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魂を側に感じたら〜異世界上場会社を目指して〜  作者: 楽 我食
5 奴隷商人シガル

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90話 走れ

膨れ上がった魔力から感じることは、目の前の相手が、相当の者であるということ。

万全の状態で、さぁ始め。

と対峙した際に、その日の互いのコンディションや、気候などの外的要因によって勝利が揺れ動く程度の力量差。


目標を違えたからか。

それとも別の理由からか。


「チッ!」


相手に動揺が走ったのは、そのセリフに見て取れた。

時間にして1秒。

目の前で佇むこの異常な相手との間には、間違いなく貴重な時間。

恐らく2度は訪れないチャンス。

それなのに。

俺は指一本動かすことが出来なかった。

あまりのことに頭がいっぱいで。

胸の奥の感情を貫かれて、思わず泣きそうになる。

誰か助けて欲しい。

何故アインスがこんな目にと。


ピッ。


光の線が一直線に伸びた。


ドンッ!


部屋の壁が崩れる音。

伸びた出所に視線を送ると、その先には、死体に隠れていたドゥーエの姿。

そして、その手に持つ銃の筒先から上がる煙。


「逃げろ。」


その声は確かに届いた。

と同時にようやく力は戻って来る。

ここまでで3秒。

血が噴き出すアインスをゲートの中に入れると、鬼の手でフィーアとギンを包み込む。

ドゥーエの一撃で出来た外への道。

それに向けて走り出す。


ピッ。

ドンッ!


更に繰り出されたドゥーエの一撃。

咄嗟に振り返ると、今の一撃で力尽きたのか。

銃を杖にして、膝をついたまま下を向いてた。


「クッ。」


出したのは右の鬼の手。

ドゥーエをマジックハンドで一気に手繰り寄せると、そのまま加速する。

それを追いかけて来る追撃の一撃。

焦りが出たか。

単調な一直線の攻撃は、背後に出現させたゲートの中に、難無く消えていった。

建物から飛び出して、庭へと降りると、着地と同時に更に駆け抜ける。


「東だっ!

騎士団用の門がある。」


ドゥーエの声が俺の耳へ届く。

広い庭を駆け抜けて、壁を登って越すと、そのまま街の屋根の上を飛び跳ねて駆け抜けて行く。

早く。

この世の誰よりも早く。

もし追いつかれたら。

とてもじゃないが、今は戦える体制では無かった。

この街がこれ程までに広かったかと思うほど。

体感にすると数十分。

ようやく目的の門の前へと辿り着いたが、その先に広がるのは、何人かの門番と、鉄格子で硬く閉ざされた門。


「止まるな!」


その一言に従って、走りながら鬼月を発動させる。

大きな刀が、鉄格子ごと門を切り開くと、一気に街の外へと抜けた。


「おい!

待て!」


待てと言われて待つ奴が居るだろうか。

門番のその声を置き去りにして、走り続けること。

いや、全速力で飛び跳ね続けること30分。


「ゼロっ!ゼロ!!」


聞こえたフィーアの声に振り返ると、フィーアが自分の横に顎を振る。

首を回した反対側。

鬼の手の中でぐったりとした様子のドゥーエが目に入った。


(チッ!)


あまりに急いでいたため、気付かなかったことを心の中で詫び、そろそろ体力も底を突きかけていたため、視界に入った茂みの中へ辿り着くと、ようやくそこで腰を下ろした。


ハァッ、ハァッ、ハァッ。ッハァッ!


「ゼロ!

ポーションを!」


フィーアの言葉に、ゲートからハイポーションをありったけ取り出す。

ドゥーエの方はフィーアに任せて、俺は座り込んで、取り出した飲み物を口に含む。

肺が限界を超えていた。

冬だと言うのに身体中の穴という穴から汗が噴き出す。

座り込んで、何度も何度も酸素を取り入れては、誰かが追って来ていないか気配を探った。


(追っ手は無しか。)


呼吸を落ち着けると、フィーアの方へと向かう。


「フィーア。

飲み物だ。」


「ありがとう。」


「様子はどうだ?」


「今、全身にハイポーションをかけたところ。

傷が深かった箇所を、自分で焼いて無理矢理閉じたんだと思う。

このまま目が覚めなければ、口から飲ますわ。」


(流石だな。)


フィーアの対処に感心していると、その膝で閉じられていた眼がゆっくりと開く。


「目覚めない方が良かったか?」


「あら、もうそんな口をきけるのね。」


「お陰様で。」


そう言うとフィーアがハイポーションをドゥーエの口に運ぶ。


ゲホッ!ゲホッ!


起き上がって咳込んだその背中をフィーアがさすった。


「大丈夫か?」


「ああ。

大丈夫だ。すまないな。

それよりも、なぜ俺を?」


「わからん。

夢中だった。」


率直な感想だった。

なぜ連れて来たのかもわからなかった。


「そうか。

礼を言おう。

2人ともありがとう。」


意外な一言に俺は驚く。

ここで初めてドゥーエの顔を真正面から見た。

齢は30を過ぎたくらいか。

キツく尖った目つきと、ギュッとしまった顔つきが、これまでの経験値を物語る。


「お前は本物なんだな?」


「どういうことだ?」


「まぁ、それは後で喋ろう。

それよりこれからどうする気だ?」


「ゼロ。」


フィーアが心配そうに続けた。


「ふー。

そうだな、、、

テルレ公国に向かう。

そこで最上級のポーションを貰ってアインスを助ける。

先ずはそれからだ。」


アインスを突き刺した一撃は、まさしく必殺の一撃であった。

少なくとも、俺の手持ちのポーションや、街中で買えるようなもので、そこまでの回復を期待できるようなものは聞いたことが無かった。


「テルレ公国秘蔵のポーション。

聞いたことはある。

何かあてはあるのか?」


「一応な。

まぁ、呑める条件は全て飲むさ。」


「たかが奴隷1人にか?」


「奴隷じゃない。

それに"たかが"でも無い。

俺にとっては"たった"だ。」


「そうか。

気を悪くしたならすまない。」


それ以上は、ドゥーエも口を開かなかった。

自分に。

自分の感情を抑えきれないこの状況に。

心底腹が立った。


いつも読んでいただきありがとうございます。

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