パパのお味噌汁
朝、ママは「お腹が痛い」って言った。
わたしが心配すると「大丈夫」だよって笑った。
にこにこして手を振ったら、わたしは「いってきます」をして幼稚園に行った。
幼稚園では朝の体操をして、お友達と外で遊んで、お昼にお弁当を食べて、先生のピアノでお歌を歌った。
さようならの時間はあっという間にきちゃう。大きな声でごあいさつをしたら、お友達にバイバイ。
いつもならママが迎えにくるけど、今日はパパがくるんだって。
だから、それまで幼稚園でお留守番なんだって。
パパが迎えにきたのはお空が暗くなってから。
お仕事の服のままだった。
先生にバイバイをして幼稚園を出たら、パパはわたしに言った。
「ママは病院にお泊まりになったから、帰ってくるまでパパとふたりだよ」
私は「なんで?」って聞かなかった。
おうちに帰ると、パパは急いでごはんを作ってくれた。
うさぎさんのお椀にはごはん、うさぎさんのお茶碗にはお味噌汁が入ってた。
「逆だよ」って言ったら、パパは「間違えちゃった」って。
パパのお味噌汁はママのより熱くて、いくらふーふーしてもぬるくならなかった。ちょっとしょっぱくて、ネギは辛かった。だから、残しちゃった。
パパは自分のお椀じゃなくて、大きな丼でたくさんお味噌汁を飲んでいた。
パパとお風呂に入って、パパと歯磨きをして、パパとお布団に入った。
ママがいなくても平気だと思ったけど、お布団はママの匂いでいっぱいで、わたしは急に寂しくなった。
我慢できなくなって、大きな声で泣いた。
泣きながらたくさん「ママ」って呼んだ。
困ったパパは、わたしをお布団から連れ出した。
パパが冷蔵庫からお椀を出した。
スプーンと一緒にわたしの前に置くと、いちごの匂いがした。
すくって食べると甘くていちごの味がして、ぷるんって揺れた。ママが作ってくれるゼリーと同じだった。
「なんでお椀なの?」って聞くと「どの器かわからなかったんだよ」って言った。
「いつ作ったの?」って聞くと「夕飯作りの途中で作ったよ」って言った。
急いでたのに、作ってくれたんだ。だからパパのお味噌汁は、丼だったんだ。
ゼリーを食べ終わると、わたしの寂しさはなくなっていた。
ママがいなくても大丈夫。
パパがいるから我慢できるよ。
だってわたしはお姉ちゃんになったんだから。
ママと赤ちゃんが帰ってくるまでに、もっとお姉ちゃんにならなくちゃ。
明日はネギが辛くても、パパのお味噌汁を残さず全部食べようと思ったよ。