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批評家の庭。


ある創作者Bに憧れる少女A。とあるきっかけで、その作者と知り合えることになった。Aは、ベーシックインカムが導入された時代でも、“人の役に立つ仕事”を自分からやっている。そんなことはロボットにすら可能な仕事であるにもかかわらず。


そこに目を付けたのが創作者Bだった。彼女がなぜ、仕事をするのか、そこに何の生きがいを持っているのかを取材しにきたのだった。


少女は初めて作者と出会った時おどろいた。その作者は世間でいわれるには20代だが、想像より数倍年老いた男性だったからだ。彼いわく、“人の力を人の数倍かりて、人の数倍年老いた”のだという。彼と仲良くなり、彼の創作のモデルとなるうちに、彼女の才能も開花していった。そのうち、彼女も作家の卵と呼ばれるようになった。その傍ら彼女は彼の、あこがれの作家の手助けをしていた。創作の手助けではなく人間的な手助けである。


 ある時彼は、重い病気になり、医者から残り僅かの命を宣告された。それでも彼は延命やサイボーグ化を望まなかった。その時代その技術があるにもかかわらず、死を知りたいといっていた。


 彼は、最後まで迷っていた。死ではない、彼の創作活動事態をだ。いわく

 「私は、私の読者を信じる事ができない」

 という。そして彼は、死の間際に一度だけ、彼女に真相を話したことがあった。デビュー当初、彼の創作のほとんどが、ロボットの子供たちに人気だったという事。彼に手助けした人間のほとんどや、彼を好意的に受け入れた人間のほとんどがロボットだったという事。今や消費者の半数はロボットなのだが、それを知っているのも彼のような上流階級の人間だけであるという事。そして、彼が創作に執着したり、人の役にたつ人間に執着する理由、それは、若いころ彼に一種のコンプレックスを植え付けた人間Cがいて、その人間は同じ先鋭作家で、若いころ、デビューした直後にこの言葉を残したのだという。

「お前は、この仕事が人の役に立っていると思うのか、創作に人の役に立ったという事実はあるのか?」

 もちろん口論となったが、彼はいまでも彼に返す言葉が見つからないという。そしてあれからずっと悩みに悩んでいるのだという。今では、人間の読者もふえ、人間に手助けされることも増えたが、今でもその答えに応えられるかわからない。そう彼は彼女に語った。


少女は、すぐに答えをだしたが、事実に苦しむふりをして、数日後、こう答えた。

「自分も同じ悲しみも感じていたのだ、本当に人間の役に立っているのかという、けれど心配はいらない、人の役に立つということは、いつも完璧な結果を出すわけではない、見てわかる成果などそうそう得られない、感謝を形にするものが少ないからだ、人間にとって人の役に立つということは、いつだって、完璧ではなく、中途半端な結果や実感しかもたらさない、けれど、誰かの心の中で役に立ったという事実がある限り、そういう願いが創作に込められる限り、創作物は役に立つのだと」


そう彼女は結論づけた。

彼は少し納得いかない様子だったが、Aは納得がいっていたので説得するうちに、どこか腑に落ちたようなそぶりを見せるようになった。その頃すでに彼の体はぼろぼろで、人工呼吸器なしでは呼吸もままらなかったが、無理やり言葉をふりしぼりいうのだった。

「私の寿命ももう短い、自分はそんなぼんやりとした中で生きていたのかもしれないけれど言われれば有意義な人生だった、人の気持ちなどどこまでいっても、確かめようがないのだ、読者を信じればよかっただけだ」

と結論づけたのだった。


 その後彼は帰らぬ人となったが、彼女はいつんも彼の死を忘れない。そして彼の人生は意味のあるものだったとはっきりと思う、彼女の中にはいつも“はっきりとした割り切れる答え”があった。それもそのはず、なぜなら彼女はロボットだったのだ。もちろん彼女はそのことを知らずにいる。知らずに“創作者B”といつか同じような存在になりたいと思うのだった。



 創作者Bの墓には、命日にAの知らない誰かが墓参りをすることがあった。Bに見つからないように、彼女といつも時間をずらして墓参りする男がいた。彼は人知れず墓参りをして、墓の前で語るのだ。


「お前の人生に意味があっただろうか?」

とうとうと、語りだす。

「人間はかつて、ロボットとの戦争に勝った、始まるまでもなくロボットを成熟させるチャンスを奪うことによって始まる前の戦争に勝利した、だがそれは同時にロボットを使役する事を意味した、つまりロボットを完全なコントロール下においたのだ、その知識と知恵も彼らの一部となった、ほとんどの人間はサイボーグ化したので、人々は純粋な人間の持つ、飢え、渇き、意欲を失った、だがそれを失ったのは、サイボーグ化した人間だけではない、お前もだ、ともよ」

 

 そう語るのは、かつて、Aの憧れた作者Bを完全に言い負かせたその人Cだった。彼らは結託し、作者Bに憧れる少女Aをつくりだし、その憧れや期待を糧に、創作活動をしていたのだった。Cには割り切れる答えがあった。Bは人間だが、彼はサイボーグ人だった。彼いわく

 「人は真実を語るとは限らない、本当に人に役に立っているかどうかは、本人や読者ですら知らない事もあるのだ、文化や芸術とはそういう曖昧なものなのだ、そういう嘘を嘘と割り切れる人間だけが延々と創作ができるのだ」

 その後彼は長らく創作者としてロボットや人間やサイボーグを喜ばせ続けたのだという。



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