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催涙弾  作者: 米俵21
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一話

世の中には、存在してはいけない言われる人間がいる。殺人を犯した人間、というのはそれに該当する。他にも盗みを働いた悪党や性犯罪に手を染めた輩、血の繋がった実の子どもを虐待する親。どれも理解しがたく、まるで救えない罪であるが、その悪人を裁くのは彼らと同じ人間である。罪を犯した者は悪人とされるが、逆に彼らを裁く人間は善人なのだろうか。ハッキリ言うが、私はそう思わない。理由は簡単で、人間だれしもが善と悪の両面を持ち合わせていると信じているからだ。そして私は・・・・・・。



「人間とは」というもっともらしいタイトルで、やっと哲学のレポートを書き終えた私は、もうすっかり冷めて苦さ二割増しといった感じのホットコーヒーだったものを飲むと、誰が見ている訳でもないのに、わざとらしく大きなため息をついて、面倒だと思い未だ冬仕様のベッドに勢い良く寝転がり目を瞑った。哲学のレポートは今までに数度、課題として書いたのだが、その度に人間の生きている意味だとか、人が人の目を気にする理由だとか、人間に関することばかりで、今度は人間の何について書こうか迷いながら生活を送っているほど、人間哲学?は私にとって興味深いものである。現時刻は午後六時四十四分、いつもなら決まって四十分に母が夕飯の支度が出来た、と部屋に来るのだが。不思議に思った私は、私の全身を掴んで離さない人生最高の友を心を鬼にして振りほどき、一階にあるキッチンへと階段を下りる。するとなにやらテーブルの上にメモのようなものが置いてあり、読んでみると母から私への書き置きだった。要約すると、急遽友人と二泊三日の旅行に行くことになったのでカレーを大量に作り冷蔵庫に入れておいた。とのことだ。それにしてもこのメモ用紙はイヌやネコの愛らしいイラストが描かれていてとても可愛らしいので母の引き出しを探してメモ帳をコッソリ頂戴することにしよう。などと考えている間に世界一偉大な発明品の一つである電子レンジ君が、私の為にカレーを温めてくれたのでコーヒーの犠牲から学んだことを活かしてすぐに食べ始めると、電子レンジ君の気が利きすぎていたせいか舌を火傷し、また一つ学んだ。いつも私は、夕飯後すぐにお風呂に入っているので、母がいない今日、明日であっても、私の生活は例外なくスケジューリングされている。明日は友人と出かけるので、長湯は厳禁、湯冷めは厳禁、早めの就寝を心がける。そうして私の今日は終わるハズだったのだが、未だ冬仕様のベッドは些か寝付きが悪いらしく、もう日が変わろうかという時間ではあるのだが少し散歩に出ることにした。花見のシーズンはとうに散り行き、雨上がりの澄んだ空気と都会では珍しい満点の星空を見た私は、人生最高の友が今夜に限り最低であったことに感謝しつつ、人通りの少ない閑静な住宅街をゆっくりと歩いていた。心地の良い夜風が、お風呂上りの火照った身体を寒いくらいに冷ましてくれたおかげで、冬仕様の友と和解できそうだと、上機嫌に自宅へと身を翻したその時、近所の子どもたちが普段から遊んでいる近くの公園から、何か叫び声のようなものが聞こえた私は、背筋が凍り、身体が小刻みに震え始めた。一刻も早く、一歩でも遠く、この恐怖から逃れたいのに、足が竦み、目の前は昼のように真っ白で、全力で百メートル走を走った後のように呼吸が乱れていた。腹痛で駆け込んだ公衆便所の紙が切れていた時を遥かに凌駕する絶望で、私の心はポッキリと折れてしまった。そこからは記憶が無く、気付いたらウチのリビングにあるソファの上で寝ていた。動物の帰巣本能というやつは恐ろしく高性能で、人間の場合は、記憶が無くなるまで酒を飲み酔っぱらっていても、いつの間にか自宅に辿り着き、玄関に倒れこんで意識を失う。私の場合も果たしてそうだったのか、もし仮に帰巣本能ではなく、誰か見知らぬ人に助けてもらったという可能性も有る。後者の場合は不安も残るが、結果的には道で倒れて野晒しではなく、こうして生きて自宅にいるのだから良しとしよう。などと一人思考を巡らせていると、私の大切な家族である電子レンジ君が声を上げた。いかに優秀な電子レンジ君であろうと、人の手で仕事を与えない限りは無能な鉄の塊であることは産まれて二年の赤子でも理解できるのだが、私が先ほど考えたパターンの中で二番目に最悪の事態になってしまった。昨夜、私が覚えていない間に何者かが私を家まで送り届け、そのまま家の中にいる。そしてそいつは電子レンジ君に命令し、この匂いから察するに、母が昨日作ったカレーを温め、さらにトースターで食パンを焼き、さらにコンソメのスープを作っているとみた。私が思うにこの人物は、天地がひっくり返るほど凄まじい阿呆、もしくは、全人類の中から選ばれた大馬鹿者代表、もしくは、途轍もなく気の良いたわけ、のどれかだ。根拠もなく何故か安心した私がキッチンへ顔を出すとそこには、阿呆でも馬鹿者でもたわけでもない、全くの予想外の人物が立っていた。

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