99話 トッドの意思
動きを見せた男の1人に、発動した鬼月が数本突き刺さる。
「ぐぶッ!」
部屋の中は、奥にどかんッと腰掛けたシガルに、その周りを囲む護衛なのか従業員なのかと言った男が4名いたが、それはたった今1名減った。
「動いた奴から殺す。」
「ふ、ふざけるなっ!!
何の用だ!貴様ら!」
「言わなくても分かるだろ?」
「早くこいつらを殺せ!!」
ーー相変わらず耳障りなシガルの声。
その言葉に反応を示そうとした男達をドゥーエが制止する。
「おい。
動くなよ?
隣のゼロは1秒もかからずにお前達の息の音を止めるぞ。」
ーー生唾の飲む音。
部屋の中に死が色めき立つ。
「何をしている!
行かぬなら、お前らの家族が死ぬぞ!!」
その言葉にどれ程の効力があると言うのか、少なくとも俺には唯の叫び声にしか聞こえなかったが、聞く人によってはそうでも無いらしい。
残りの3名がこちらに向かって動き出す。
「馬鹿が。」
ーー火を見るより明らか。
鬼月が一斉に胴を横に切断し、部屋は一面赤に染まった。
「なっ!?」
「だから言っただろう?
シガル。
お前が知っているゼロとは既に違うぞ。」
ドゥーエのその言葉に諦めましたとばかり、シガルは両手を挙げる。
「どうぞお掛けください。
あなた方は何がお望みで?」
俺とドゥーエが目の前のソファに腰掛けると、ドゥーエが先に口を開く。
「何が望みか、、、
むしろ、俺が聞きたいな。
一体、何が望みだった?」
「何のお話ですかな?
ただ、私は自分の商売のため、延いてはこの国のため。
そこに向けて尽力しているだけ。」
「あの日。
グラーム・ロンダ様が殺されたあの日。
お前が来たすぐ後に、あの出来事は起こった。
いくら何でも、タイミングが良すぎやしないか?」
「はて、何のことですかな?
グラーム・ロンダ様が死んだ?
全く訳が分かりません。」
「まぁ良いさ。ドゥーエ。
既に、あの魔族は捕らえてるんだ。
後はミアの力で記憶を抜けば一発。」
その言葉にシガルの眉がピクりと上がる。
「魔族?
そういえば、何かの関係で一度魔族に何らかの依頼をしたことがありましたねぇ。
それで?
今日は一体何の御用で?
いきなり押しかけて、私の従業員を殺すなど。
いつの間にか強盗にでもなられたのですかな?」
「俺達はどうやら、この国への反逆者として見做されているらしい。
その誤解を解くためのピースは揃っているんだが、最後の答えを聞いておこうと。」
「早くお逃げになった方が良いのでは?」
「ふっ。
それはお前のことだろ?」
思わずドゥーエが吹き出した。
「シガル。
お前が裏で魔族と取引をしながら、今回の騒動を進める為に行ってきた数々の出来事を俺達は既に知っている。
純血派のことや、ギルド長のこと。
全て分かっている。
だが、一つだけ分からないのは、どうしてお前がそんなことを?」
若干のブラフを混ぜた俺の質問に、シガルの顔は厳かな表情へと変わり、その手を胸のポケットの中へと入れると、咄嗟にドゥーエが立ち上がって銃口を向けた。
「小僧ども、慌てるな。」
シガルが懐から取り出し出したのは細長い紙。
ごつごつとした指で、その紙を解いて一本の葉巻を取り出し、片面をカットすると指先で火をつけた。
ジジッ。
もくもくと上がる煙の反対側を口に含むことで火は一層の煌めきを増し、フーッと大量の煙が口から吐き出される。
「ゼロ。
取り引きをしよう。」
「取り引き?」
「今俺の手元に有るのは、ゼロ、お前とあのアインスの契約書だ。
なぜ儂が持っているかなんて野暮なことは聞くな。
そして、もう一枚。
こっちは、お前に横取りされたアインスとテルレ公国の貴族の契約書だ。」
(屋敷の金庫から盗んだのか。)
「お前の方の契約書は既に今年を終了期限に変えてある。
わかるか?つまり今日がちょうどその日な訳だ。
だから、この契約書に契約のスキルを使えば、ほらこの通り。」
契約書が光りその効力を持ったことが目に見える。
「 次に、こっちの契約書に契約のスキルを使う。」
ーー俺の腕に覚えのある感覚が走る。
(アインスとの契約が切れたか。)
「これで、アインスはお前の奴隷では無く、あの貴族の奴隷ということになった。
そして、あの貴族は既に一族全て死んでいる。」
そこまで話すと、シガルは得意気に煙をくゆらせる。
「果たして、貴族の遺産を引き継いだのは誰だろうなぁ?」
(汚い面だ。)
「おい、豚。
言いたいことがあるならハッキリ言え。
お前が財産を引き継いだんだろ?
つまり、今この瞬間アインスはお前の奴隷だと。」
「ぐふふふ。
物分かりが良くて助かる。
どうだ?
儂がテルレ公国に亡命出来るように掛け合ってくれないか?
随分と太いコネがあるらしい。
それが無事に済んだのなら、アインスをお前に改めて売ってやっても良い。」
その言葉にドゥーエの殺気が溢れ出る。
「おっと。儂を殺しても契約は生きたままになるからな。
むしろ、お前達に不利になるぞ?」
「お前を殺して、アインスごと引き継げば良いんじゃないか?」
「今のお前達を儂の相続人として、セルカ王国が認めるとでも?」
「確かにそうだな。
ドゥーエ。」
俺の言葉に反応して、ドゥーエが腰を下ろす。
「それが懸命だ。
どうする?すぐに決断をくれ。
儂ももうこの街を出なければならない。
いずれにせよ、アインスは早く連れて来ないと、契約のスキルで苦しむこととなるかも知れんなぁ。
気をつけた方が良いぞ?」
ーー止まらないシガルの饒舌。
「どうした?
それにしても、まさかあの女がシャーマンの末裔とはな、、、
前に知っていればもう少し上手くやれたものを。
あの魔族め、、、」
「ふー。
分かった。良いだろう。
お前をテルレ公国に連れて行こう。」
「ほう、判断が速くて助かる。
但し、道中の儂の安全を確保するため、いくつか条件を出させてもらうぞ?」
「いや、安心して欲しい。
道中は必ず安全だ。
それよりもシガル。
契約のスキルを俺も使えることは知っていたか?
なぁ?ドゥーエ。」
「ああ。」
ドゥーエから紙を受け取り、俺も懐から紙を二枚取り出す。
そして、契約のスキルを発動させた瞬間、再び俺の腕に覚えのある感覚が走る。
「な、何をした!?」
「気付いたか?
お前が、例の貴族の遺産を受け取る時、当然矢面に立たないための細工をしていた。
お前の商会が権利を持つ、小さな商会を相続人にしたんだ。」
「だ、だったら何だ!?」
「舐めるなよ?
今俺の手元には、テルレ公国の大商人ラダンが保有していたお前の商会の権利書と、商人ギルド長のレックスが保有していた権利書、そして最後は、グランの街の領主グラーム・ロンダが保有していた権利書がある。」
「領主だと?」
「更に、その全てが俺への権利の譲渡を認めている。
つまりこの瞬間、お前の商会の権利の過半数を持つのは、お前の目の前に座る俺だという訳だ。」
「な、何を馬鹿な。」
「あの日、グラーム・ロンダ様はゼロにお前の商会の権利を渡すための準備を既にされていた。
ゼロの方が利益になると考えていたのだろう。
つまり、どのみちお前はもうあの段階で見放されていたんだよ。」
「さぁ、シガル。
テルレ公国へ行きたかったんだよな。
一緒に行こうか。
道中は間違いなく安全さ。」
シガルの横にゲートを出現させると、血の気の引いた指先から落ちた灰を合図に、下を向いたままのシガルをその中に入れた。
その絶望した表情から伺うに、これ以上の切り札は無いと判断できた。
厄介な相手であったが、どうやら最後は俺に軍配が上がったようだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次話で冒険者編終了です。いつも本当にありがとうございます。




