88話 万端
屋敷に戻って早3日。
ゲートからベッドの上に意識の無いフィーアを出すと、アインスと交代で看病をした。
汗を拭いたり、水を飲ませたり。
意識の無いフィーアであったが、口元に飲み物を持っていくと、自分で喉へと運んでくれるため、それについては幸いだった。
フィーアが目覚めるのを待つ間。
屋敷では、アインスとの甘い日常が過ぎていくのみであったが、変わったことと言えば、ギンが一回り大きくなったことか。
仮に成長期だとしても、その振れ幅はかなり大きい。
また、身体が大きくなるとともに、それなりの雰囲気を漂わせるようになっていた。
(自分が戦った相手を食べることに関係しているのか。)
そんなことを思案しながら、そろそろ、領主との期限も近付いて来るかと思われた明け方。
フィーアはようやく目を覚ます。
「起きたか。
身体の方は大丈夫か?」
「ええ、、、
まだちょっとクラクラするわ。」
3日も何も食べていなかったのだ。
その痩けた頬は顔色も良くなかった。
「スープか何か持って来ようか?」
「いえ。
今は結構よ。何も要らない。
それより飲み物が欲しいわ。」
ベッドの横のテーブルに置かれていた水を渡すと、起き上がって一気に飲み干す。
げほっ!げほっ。
「ゆっくりな。」
起き抜けに驚いたフィーアの身体の背中をさする。
「ふぅ。
ありがとう。
どれくらい経ったのかしら?」
「丸3日だな。」
「そんなに経ったの?
驚いたわ。」
「まぁ、そんなものじゃないのか?」
「そう。
そういうものなのかしらね、、、
もう少し寝ててもいいかしら?」
「ああ。
ゆっくりしてくれ。」
「それにしても、ゼロ。」
「何だ?」
「あなた。
こんなことを何回も繰り返してるの?
正直、信じられないわ。」
「大変だったか?」
「死ぬかと思ったわ、、、
今も何だか、全身がはちきれそうよ。」
ふふっと俺が笑うと、フィーアは続ける。
「笑いごとじゃないわよ。
ジェンの魔力やスキルが私の中に入ったからかしら?
異常な違和感よ。」
それを聞いて、何となく風船をイメージした。
今のフィーアは、大量の空気が入って、膨らみきっているのだろう。
「大丈夫さ。
フィーアなら。
意外と限界はまだまだ先だよ。」
「何よそれ。
ひとまず私はもう一度休むわ。
ありがとね。」
「ああ。
お休み。」
扉を閉めると、胸を撫で下ろすとともに、興奮している自分がいることに気付く。
(ジェン。
流石はランクA冒険者。
フィーアのあの魔力の高まり。
今までより遥かに強くなっているんじゃないか?)
他人の魂の継承を見るのは久しぶりだった。
だからなのか。
一気に跳ね上がる人の力強さに、神秘を感じられずにはいられなかった。
その興奮そのままに、ベッドへ潜り込むと、アインスが口を開く。
「フィーアさんは目覚められましたか?」
「起きたのか?」
「はい。
先ほど。」
「どうして分かった?」
「ゼロ様の表情が嬉しそうでしたので。」
「相変わらず。
良く見てるな。」
「はい。
一番だと自負しております。」
「良くもまぁ、恥ずかし気もなく、、、」
「はい。」
「フィーアはもう少し眠るらしい。
俺ももう寝るよ。
アインスももう少し寝たらどうだ?」
「そうさせていただきます。
でも、その前に。」
ベッドのなかで向かい合ったアインスが、俺の方へ両手を伸ばす。
「その喜びを私にも分けていただければ。」
フィーアが目覚めた興奮と喜びを、ドロドロとしたものに変え、ねっとりとアインスに注ぎ込む。
俺の中で高まり続けるアインスへの感情。
それは俺に、これこそが愛だと感じさせていた。
✳︎
再び目が覚めた時は、既に昼も過ぎた頃。
ベッドの隣にアインスの姿は無く、キッチンに向かうと、見慣れた2人で暖かい飲み物を飲みながら、焼き菓子を食べていた。
「おはよう。」
「おはようございます。
って言っても、もう昼過ぎですけどね。」
「そうだな。
フィーア。
どうだ?」
「ええ。
でもまだ、身体のコントロールが難しいわ。
しばらくリハビリが必要ね。」
「そうか。
風呂は?」
「もういただいたわ。
着ていた物も全部洗ったし。」
「ゼロ様。
今ならまだお風呂も暖かいですよ?」
その言葉に甘えて、俺は目覚めの風呂に入ると、着替えて再びキッチンへ向かう。
「一つ聞きたいんだが。」
「ギルド長のこと?」
「ああ。」
「そうね。
それ程大した話でもないんだけど、ギルド長からシガルと出来るだけ関わらない方が良いと忠告はあったそうよ。
でも、それくらいかしら?」
「そうか。」
「何かが明らかになるようなものは無かったわ。」
正直それほど期待はしていなかった。
だから、今回フィーアがジェンの魂を継承しただけで充分お釣りがくるほどだ。
「どこか出掛けるのか?」
ふと、アインスとフィーアが【不死の森】へとでも向かうかのような格好であることに気がつく。
「何となく今日ではないかと。」
「そうか。
俺もそんな気がしていた。」
「私もそんな気がするわ。」
その言葉に思わず3人で微笑み合う。
その言葉のとおり、馬の蹄の音が聞こえた。
「冒険者ゼロは在宅か!」
門の外から大きな声がする。
「予想通り。」
どうやらご丁寧にお迎えが来たようだ。
玄関を開けた先には、大層な馬車の横に立つ御者が、門の前で俺たちが出て来ることを今か今かと待ち望んでいる。
「さぁ、総仕上げと行くか。」
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