98話 久しぶり
夕暮れに鳴る鐘と、オレンジ色に染まる街。
「俺の父ちゃんも、その戦いに行ってるんだ!」
「おー、そうか!
坊主!そりゃあ、楽しみだな!
なんせ、領主様自らの出陣だ。
こっちの勝ちは間違い無いだろう!
お前の親父さんも無事に帰って来ると良いな。」
「うん!
父ちゃんはうんっと活躍して帰って来るよ!」
「ガハハハハハッ!
じゃあ早く家に帰って、親父さんのこと待っててやりな!
これは、おまけで入れといてやろう!」
「ありがとう!
またねー!」
店主とお使いで来ていた子供だろうか、2人の会話を眺めながら、俺は壁へともたれかかって立っていた。
戦場を後にした俺たちは、一足飛びにグランの街へと向かい、星の魔法を使って遥か上空から降り立つことで、街を囲む壁を超えて中に入った。
とてもじゃないが、俺たち2人が揃って正面から堂々と入るなど不可能であったからだ。
そして俺とドゥーエそれぞれが別れて、お互いの目的を果たした後、再び街の外れで落ち合うこととなっていたのであった。
「待たせたな。」
「ああ、、、」
「どうした?」
「いや、何もない。」
「そうか。
串焼きか?
美味そうな店だな。」
「言われてみれば、ずっと何も食べてないな。」
「片や英雄、かたや大量殺人者。」
包み隠しもしないドゥーエの言葉は、俺にとって心地が良い。
「そうだな。
所詮は、俺の主観って訳だ。」
「当たり前だ。
お前の物語だからな。
この件が終われば、酒でも飲もう。」
「ふふっ。
そうか。」
「何がおかしい?」
「こういう時は、励ましてくれるんだな。」
「俺は、根は優しい奴だからな。
ところで、準備は良いか?」
「ああ。
そっちの様子はどうだった?」
「既に伝令兵から速報は入っているようだったな。
中はひっくり返したようになっていたさ。
お陰で楽に回収できたがな。」
「じゃあ、、、」
「ああ。この通り。
ゼロ。お前の方は?」
「問題無く会えたし、既に書類は揃えてくれていた。
商人ギルドの方でも上手くやってくれるらしい。」
「そうか。
この夕暮れが消えたらいよいよか。」
「そうだな。」
ーーそう言って眺めた空
噴き出す血潮のような夕陽。
「ありがとうな。」
「えっ?
何だって?」
「二度は言わねぇ。」
「それは残念。
気にしなくて良いさ。お前と今一緒に居ることも全ては偶然の産物だからな。
むしろこっちが感謝してるぐらいさ。
それより、これからはどうするんだ?」
「これから?
そうだな、、、何も。いや、考えもしなかったな。
きっと、こんなに早く目標を達成出来るとも思っていなかったからだろうな。
ゼロ。お前はどうするんだ?
それだけの力を手に入れて。」
「俺は、目指すべきところがあるからな。
それに向かって進むだけさ。」
「お前が、目指すべきところか、、、
随分と遠そうだな。」
「ふっ、、、どれくらい遠いんだろうな。
ドゥーエ。
俺について来てくれないか?
きっと、誰も見たことの無い景色を見せてやる。」
俺のその言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、ドゥーエはすぐにその首を横に振る。
「いや、嬉しい話だが、、、」
「今回の件で色々と分かったんだ。
今の俺にはお前が必要だ。
もう一度言う。
ドゥーエ。俺について来い。」
今度はドゥーエも目を逸さなかった。
「良いだろう、、、
お前の行く末を見届けてやろう。」
「よし!
契約はこれが終わったら早速。
じゃあ、行こうか。」
「買い物に行くみたいに言うなぁ。」
✳︎
陽が沈まり、街は一層の盛り上がりを見せる。
市民にはまだ今回の戦争の情報が入っていないのか、いつもより陽気なアルコールの匂いが漂う中、一本路地の入った暗闇に、引っ越しの準備をしているのであろう、大きな荷物を次々に複数の馬車へと積み込む人影が見えた。
「お出かけのようで。」
「そのようだな。」
近付く俺たちに気付きもせず、せっせと建物の中から荷物を運ぶ男たち。
ーー首には首輪が。
(奴隷か、、、)
「失礼、シガル殿は居ますか?」
「ああ?
中にいるんじゃないか?
詳しいことは中の奴らに聞いてくれ。」
忙しいからか、乱暴な口調で一人の男が俺の問いに答えた。
「すまないな。」
教えてもらったとおり扉を開けて中へ入ると、長い廊下の奥の扉が開いており、そこから灯りが漏れている。
そして、聞こえて来るのは大きな怒鳴り声。
「何回言わせるんだ!
早く金をかき集めろ!
売掛金もだ!!借りれる金も借りて来い!
明日だ!
明日の朝までだ!!」
耳障りという表現がこれ程までに当てはまることも少ないかも知れない。
聞き覚えのあるその声の方向に向かって進んで行くと、途中で開いた扉から男が現れる。
何やら急ぎの様子であったが、俺の顔を見るや否や。
「ゼ、ゼ!」
スッ。
そこでその男の首は胴から離れて、無言になる。
ドシャッ。
崩れ落ちたた身体の音に反応したのか、同じ扉からもう1人が顔を出した?
「どうした?」
スッ。
「ガッ!?」
また1人、命の灯火は消え去る。
目標へ辿り着くまでに手段は選ばないと決めたため、全く躊躇いは無かった。
もちろん一人一人の命が尊いものであるということは理解しているが、俺から見れば、いま目の前に映る命はどれも変わりが無く、等しく無価値であった。
返り血を引き摺りながら、奥の部屋の前に立つと、ピタッと止まった部屋の空気をこの男が動かす。
「な、なぜお前らが!?
ゼロ!ドゥーエ!」
「お前で最後だ。」
「久しぶりですね、シガル殿。
いや、シガル。
借りは全て返すぜ。」
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