97話 屈辱の返上
「な、なんてこと、、、」
その強烈な衝撃波と目の前で起きた光景。
本来、自然現象の枠の中にあり、それでさへ滅多に起こることの無い出来事が、たった一人の人間によって引き起こされたというにわかには信じることの出来ない事実。
人の領域などというものは、遥かに超えた一撃に、味方のほとんどが腰を抜かしていた。
(そりゃ、そうだよな。)
「ブランデ!
動ける奴を率いて、後始末をつけろ。」
目に見える程の狼狽えようであったブランデだったが、流石は大公に目をかけられているだけはある。
俺の言葉で正気に戻ったのか、すぐに立ち上がって、頭を下げた。
「ゼロ様!
承知致しました。
私ブランデが、この戦を完全なる勝利へと導かせていただきます。」
「大公への報告や後処理は任せた。
俺は大将首を獲りに行く。
ドゥーエ。
付いて来い。」
「承知した。」
この戦の勝敗は既に決まったと言ってもいいだろう。
だが、俺は政に明るくは無いため、終着点はブランデに任せた。
ーー俺たちがここでやることは後一つ。
(終わらせよう。)
足音が途絶えた戦場へと歩みを進める。
隕石の衝撃波や爆風を和らげるために使った敵兵、それらが転がる辺りを皮切りに、アノニムのスキルでもあるマジックサクションを使い、倒れている者達から魔力を吸い上げていく。
それと同時に鬼月を発動させると、俺の周囲を無数の刀が舞った。
「息のある者は全て殺せ。」
敵軍の中に、ましてや、このテルレ公国の中にも、二度と俺と俺の周りに手を出させないため、徹底的にやると決めていた。
(誰一人として、生かして帰らせない。)
ピンっと張った絃のように、俺の意識と周囲に浮かぶ刀達が張り詰めていく。
呼吸音や呻き声が聞こえると、それを合図に弾かれた絃は震え、一つの音を奏でる。
その音が無数に集まると、それはやがて一つの悲痛なメロディとなる。
「ゔッ!」
「ああっ!」
「ぎゃ。」
「ぶッ!」
鬼月が、幾重もの音を奏で続け、揺らいでいた命の灯火は次々と消え去る。
「ん?」
死への恐怖か、はたまた俺への恐怖なのか、飛び込んで来た光景は、目の前で突っ伏して震える一人の兵士の姿。
思わず込み上げたのは、申し訳ない気持ち。
ーーどのみち、逝くのは皆同じ。
(悪かったな。
もう、まとめていくからさ。)
戻ることの出来ない片道列車に乗り込ませているのだから、後は、今すぐか、待たされるかの違い。
足元へ鬼月を突き刺し、その心臓と震えを止めて、魔力を吸収する。
数多くの者から吸収した魔力が、一定量を超えたところで再び両手を上に上げた。
(本陣手前まで。)
星の魔法により、力無く浮き上がる目の前の軍勢。
もちろん全員が死んでいる訳は無く、中には、死んだフリでもしていたのあろう者達が、宙で多少のバタつきを見せながら、ドンドンと上へ上へ上昇していく。
やがて、前方の空を人や馬、荷物や転がっていた武器が覆い尽くすと、一気に両腕を開いて戦場の端へと寄せる。
「さようなら。」
モーゼの如く戦場に作られた大きな道。
その両端に、ありったけの魔力を込めて腕を振り下ろすと、上空数十メートルから数倍の重力で叩きつけた。
ゴンッ!
静かになったこの戦場に、重低音が良く響く。
随分と先にある敵陣奥深くの本陣まで、完全に声が聞こえなくなった一直線の道を歩きながら、ドゥーエは黙って俺について来る。
(知り合いや友人もいただろうに。)
静寂を通り過ぎ、辿り着いた敵本陣、先ほどの星の魔法の対象範囲からは外した場所。
そこは、先刻降った隕石の爆心地でもあり、あちこちに散らばる死体の損壊も酷かった。
ーーいや、最早原型を留めているものなど何も無かった。
(何者も逆らえはしないんだな。)
「領主の姿を留めることは出来なくなったようだな。
もはや、人の姿すら留めることは出来ていないか。」
「ブフッ!」
鬼の手でその頭を掴んで浮かすと、起こされた瞬間に口からそいつは吐血する。
それは敵の総大将であり、セルカ王国グランの街の領主、グラーム・ロンダの姿をしていた者。
「直撃したのか。」
見ると、身体の脇腹辺りに風穴が空いていた。
「ヒューッ、ヒューッ。」
「苦しいか?」
俺の質問への回答は無く、エナジーサクションで体力を奪うと、いよいよ呼吸音まで、小さくなってきた。
「ドゥーエ。出番だ。」
「感謝するぜ。
ゼロ、、、
お前は、何も言い残すことは無いのか?」
口を開いたドゥーエの言葉に反応したのか、空に請い願うように、そいつは力無く手を伸ばした。
「ァ、ア。
マ、魔族の、ぐ、国を、、、」
「魔族の国、、、
残念だったな。」
「俺が魂すら残しはしない。」
口の中の喉の奥まで、突き刺した銃口、引かれたトリガーが放つ一撃は、そいつの身体の何一つも残すことは無かった。
やがて、浮かび上がった虹色の魂を鬼月で切ると、それは再び力無く地面へと消えて行く。
(この土地で安らかに眠れ。)
振り返った後ろの方、動ける兵士達が、両端の死体の山へと向かっているのを確認する。
ーーこれだけの人数を殺した。
(貴族も相当居たんだろう。)
テルレ公国が復興を目指すタイミングでの、大義名分を得た横槍の入らない戦い。
自分たちの勝ちを確信していたからこそ、当主自ら参加している貴族も多くいたであろう。
セルカ王国にとって、この戦いの代償は大きい。
それに加えて、数万の軍勢を数千が殲滅させたという事実に、セルカ王国が払う代償はどれ程のものとなるのであろうか。
(俺が国王なら、胃が痛くなるな、、、)
「ゼロ。
後一人だな。」
「そうだな。
後一人、、、
すべて、終わらせに行こうか。」
先週多忙で更新できませんでした。みなさま、お身体お気をつけ下さい。




