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09話 鬼月


「そうか。」


ゼンのところに戻り、ギルドの依頼書を見せるとゼンはそう呟く。

あまり驚いた様子もなく、そのまま付いてくるように言われ、ゼンの宿り木から更に森の奥へと1時間程度歩みを進める。

薄暗い森の中。

進んだ先に現れたのは、またしても1本の大木であり、そこには1人の老人が座っていた。


(これは、このじいさんの宿り木って事か。)


その老人は、そいつがそうか?

と嬉しそうに聞くと、ゼンはそうだと告げた。


「あんたは誰なんだ?」


俺が尋ねると、老人は一層顔の皺を深くして笑った。


「カカカッ。

お前さん儂が見えるのか!

こいつは珍しい。」


そう言うと、バリバリッという音と共に、老人の横の空間にヒビが入り、その老人がその空間から真っ白な太刀を取り出した。

それは、まさしくゼンが腰に付けているものと瓜二つ。


「安心せい。

預かった時から何も変わっておらんよ。」


老人がゼンにそれを手渡すと、ゼンが俺の方を向く。


「これが俺の差している刀の実物だ。

名を鬼月(きづき)

鬼の一族に代々伝わるものだ。」


(どういう事だ?)


その言葉に混乱していると、ゼンは俺に刀を渡して告げる。


「お主に全てを託したいと思うよ。」


その透き通った笑顔に、理解するより早く、自然と言葉が出た。


「任せてくれ。」


その瞬間。

ゼンが虹色の玉になったかと思うや否や、俺の意識が遠のいた。



✳︎



気がつくと、真っ暗な空間にいた。

徐々に目が慣れてくると、椅子がいくつも用意されており、真ん中の席にゼンが座っている事がわかった。

ゼンは無言で俺を隣に座る様に促すと、まるで映画館の様に目の前にスクリーンが現れる。


ビーッ!


開始音か何かだろうか。スクリーンに映像が流れ出す。

そこには、長編のドキュメンタリー映画の如く、ゼンの幼い頃からの記憶が映し出されていった。


初めて狩に成功した時。

初めて魔法を扱えるようになった時。

弟のジンと遊んだ時や修行に明け暮れた日々。

魔物を1日で200体仕留めたこと。


その都度、その都度。

どの様な感情をゼンが抱いたのかが、俺にも直接伝わって来た。

映画の最終地点は、これかも知れないとそれを観ながら思った。


長い長い物語であったが、1人の命が終わるまでの喜怒哀楽が。

そして、俺と出会うまでの森での姿がそこには映し出される。

その全てが終わると、隣のゼンが椅子から立ち上がり、俺の肩をポンッと叩いてその場を立ち去ろうとした。


「ゼン!」


そう叫んだ瞬間には、再び目の前には大きな大木の前に座る老人が。


「5時間で戻って来るとは驚いた。

上手くいったか?

【魂の継承】は。」


老人が笑いながら聞いてくる。


「あぁ。ありがとうジイさん。

いや、ローレン。

全て上手くいったよ。」


俺が答えると、その老人、ローレンはまたカカカッと笑い、気をつけてなぁと言って姿を消した。


すべて理解できていた。

ゼンが、俺を最初から魂の継承者として選んでいたこと。

そして、先程まで目の前に居たローレンに預けていた刀と共に、この俺に託したということを。


「やることは1つだよな。」


ゼンの能力なのかは分からないが、この広大な【不死の森】で、弟のジンがどこに居るのかはすぐに気配で分かった。

急いでその方向へと向かうが、その駆け出すスピードの速いこと。

途中で、8人組の冒険者パーティが、サイクロプスから逃げ回っている姿を見かけたので、一瞬で首を刈り取り、先を急ぐ。


(脳に身体がまだ追いついてないな。)


そんな事を感じながら、人とは思えない速さで森を駆け抜けると、映像で見た10メートル程の全身真っ黒な鬼が森の中にひっそりと佇んでいた。

鬼。

いや、弟のジンもこちらに気付いていたのだろう。


「ウルルルルルルルルルルルッ」


唸りとともにこちらの様子を眺めている。

距離を置いたまま、ゼンから受け継いだ刀を鞘から抜き出し、その切っ先をジンへ。


「目醒めろ。

鬼月(きづき)!!」


俺が言葉を発すると同時に。

数千を超えるであろう刀が突如としてこの空間に現れ、ジンの周囲をぐるりと囲んだ。


「グァァーーーーーーッ!」


警戒したジンの叫び声。

それを合図に、刀の一本一本がまるで自分の意思でもあるかの様に、目にも止まらぬ早さでジンへと降り注ぐ。

そう。

この刀達こそが、脈々と引き継がれてきた鬼の一族の魂そのものなのである。

鬼の一族では、魂の継承相手が居ない者や未練を残して死んだ者などが、この真っ白な刀。

鬼月へと自分自身の魂を継承していく。


ーー重いな。


もちろん重量のことではない。

数百年の歴史に消えた数千人の魂がこの刀には込められているのだ。

そして、この鬼月を扱えるのは、頭領から魂の継承を受けた者だけとなっている。

つまり、今は俺こそがこの鬼月を扱える者なのである。

降り注いだ刀が消えた時。

鬼の姿となった弟のジンは膝から崩れ落ち、そのまま息絶えた。

勝負は一瞬で終焉を迎えた。


(ゼン。

お前が最期まで使わなかった鬼月を使わせて貰ったよ。)


記憶の中で、ゼンは最期までこの刀を使うことは無かった。

最期の最期まで、弟のジンを殺す事に躊躇していたのだ。


ーー家族だもんな。


そして、ゼンはこの森に近づくジンにも気付いていたが、自分ではどうしても弟を殺すことなど出来ないとわかっていたのであった。


(このクエストの討伐証明は鬼の首だったな。

まぁ、ギルドに持って行く気は無いが。)


「人間にそこまでされるいわれは無いよな。」


そう呟き火の魔法を放つ。

死刑というものがある。

それが良いものなのか、悪いものなのかは俺にはわからない。

しかし、前の世界においては、刑罰の中で死刑は一番重い罪である。

つまり、死によって全ての断罪がなされるのだ。


「安らかに眠れ。」


青く煌びやかな炎がジンの巨大な死体を優しく包み込む。


(鬼が操る火は青いというのは、本当だったんだな。)


瞬く間に灰となると、温度差によるものなのか。

一陣の突風が吹き、ジンを成していた全てが跡形もなく消え去っていく。


(ゼン。本当に俺で良かったのか?)


今は考えても仕方がない。

頭ではわかっているが、思うところは確かにあった。

だがそれでも、自分の能力が魂の継承により急激な成長を遂げたことは事実だ。


ーー魔法はイメージが大切。


初めて見た青く燃え盛る火を、生涯忘れることはないだろう。

そしてこの力は、俺をこれからも助けてくれると確信していた。


(名前をつけておいた方が、イメージが湧きやすいか。)


俺は、この強力な火の魔法を、鬼火(おにび)と呼ぶことにした。


読んでいただいた方ありがとうございます。

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