警視庁特殊課、脚本担当
正義という言葉を掲げ、国という器の中で強者とあり続けるためならば。
金も、名誉も、人材も、優れている必要性があり。それ以外からは認められ、知られている必要がある。
認知されてこそ、人は価値を測る。
恐れ従うべきものか。法律の遵守には、必ずそれがいる。そして、それを生み出す者がいる。
◇ ◇
パラッ
「…………良いストーリー、来ませんね」
女性は参考している物を読書しつつ、左手だけはライター専用の装置の上に置かれている。
上着は婦警の格好でも、下はチノパンというオシャレのない姿。
警視庁の特殊課。その自分の机にて、今。正義を語る物語を執筆している者。
「よわりますね」
安立さん。
警視庁の脚本を担当している者である。一体どんな人物か。
「安立さ~ん。また本読みながら、話し作ってるの?」
「仕事ですからね。鯉川。あなたのように、事件がないと動かない部署とは違います」
そもそも、安立さんのお仕事は
「私は民衆に警察という存在をお伝えする役目です。フィクションでも、そこに警察という組織があれば、フィクションの中の彼等は警察を頼りにし。それを見た者達も自然と警察を信じてくれるわけです」
「あ~、なんかピンッと来ない仕事だね」
「そうですね。褒められたものじゃない」
警察という存在が至る所にいるのは、当然。国というものが、民衆達から集めた巨額の資金を投じて形成されている。正義を維持するための武装と組織力。
それだけではなく、認知されること。抑止力とされること。常に事件が起きることは警察の意味を落とすというものだ。公共の電波、あるいはネット番組。そこに正義の組織を登場させ、正義の在り方を伝える。人は信じ、固く護る。
正義に歯向かうな、と。
「これでも人に伝えるという、大切なお仕事です。読みますか?新作。途中ですけど」
「あー、私。活字ダメなのよね。漫画もそこまで読めないし。実写ドラマとか、映画じゃないと受け付けない。臨場感って大事じゃん?」
「ふむ……」
「安立さんこれまで沢山の警察ドラマ書いて、放送とかもされてるんだから、凄いよねぇ!こんな人が警視庁に所属しているのにも驚いていたけど」
それが仕事なんだけど……という、少し複雑な表情する安立さん。
能天気というか、短絡的というか。鯉川を見て思った事はこの歳でも純粋な心を持っている事だ。生まれ持った正義感と、伝えられた事により作られた正義感とでは感覚が違う。
「褒められるものじゃない。警察が私に依頼するからこそ、警察が主役の話を書くのです。ここにいるのも、あなた方警察を観察するためでしかない」
「ふーん」
「正義が必ず勝つとか、正義こそが正しいとか。私はそーいう物語を金と待遇でみんなに伝えている。自分で作っていて、……少々矛盾した迷いがあったりするんですよ」
頭を空っぽにしていただければ、要点だけを学んでもらえる。
そんなに重くする必要もなく。
「いいんじゃないかな?」
「!」
「正義だって色々あるし、考え方の違いもある。この前、詐欺グループをとっ捕まえたけどさ。やりすぎて半殺ししちゃったから、始末書書かされちゃったし。適度ってのが難しいのよね。だって、取り逃がすわけにも行かないからさ」
ほとんどの作品が警察が犯人を捕えるお話ばっかり。
たまには、コメディタッチも絡め。
「警察内での権力争いでも描いてみますか」