クリスマスの終わりに 〜 カセットテープから流れるような温かい音で 〜
イルミネーションはまだ残っていた。
しかし人の姿はもう疎らで、たまに見かける人達も地味な服装で家路を急いでいる。
赤と緑色の何かのチラシが寒風に乗って、足元を舞って行った。
俺もようやく仕事を終え、1人のアパートに帰るところだった。
フェレットのうー太くんが帰りを待っていることだろう。早く帰って構ってやらなきゃな。
スーパーに寄ると、まだ半額のケーキとローストチキンレッグがいくつか売れ残っていた。中年男の俺が1人で楽しむ用には半額でも贅沢だという気がしたが、クリスマスの気分だけでも味わおうかと両方買った。
フェレットのうー太くんは白くて甘いものが大好きだ。身体によくはないので本当はあまり与えないほうがいいのだが、今日ぐらいはいいか。一緒に生クリームを舐めて笑顔になりたい。
俺と同じく仕事帰りらしい人達が、反対側の歩道を数人、距離をとってすれ違って行った。
みんな、きっと俺よりはましだろう。もうすぐ日の変わる時間だが、帰ったら温かい家族が笑顔で迎えてくれるのだろう。理由もなく、そう思った。
あるいは俺が一番ましなのかもしれない。うー太くんが待っている俺とは違って、彼らは帰りたくもない家に帰るところなのかもしれない。見たくもない妻の顔、反抗的なだけの息子の姿。知りもしない気の滅入るような他人の家庭事情を想像し、気楽な自分を申し訳なく思った。
それとも何か孤独なゲームのような楽しみが彼らを待っているのだろうか。
コートのポケットに片手を突っ込み、スーパーの買い物袋とビジネスバッグをもう片方の手に提げて、白い息を浮かべて歩く。
俺は今、ここにいる。若い頃に夢見たような自分はどこにもいなかった。可愛い嫁も、華やかな仕事も、欲したものは何もない。思い出の中にさえ、今日に似合うような光景は、1つもなかった。
角を曲がるとカフェの明かりがあった。疎らだが窓の中には数人の客の姿が見えた。みんな1人客で、ただ暇な時間を潰すためにそこにいるように、つまらなそうな顔でコーヒーを啜っていた。
生きて行かなきゃな。
いつかいいこともあるさ。
そう思うと俺は、無理矢理のように顔を笑わせた。
どこからか、カセットテープから流れるような温かい音で、1984年の洋楽のヒット曲、バンドエイドの『Do They Know It's Christmas?』が聞こえていた。