94話 力を求めて
「申し訳ございません。
このような結果に。」
「いいんだよ。
結果としては十分さ。
アインスの命が救われたんだ、、、
それより、俺とミアが結婚するとは知らなかったな。」
客室に帰って来た俺たちの暗い雰囲気を変えようと、茶化した言葉を投げつける。
「以前、、、
時計をいただいたことを覚えていらっしゃいますか?」
「時計?
ああ。」
あの夜、アインスを襲った奴の1人から奪った懐中時計を、ミアに渡したことを思い出す。
「この国では、時計を異性に渡すということは、求婚を意味します。」
「いや、でもあれは、、、」
「はい。
勿論あれは、純血派の者達に関わりがある物として、丁重に保管しております。
ただ、ゼロ様には許可をいただきましたので、父である大公には、その事実だけを伝えさせていただきました。
当然、受けていただけますよね?」
その綺麗な女性は、イタズラに微笑む。
「俺は構わないが、、、
ミアはよかったのか?」
「あの時、扉を開く前に決めました。
この人が私の運命の人だと。」
「だから俺にくちづけを?」
「良くおわかりで。」
ミアのこれまでの様子を見る限り、相手とキスをしなければ、魔眼の効力が発生しないということは考えにくかった。
「それよりも、ゼロ様。
本題になります。」
「ああ。」
「こうなってしまった以上、次の戦はゼロ様が先陣となることは変わりません。」
「そうだな。」
「敵は数万。
こちらは数千。
殆どの貴族が負け戦だと考えることでしょう。
そうなると、味方の戦力もほとんど期待できないのが現状かと。」
(まぁ、そうだろうな。)
「いくらゼロ様がお強いとしても、1人の力には、限界がございます。」
自分の首が撥ねられる可能性があったとしても、目の前のミアは冷静だった。
確かにそうだろう。
相手の一人ひとりと刃を交えるのであれば、誰にも負けることは無いつもりだが、戦争となると状況が違う。
真正面から立ち向かったとして、1,000の敵を倒せるかどうか。
最初に全力をぶつけることで、相手の撤退を期待するのが精々か。
しかし、それも相手の士気が相当高まっていることを考えると期待は出来ないのだろう。
(闇討ちか。)
「私も未だ死にたくはありません。
折角、結婚したんですから。
ゼロ様とアインス様のような甘い時間を過ごしたいです!」
後ろのアインスが怒っていないかと心配だったが、寧ろ自慢気な表情を見せる。
「話が逸れましたね。
敵国が進軍を始めるまでには、未だ幾ばくかの猶予がございます。
もしかして、ゼロ様は【不死の森】に行かれるご予定でしたか?」
「お見通しか。」
「これまでの記憶を見させていただいておりますので。」
「まぁ、誰か1人でも見つかれば儲け物さ。」
「流石でございます。
それでは、ゼロ様はご存知でしょうか?
【不死の森】の背後に佇む山の存在を。」
「ああ。
もちろん。
【不死の森】はその奥深くに行けば行くほど強力な魔物が現れる。
そして、あの山は森の最深部。
より強力な魔物がいるとは聞いたことがあるが、、、」
「良くご存知で。
ただ、それだけでは無いのです。
この国では、テルレ公国の公族のみが知ることなのですが、あの山の頂には、三大災厄の1つ。
ボス・ルチアーノの魂が眠ると言い伝えられております。」
✳︎
欝蒼とした森の中を歩く。
(これだな。)
外の世界がどうなろうとも、【不死の森】の中はいつもと変わらない。
目指した場所は、以前ドン・ファンクを仕留めた池。
以前と同じく、山に向かって流れる川に沿って、目的地へと辿り着く。
池の端を飛んで渡り、向かう先は更にその奥。
そこから水は再び川となると、この世の理に反して、山の斜面を登って行く。
ミアからその話を聞いたすぐ後、ミアとアインス、そしてフィーアは、人質として公宮のどこかへと連れて行かれた。
フィーアには、逃げても良いと耳元で伝えたが、返って来たのは「信じてるわ。」の一言。
残った俺とドゥーエのもとには、先ほどのブランデが、この戦の会議を持ちかけて来たが、それについてはドゥーエに任せることとした。
戦が始まるまでの間に、【不死の森】へと行きたいことを伝えると、大公から俺は自由にさせるようにとの指示が出ていると言われ、思いも寄らない程あっさりとこの場所へ向かうことが出来た。
ドゥーエから聞いたこれまでの話。
既に敵の正体は分かっている。
俺に成り済まし、領主を殺し、今は領主に成り済ました存在。
あれがアノニムが兄と呼んだ存在。
やがて、山の斜面を登る途中で、見知った顔が現れた。
「ドコヘユく?」
銀色の毛並みをきらきらと輝かせながら、俺に話しかけてきたのは、森の均衡者であるムーン。
そう、ギンの親。
「この先に用があってね。」
「フッ。
動ジナイカ。
ツヨクナッタナ。」
「それなりにな。」
以前は目の前に立っただけで、死を覚悟した存在だったが、今は真っ直ぐに話すことが出来た。
「此ノ先に待ツノハ死ダゾ?」
分かってはいる。
これまでに聞いた話。
山の奥深くまで立ち入って帰った者は一人も居ない。
一か八かというのは、元来俺の性格には似合わないのだが、それでも、人生における勝負時が来たのなら、トリガーを引くしか無い。
俺にとっては、ここがきっとフルベットのタイミングなのだろう。
「頂まで行く必要があるからね。」
「ソウカ、、、
セメテ、辿リツクまでは、他ノ物ヲ退ケヨウ。」
その哀れむ目は、俺の死を確信しているからか。
ムーンが目の前から姿を消すと、再び俺は、短くて長い一本道を登り始めた。
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