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魂を側に感じたら〜異世界上場会社を目指して〜  作者: 楽 我食
5 奴隷商人シガル

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92話 優しさの中

ミアに案内を受けた部屋のベッドへとアインスを寝かす。

着ていた服を着せ替えた際に、胸の傷が塞がっていることは確認出来たが、アインスは未だ目覚めなかった。

ベッドの傍らで、置かれた椅子に座りながら、静かに眠るその横顔を眺め続ける。


「ご不安ですか?」


「ああ。

どうしてもな。

フィーアやドゥーエはどうしてる?」


「皆さま既に、客室へとご案内させていただきましたので、そちらでお休みかと思われます。」


「そうか。」


「ゼロ様もお休みになられては?

アインス様の傷は癒えておりますし、念のため回復魔法を使える者も手配しておりますので、、、

少しはご安心していただいても良いかと。」


「そうだな、、、

わかってはいるんだがな。」


傷は癒えた。

目が覚めるのは時間の問題だろう。

わかってはいる。

頭では理解出来ている。

しかし、心がそれに追いついていなかった。


「ゼロ様。

目をお瞑りいただいても?」


「ん?

ああ。」


言われたとおりに。

椅子に腰掛けながら両目を閉じた。

暗転した目の前の視界に、覆い被さって来るここまでの疲れ。

ドゥーエの言葉が真っ暗闇の中に反芻されると、上下左右の感覚は無くなり、自分自身の座標は簡単に消えた。


トクンッ。


柔らかい感覚が顔を包み、優しい香りが鼻腔をくすぐる。


「さぞ、ご不安だったでしょう。

もう大丈夫ですよ。」


目を開くと、俺の顔はミアの胸の中で包まれる。

ミアは立ったまま、座った俺の顔を正面から抱きしめていた。

ピンっと張った糸が、一気に緩んだからか。

思わず目頭が熱くなる。


「大丈夫ですよ。

ゼロ様。」


その言葉にミアを抱きしめ返すと、ミアは更に続ける。


「きっと、全てうまくいきます。

楽勝ですよ。」


見上げたミアの顔。

その煌びやかな目と目線が合う。

自分の瞳に滲むものが、光の屈折をより強め、その輝きはあまりにも美しく。


「綺麗な瞳だな。」


「どの者も皆、この目を恐れます。

ゼロ様だけです。

そんなことをおっしゃるのは。」


2人の間に。

甘い雰囲気が濃厚に漂い、このままこの優しさの中に逃げ込んでしまいたいと思った。


(それでも。)


崩れかけた心に楔を打つと、ミアからゆっくりと顔を引き離す。


「悪いことをしてる奴が多いんだな。」


「ふふっ。

そうですね。」


「ありがとう。

本当にありがとう。」


「いえ、この程度。

いつでもおっしゃっていただければ。

そうだ!

何か飲まれませんか?」


部屋の隅へと向かうと、手に取ったのは、執事が置いたのであろう茶器。


「ああ。

悪いな。ミア。」


「いえ。

自分で言うのも何ですが。

私が淹れたものは、結構美味しいんですよ?」


「いや、それもあるが今回のことだ。

きっと迷惑もかけただろう?」


「良いんです。

私にとっては望ましい方に向かってますから。」


「そうなのか?」


「はい。

大公へは、明日にでも私から報告を行います。

ゼロ様は驚かれるかも知れませんが、きっと大公には了承いただけると思いますよ。

ただ、、、」


「ただ?」


「アインス様に貴重なポーションを使ったこと。

全ての貴族達が納得するとは思えません。」


「馬車で言ってた重役達だな?」


「ええ。

あのポーションは、ダルク家所有ではありますが、同時にこの国の財産でもあります。」


「あれだけの効果があるんだ。

それはな。」


「ですので、悪く思わないで下さい。

我々が。

いや、この国が。

ゼロ様に命を救われたことは紛れもない事実です。

ですが、、、」


「その栄誉は騎士団長ゴースのもの。」


「あの日のゼロ様の本当のご活躍を知っているのはごく一部の人間。

ですので、今回の件、、、

それ以外の者達が、どのような反応を示すかによって変わる部分がございます。」


「なるほどな。

まぁ、何だって良いさ。

アインスが助かったんならな。」


(なるようになる。か、、、

それよりも。)


「良い香りだな。」


「はい。

私のお気に入りで、美味しいですよ。

私もいただきましょうかね。」


部屋の端からカップを2つ持ち、ミアが再び俺の隣へ近寄る。


「どうぞ。

熱いのでお気を付けて。」


受け取る際に、触れる手と手。

身体の末端から伝わる温もりが、カップから立ち上がる湯気のように、何かを俺の心に湧き上がらせた。


「良い香りですね。」


少し掠れた声。

先ほどまで話していた2人の声ではない。

それは、俺が誰よりも待ち望んでいたもの。


「アインス。」


ふっ。と涙腺が緩む。

駆け寄ったベッドの横。

すぐにアインスの手を握った。


「ゼロ様。

私、夢を見てました。

ゼロ様がとても危険な目に遭うのです。

それを私が助けるという。

ゼロ様、ここは?」


「テルレ公国だ。

アインス。

夢じゃないんだ。

お前に助けられたんだよ。」


「そうでしたか。私がゼロ様を、、、

妙に現実味のある夢だと思いましたが、それなら良かったです。

それで私は、なぜここに?」


「ミアが、ミアが助けてくれたんだ。

ポーションを使って。」


そう言って、振り返った先には、ミアの姿は既に無かった。

彼女なりの配慮なのだろう。


「そうでしたか。

それは、感謝しないといけませんね。」


「どこか、痛むところは?」


「いえ。特に、、、

ただ身体がだるくて、頭がぼーっとしますね。」


「そうか。

まだ、ゆっくり眠ると良い。」


「はい。

お言葉に甘えて、、、」


再び目を閉じたアインスは、すぐに寝息をたて始める。

その姿を。

俺はいつまでも眺め続けていた。



いつも読んでいただき、ありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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