87話 七つ目
冬の太陽は高くは登らない。
「そろそろ着くな。」
テルレ公国のミライを出て4日目。
俺たちはグランの街に戻ろうとしていた。
最初はミアのことで機嫌の悪かったアインスも、食事を重ねる毎に徐々に戻し、いつもの穏やかなアインスがそこには居た。
(美味しい食べ物って大切だな。)
「最後の昼食は何を食べさせてもらえるのかしら?」
「そうだな、、、
ハニーベアにしようか。」
「大賛成です!」
「それはまた、ご馳走ね。」
ゲートから取り出したのは、テルレ公国に行く前にギルドで受け取ったハニーベアの肉。
1キロ程の塊を取り出すと、4等分にカットする。
それから、直火でサッと表面を焼き上げて、余分な脂を落とすと、テーブルの上で薄く丁寧にスライスしていった。
全てを切り終えたら、溢れ出る肉汁と血を滴らせながら、買っていたサラダが取り分けられた、それぞれの皿の上へと肉をのせる。
「美味しそうね。」
続いて、鍋の中に果実をカットしたものを入れて煮詰めると、酸味の強いワインを加えてアルコールを飛ばす。
「ソース?」
「ああ。」
さっと沸騰をさせて、出来上がったソースを肉の一枚一枚に、一滴づつ垂らしていく。
「さぁ、食べようか!」
「はい!」
口の中に広がる肉の旨味。
何もしなくても充分に美味しいのだが、その味を、ソースの中の果物の甘味とワインの酸味がより重厚にする。
「はぁ〜。
美味しいです。」
「本当に食に関してだけはたまらないわね。」
何度食べても美味い物は美味い。
広がる幸せに全員の頬も緩む。
「やっぱり美味しいですね。」
「アインスは自分で獲ったから格別じゃないか?」
「アインスが1人で?
凄いわね。」
「ギンにも手伝ってもらいました。
それに、ゼロ様に稽古もつけていただいてますしね。」
「ふーん。
ハニーベアを1人でしょ?
元々、才能があったんじゃない?」
「どうでしょう?
最近どんどん力がみなぎる感覚があるんですよね。」
食べながら会話を重ねる。
ギンが珍しくお代わりを何度もせがんだので、俺の分を半分あげた。
(自分も手伝った獲物だから、美味いのかな?)
早めの昼食を終えた後、乗り込んだ馬車に揺られながら更に1時間。
ようやく街を囲む壁が目に映る。
「帰って来ましたね。」
「ああ。」
街に戻って借りていた馬車を返却し、前払いで払った銀貨30枚から15枚が返却されると、フィーアが口を開く。
「さぁ、行きましょうか。」
✳︎
舞台は再び【不死の森】。
今日は、天気も良いからか。
ランクが低いであろう冒険者が入り口付近を多く歩いていた。
そして、そこへ俺が来たものだから、話しかけて来る奴も多く、正直、鬱陶しかった。
(ジェンももう少し奥に居てくれたら。)
適当に会釈だけをして、ジェンの宿り木の前に着くと、一気に土の魔法で周囲を覆う。
(見られてると面倒だしな。)
「ジェン。
居るのか?」
「ああ。」
ふわっと目の前に変わらないその姿が現れる。
「約束どおりだ。」
そう言って、金貨30枚を確かに受け取ったとサインの書かれた紙を見せる。
「そうか、、、
間違いない。
彼女の字だ。
本当にありがとう。」
「まぁ、約束だからな。」
「それで。
どうだった?
どんな様子だった?」
その質問に俺は困った。
全て伝えるべきなのか。
それとも。
「様子ねぇ。
そうだなぁ。
何を伝えるべきか。」
「そう?
伝えるべきことは1つじゃないかしら?」
フィーアが口を挟む。
「ああ。
そうかな?」
(ここは、フィーアに。)
「ええ。
ジェン。そこに居るのね?
あなたの奥さんと息子は、今でも貴方の帰りを待ち続けていたわ。
あのボロボロの家で。」
目の前のジェンが今にも泣き出しそうな顔に変わる。
「でも、それもお終い。
私達が、貴方はもう死んでしまったことを伝えたし、金貨を30枚も渡したのだから、今よりはずっと良い暮らしをして、きっと新しい幸せを見つけるんじゃないかしら?」
そこまで言うと、フィーアは小さく息を吐いた。
(頑張ったな。)
「そういうことだ。
当然、良い暮らしとは呼べない現状だったが、お前からということで金貨を渡したんだ。
当然喜んでいたさ。」
ジェンは上を見上げたまま目を瞑る。
「そうか、、、
ありがとうな。
これでもう、悔いは無いな。」
「そうか。
これからどうするんだ?」
(ギルド長の件も聞きたいんだがな。)
「そうだな。
色々考えていたが、今結論が出たよ。
フィーア。
本当にありがとう。」
そう言うと、ジェンは右手を差し出した。
「フィーア。
ジェンがお前に御礼を言って、手を差し出してる。」
「そう。
そこにいるのね?」
「ああ。
ここに立ってる。」
俺がジェンの横に立って、フィーアに示すと、一歩前に出たフィーアが、その空間を優しく抱きしめた。
「お疲れ様。
もう、貴方の心配事は無いわ。」
その言葉の瞬間。
ジェンが笑って消えると、フィーアが膝から崩れ落ちる。
「フィーアさん!」
慌てて俺が支えると、アインスが寄ってくる。
「魂の継承ですか?」
「恐らく、、、」
俺はジェンの最後の晴れやかな笑顔を思い出す。
「いや、間違いない。」
「どうしましょうか?」
不安気なアインスの顔に、思わず胸が痛くなった。
(俺はいつもこんな思いをさせていた訳だ。)
「ひとまず全て済ませてしまおう。」
そう言って、フィーアをゲートの中に入れる。
(悪いな。フィーア。)
そして、木を切り倒し、土を隆起させると、想定していたとおり7つ目のフォレストロトを手に入れた。
大きさは1メートルも無い程度か。
それでも金貨100枚は超えそうな気がした。
「よし。
屋敷に戻ろう。」
「はい。」
(ギルド長の件は起きたフィーアから聞くとして)
「いよいよだな。」
引き続き楽しんでいただけると幸いです。




