91話 恩返し
「ゼロ様。
またこの国に何か御用がお有りで?」
門番の1人が驚いた声を出す。
「ええ。そうなんです、、、
実は、公女のミア様に取り次いでいただきたいのですが。」
「こんな時間にですか?」
「申し訳ございません。
無理や失礼は、重々承知の上です。」
「確かにゼロ様がいらっしゃった際には、すぐにミア様まで報告するように言われておりますが、、、」
そこまで喋ると、その男はしまったという顔をしたが、俺は聞こえていないフリをして続ける。
「とにかく急いでおりまして。」
「か、かしこまりました!
すぐに手配いたします。
どうぞこちらでお待ち下さい。」
俺たちは、テルレ公国の首都ミライへと再び辿り着いいていた。
道中目立つことを避けたかったため、日中は茂みに隠れ、日が沈んだ後に、俺が2人とギンを鬼の手で抱えて駆け抜けた。
結局、領主グラーム・ロンダの館を出た日の晩と、その翌日の晩に全速力で駆け抜け、この街へはまだ夜も明けない内に到着することが出来た。
「落ち着きなさい。
ゼロ。」
待っている間。
膝が小刻みに揺れる俺をフィーアがたしなめる。
「まぁ、焦るな。
お前は能力と経験に乖離があり過ぎる。
なるようにしかならん。
何かあれば、またその時に考えれば良いだけだ。」
ドゥーエの言葉。
経験の差なのだろうか。
俺とは対称的に、落ち着いた2人の言葉がはやる気持ちをやわらげる。
やがて、馬の蹄の音がこれでもかと響くと、ミアがその姿を表した。
「ゼロ様!」
寝巻きに外套を羽織っただけの格好。
俺が着いたという報せを受けて、急いでここへ来る準備をしたのだろう。
護衛の騎士達が遅れて馬車から降りて来ると、すぐに周囲の警戒を始める。
「ミア様。
すみません。こんな時間に。」
「いえ。
それより、、、急なことですね?」
その言葉に黙って頷く。
「どうぞ。
詳細は、馬車の中で。」
促された馬車の中。
全員が腰掛けると、待ち切れなかった俺が口を開く。
「ミア様。
いきなりで申し訳ございません。
実は、お願いしたいことがございまして。」
その言葉に呼応するかのように、ミアが口に人差し指をあてた。
そして、そっと目隠しを取る。
(そうだったな。)
「それではゼロ様から。」
目隠しの下から現れた宝石のような瞳。
魔眼。
目を合わせると、自分の中に何かが入り込む感覚。
優しくて。温かくて。
その目の中に吸い込まれていく。
「なるほど、、、
そちらの方がドゥーエですね?」
「はい。
私は、ドゥーエと申します。
グランの街の領主。
グラーム・ロンダの側近をしておりました。」
「見させていただいても?」
「お噂はかねがね。
もちろん結構です。」
ミアがドゥーエの瞳を覗き込み、一息つくと、口を開いた。
「そうでしたか。
グラーム・ロンダ様は亡くなられたのですね。
そして、ゼロ様。
あなた様の姿そっくりの者が、それを行ったと。」
俺がドゥーエの方を見ると、ドゥーエは小さく頷いていた。
「まずはゼロ様。
アインス様の件ですが、ご安心ください。
アインス様に例のポーションを分け与えましょう。
但し、、、
それ相応の覚悟はおありですか?」
「本当ですか!?
ええ。私に出来ることであれば!!」
「そうですか、、、
ならば、大公には私から説明を。
他の重役の者には大公より説明をしていただきます。」
「あ、ありがとうございます!」
感謝しかなかった。
俺の不安を取り除くためか。
すぐに結論をくれたこと。
その言葉に、俺の心は一気に救われた。
「良かった!」
フィーアも喜ぶ。
「良かったな。」
ドゥーエの口から出る言葉には、違和感しか感じられず、思わずその顔を覗き込む。
「何だ?
俺が言えばおかしいか?」
「いや、意外だなと。」
「ふふっ。
俺にとってこの時間は、幾ばくかの余生みたいなもんさ。」
その言葉の真意は測りかねたが、やがて馬車が公宮へと到着すると、そのままミヤに案内を受けた。
「こちらへどうぞ。
申し訳ございませんが、ここからはゼロ様だけでお願いいたします。
他の方はすぐに使用人が参りますので、このままここでお待ち下さい。
客室へご案内いたします。」
そう言われて入った部屋には、更に頑丈な扉が一枚。
ミアが鍵を開けると、中には突如現れる天井の高い部屋。
ビルの3階分はあるだろうか。
そこから氷柱のように透明な結晶が下に降りる。
そして、その先端からわずかに一滴づつ。
滴が落ちていることに気が付いた。
(まるで鍾乳洞だ。)
その滴を受けるのは、大きな杯。
四隅から伸びる鎖に繋がれて、ちょうど頭の上のところに浮いている。
ピチョンッ!
一滴落ちる毎に。
そこから溢れた液体が杯を伝うと、下のガラスの瓶でそれを受ける。
「ちょうど1人分くらいはありそうですね。」
部屋の隅に並べられたいくつかのガラスの瓶。
ミアが手に取ると、その横のバスタブの様な容器。
人1人が足を屈めて、ぎりぎり入れる程度の大きさの中に次々と注いでいく。
「アインス様はポーションを自力で飲むことは不可能でしょう。
ですので、一気にポーションの中へ沈めます。」
(そういう使い方もあるのか。)
「良いのですか?
これ程大量のポーションを。」
「ええ、、、
良いのです。」
「ありがとうございます!」
「いえ、、、
ゼロ様、それでは。」
その言葉を受け、ゲートからアインスを出すと、即座にその液体の中へとアインスを押し込む。
その僅かな時間の間に吹き出した鮮血が、金色のポーションへと混ざるが、すぐにそれは止まり、アインスの傷口が完全に塞がったことを示していた。
「これでひとまずは大事ないでしょう。」
「ありがとうございます、、、
本当に、、、ありがとうございました。」
「いえ。
それよりもゼロ様。
今後私に向けて、一切の敬語をおやめください。」
「それは今回の件と何か関係が?」
「じきにわかります。
よろしいですね?」
「わかりまし、、、
いや、分かった。」
「結構です。
それでは、アインス様をベッドまで運びましょうか。」
「ミアは俺への敬語は続けるのか?」
「はい。
当然です。」
「当然か、、、」
「ゼロ様は、私の命の恩人ですから。」
「そうか。
でも、今回の件で十分返してもらった。
ミアも俺に敬語を使う必要は無いさ。」
「とんでもございません。
この御恩は、一生を懸けて返させていただきます。」
大げさだな。と思ったが、その真っ直ぐな心持ちに心は揺さぶられる。
これ程の感謝の気持ち。
かつて抱いたことがあっただろうか。
いつもありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!!




