結婚するのか? ということは……怖くて訊けなかった。