光さす場所
お題「黒い瞳の少年」条件「無声」で書きました。夏のひとコマ。
灰色の空のずっと向こうには、本当の空があるのだろうか。
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じっとりとまとわりつくような夏の暑い日だった。
木と紙と絵の具の匂いがする美術室で、少年は背中を向けていた。
開け放たれた窓からはささやかな生ぬるい風と、強い日差しが入り込んでくる。クリームイエローの色あせたカーテンがゆらゆらと揺れていた。誰も気にしないのだろう、同色のタッセルはちぎれかけのままぶら下がっている。
少年は熱心に手を動かしていた。不器用に削られた6Bの鉛筆はところどころ引っ掛かり、または勢い良く滑りながら、少年の視線の先に黒い線を描いていく。納得がいかなかったのか、破りとられたクロッキーのページが汚れた机の上に散乱していた。
まだ成長期の少年の華奢な背中を覆う白いシャツが、じわじわと汗に濡れていく。
また一枚、クロッキーが破かれた。
からららら、と頼りなげな音を立てて教室のドアが開けられる。
ぶわりと風をはらんでカーテンが膨らみ、まぶしい光に少年は黒い目を細めた。
そのすきに過ぎ去った風は散乱した紙を巻き上げ、幾枚かを窓の外へさらっていった。
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ひらり、と上空から舞い降りた紙切れを空中で掴む。どこかの教室の窓からクリームイエローのカーテンがのぞいたような気がしたが、それがどこの教室かはわからなかった。少し皴になった紙を丁寧に伸ばす。
それは鉛筆で描かれた空の絵だった。
腕を伸ばし、小さな空の切れ端をかざす。
灰色の空の向こうからは、まばゆい光が差し込んでいた。