86話 馬群
「どうする?
折角だから買い物でもするか?」
「うーん。
何か、そんな気分でも無くなったわ。」
「アインスは?」
「私もそれ程良い気分ではありません。」
「そうか。
そうだよな、、、
さっさと帰るか。」
「そうしましょ。
時間もそんなにある訳じゃないし。」
「いくつかレストランで料理だけ買って、帰り道はそれをゆっくり楽しむか!」
(ここまで来たのだから、会いたい気もしたけどな。)
貴族の街らしく、普段はなかなかお目にかかれ無い食材を、ふんだんに使った手の込んだ料理。
3軒ほどレストランをハシゴして、気になった料理を自分達の皿に盛りつけてもらうようお願いすると、それをゲートの中に入れていく。
「これだけ買えば、帰り道も楽しみですね。」
「早く帰ってお風呂に入りたいわ。」
「風呂か、、、」
(ドラム缶風呂みたいな物を作れば、道中も風呂に入れるな。)
マグガーラにでも一度話してみるかと考えていると、あっという間に門へ到着し、街の外に出るための列に並ぶ。
「ゼロ様!
もうお帰りになられるのですか?」
順番を待っていると、通りかかった騎士団と思わしき2人組に声をかけられた。
俺は2人の顔は分からなかったが、どうやら向こうは知っていたらしい。
「そうですね。
用件も済みましたから。
今回はあまり時間も無くて。」
「そうですか。
おい。」
1人がもう1人を肘で小突くと、そいつは一つ頷いて、街の中へと走って消えて行く。
「いや〜。
この街も随分活気が戻ったでしょう?」
「ええ。
そうですね。
皆さん頑張られているんですね。」
その後も男は話を続けて、話題を振ってくる。
(良く喋る奴だな。)
やがて、列の先頭になると、手続きをするために門の中へと入って行く。
「ゼロ様!
後少しだけ!
少しだけお待ちいただけませんか?」
「何かありましたか?」
ヒンッ!
遠くの方で聞こえた馬の鳴き声。
それがこちらに向かっていると気付いたのは、その蹄の迫る音の大きさから。
ダダッ、ダダッ!、ダダッ!!
確実に一頭や二頭では無い。
一着の馬を決める時の如く、強烈な音が響き渡る。
あまりの音の大きさが近付いて来るため、門の中から、再び街の方に顔を出すと、そこからは一瞬の出来事であった。
左右に別れた順番を並ぶ列。
その空けられた中央。
勢い良く迫る馬が前脚を上げると、後ろの煌びやかな馬車の扉が、スターティングゲートのように開く。
中から飛んで現れた1人の女性が着地し、そのまま2歩、3歩と跳ねて、俺の懐に飛び込んで来た。
「ゼロ様!!」
受け止めた衝撃が全身に届くと、俺に色々な記憶を呼び起こさせる。
翠色の綺麗な長い髪。
真っ黒な目隠し。
それは、テルレ公国ダルク家の息女であり、公位継承権第4位のミアだった。
「ミア様。
お久しぶりです。
お変わりないようで。」
「はい。
この時を待ち続けておりました!」
胸の中でミアが嬉しそうに喋る。
「ゼロ様はまた一段と凛々しくなられたようで。
私はゼロ様のことを考えると、食事もなかなか喉を通らない日も多く。
こうしてお会い出来たことを心から嬉しく思います。」
(照れるな。)
周囲の目がある中で、これ程の気持ちをぶつけられると、流石に嬉しいというよりも照れが勝った。
「はーい。
離れてください。」
その空間を切り裂くアインスの一言。
「あら。
アインス様。
お久しぶりです。お元気そうで何より。」
「お久しぶりです。」
「あら?そちらのお方は?」
「冒険者のフィーアと申します。
現在は、冒険者ゼロのもとで働いております。
ミア様、、、ですよね?」
「はい。
あなたがフィーアさんですか、、、
そう。
色々と乗り越えられたのですね。
ゼロ様はお優しい方です。」
「はい。
ゼロには良くしていただいております。」
「それ程褒めていただくものでも、、、」
「何をご謙遜を。
さぁ、さっそく公宮に向かいましょ!
精いっぱいのおもてなしを。
心ゆくまでさせていただきますので!」
そう言ってミアが俺の手を引くと、アインスが逆の手を引いた。
「ミア様。
申し訳ございませんが、我々はもう帰るのです。」
「いえ、でも折角来られたのですから、ゆっくりしていって下さい。」
俺の腕を使った2人の綱引き。
それをフィーアは飽きれた顔で見る。
(助けてくれ。)
フィーアに目で訴えると、小さく頷いた。
「ミア様。
申し訳ございません。
我々は、すぐにでもセルカ王国のグランに戻らなければならない理由がございまして。
今回は見てのとおり手土産もお持ちしておりません。
よって、近々に。
また改めてお伺いさせていただくという事でもよろしいでしょうか?」
滑らかに喋られた言葉に、2人の動きは止まる。
「そうでしたか、、、
取り乱して申し訳ございません。
それは、仕方がありませんね。
残念ですが、、、」
その言葉にほっと胸を撫で下ろす。
「ゼロ様!」
「は、はい!」
「次に来られた時は、必ずゆっくりして行っていただきますからね!」
「はい!
落ち着いたら必ずまた来ます!」
「ありがとうございます。
きっと近々またお会いできるでしょう。
引き留めてしまい申し訳ございませんでした。
一目お会い出来ただけでも十分です。
どうか皆様のご無事をお祈りいたします。」
深々としたお辞儀に、俺たちも頭を下げる。
俺も一目会いたいとは思っていたが、アインスの前なので、口はつぐむこととした。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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