85話 お届け
「随分と久しぶりに感じるな。」
「ええ。そうですね。
すっかり元通りで。」
ワイワイと活況が伴う街を歩きながら、そんな会話をアインスと交わす。
まだ、街並みは完全に復興とは言えないが、そこで生きる人々の息遣いから、一歩づつ前に進んでいることを感じていた。
どれくらいの年月がかかるだろう。
この街並みが完全にもとに戻る頃には、俺はどこで何をしているのだろう。
残された者達の悲しみが癒える時ははたして来るのだろうか。
隅々に思いを馳せながら、並ぶレストランから漂う香りを踏みしめて行く。
「フィーアは何度か来たことがあるんだっけ?」
「これで、4度目ね。
本当にこの街ミライでそんなことが起こったのね。」
「ああ。
にわかには信じられないだろうがな。」
「そう。
でも、この街はこうなっても好きね。
貴賓に満ち溢れていて。」
「わかるよ。」
(最初に来た時には、その景観に驚いたがな。)
「ご飯も食べたいし、色々と買い物もしたいところだけど、早速用件を済ませてしまいましょ!」
「それもそうだな。」
街を歩くと、声をかけてくれる人も多く、その誰もが感謝の意を伝えてくれて。
中には手を取りながら泣き出す人まで居て。
俺の心は冬なのにやたらと暖かくなって。
足取りは軽く気持ちは晴れやかであった。
そうして、訪れたのは街の外れの小さな一軒家。
道中何人かに道を訪ねつつ、近付いた時にようやく知り合いだという奴と出会い、目的地まで案内をしてもらった。
立派とは到底呼べないその外観に、俺たちは皆同じ思いを馳せたことだろう。
コンコンコンッ
「はーい。」
叩いた扉の向こうで声がする。
ガチャッ。
内側に開いた扉の先には、ジェンから見せられたものより幾年かの苦労が積み重ねられた顔。
そして、その横に立つのは、少年と呼ぶには少し幼い男の子。
母親のスカートの裾をつまみながら、不安気な瞳でこちらを眺める。
「どちら様でしょうか?」
「突然の訪問を失礼いたします。
私はセルカ王国の冒険者。
ゼロと申します。」
「冒険者、、、?
そのような方がどういったご用件で。」
「はい。
実はあなたの旦那さんのジェンさんから預かってるものがございまして。」
「部屋に入って遊んでなさい。」
俺の言葉が届くや否や、そう言って息子を家の中へと戻す。
(不味かったか?)
「ジェンから、、、ですか。」
息子が家の奥に行ったのを確認すると、途端に表情は曇っていく。
「すみません。
突然で、、、
驚かれましたよね?」
「ええ、、、」
「おーい。
お客さんかー??」
家の奥から野太い声がした。
「ええー!
何だか道に迷われたみたい!」
(そういうことか、、、)
「外で話しましょ。」
キィッ パタンッ
小声で呟いた言葉を扉の閉まる音がかき消していく。
「ご主人ですか?」
(ジェンとは別れて無いんじゃ?)
「ええ、少し前から、、、
そんな目で見るのはよして。
女1人で子供を育てられる程甘くないの。」
「いえ。そんな。」
「いいわ。
それよりあの人は今どこに居るの?」
「ジェンさんは亡くなりました。」
その時の顔を忘れることは無いだろう。
ほっとしたような、何かひとつが終わったかのような。
無くしたと思っていた物を見つけた時のような。
「そう、、、
冒険者ですものね。」
「ええ。」
「それより、預かってる物って?」
「1つはこちらです。」
ポケットから出したロケットペンダント。
無数の細かな傷がここまでの道のりを表している。
「受け取れないわ。」
「そうですよね。
まぁこれは、私がジェンさんの関係者であることを証明する意味合いもありましたので。」
「そう。
処分しておいてくれないかしら?」
(そうか。そうなるんだな。)
「わかりました。」
「他には?」
「こちらを。」
渡した袋を受け取った時のチャリッとした音。
それに対する期待感が顔に出ると、袋を開いた瞬間に爆発する。
「ふふふ、、
フフフフフフッ。
そう。
そうなのね、、、」
「一応他にも、ジェンさんの手持ちの物を換金するよう指示を受けておりますので、それが完了してまとまった金額になりましたら、また来ます。」
「これは、いくらくらいあるの?」
袋を渡してから、視線はずっとその中を捉えている。
「金貨30枚です。」
「ふふふ。
さっきの手持ちの物を売ったお金?
それは、もう結構よ。
あなたが受け取りなさい。
その変わり、もうここには来ないでちょうだい。」
「かしこまりました。
それでは、サインをいただいても?」
「ジェンとの契約だったのね?
かまわないわ。」
ようやく視線が俺の方を向くと、羽ペンを受け取り、家の壁に紙を押しつけてサインをした。
「ありがとうございます。
それでは、我々はこれで。」
「そう。
ありがとう。
あなた達も冒険者なら気をつけなさい。
あの人もずっと根拠の無い自信を持ち続けていたわ。
仲間と一緒なら大丈夫だ。ってね。」
「そうでしたか。」
「だから、冒険者なんて辞めなさいって言い続けたのにね。」
「奥様もどうかお身体に気をつけて。」
「ええ。
死んだら自分の物語なんて、そこまでなんだから。」
フィーアがピクっと反応した気がした。
「そうですね。
ただ、次へと受け継がれていくものもあると思います。
それでは、我々はこれで。」
「ええ。
さようなら。」
踵を返して。
2歩目を踏んだ時には扉の閉まる音が聞こえると、俺たちが後ろを振り返ることも無かった。
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