82話 きづき
「もう少しマシな格好は無かったのか?」
「すみません。
急いで来たもので。」
「まぁ良い。
時間だ。
この目隠しをしろ。」
ジェンからの依頼を受けて街へと戻った門のところ。
領主からの呼び出しがあることを告げられた俺たちは、久しぶりにこの場所を訪ねていた。
広大な屋敷で目隠しをさせられて、階段を登ったり降りたりの繰り返し。
日や人によって、歩く場所は変えているのだろうか。
真っ直ぐに進んでも距離があるだろうに、わざわざ遠回りをして部屋へと入ったところで、ようやく目隠しを外された。
目の前には、以前と変わらない領主の姿。
(グラーム・ロンダ、、、)
「さっさと頭を下げろ!」
部屋の端に並ぶ1人の護衛が大きく叫ぶ。
(そんな大声を出さなくても聞こえるよ。)
この堅苦しさにうんざりしながらも、言われたままに頭を下げると、領主が口を開いた。
「冒険者のゼロだったな。
随分と活躍してるようだ。」
「はい。」
「昨晩、冒険者ギルドのギルド長が殺されたことは知っているか?」
「はい。」
「一応聞いておくが、お前はこの件に何か関係しているか?」
「いえ。」
「そうか。
惜しい人物を亡くした。
お前の話は奴を通して良く聞いていた。」
「ありがとうございます。」
「ふんっ。
まぁ、良いだろう。
以前、俺が言った内容は覚えているか?」
「はい。
この街に利益をもたらす者になれと。」
「そうだ。
面倒事だけよこすような奴は俺の街に要らん。
そして、その答えは出たか?」
「はい。
今の私に出来ることはこれかと。」
そう言って俺は、ゲートからフォレストロトを取り出した。
一瞬その手の動きを見て反応したのは、側近のドゥーエ。
相変わらずの佇まいと、帯びる強烈な殺気。
以前よりは、遥かにマシに感じるようになったが、それでも放たれる殺気はビリビリと感じていた。
こちらの動きを1ミリも見逃さないとばかりに睨みつける。
(いけ好かないな。)
「「お〜。」」
手に持った妖しげに光るフォレストロト。
それを見た何人かのの護衛達が声をあげた。
「これで、、、4つ目か。
4つ目。
個人で4つ、、、
それもこんなに短期間で。」
「はい。」
「素晴らしい成果だ。
国王様も喜ばれるだろう。」
「ありがとうございます。」
「お前はこれからも、この国を裏切らないとこの場で誓えるか?」
「はい!
勿論でございます。」
「そうか。
知ってるとは思うが、俺は今お前が喉から手が出る程欲しい物を持っている。」
「はい。」
そう。
テルレ公国の大商人ラダンが俺に見せたシガルの商会の権利を保有する者の一覧。
そこには、ラダンが2割、商会の主であるシガルが4割、商人ギルド長のレックスが2割、そして、グランの領主グラーム・ロンダが最後の2割。
こいつを抱え込むことが出来れば、いよいよ目的に到達する訳だ。
「フォレストロトを、後3つ持って来い。」
「3つですか?
今お見せしたものを入れずに?」
「くどい。
後、3つを2週間以内に。
その対価として、お前の欲しい物を渡そう。」
「出来なければ、、、?」
「俺のところには、色んな願いが届く。
もちろんその中にはお前に相対する者も居ることだろう。
そいつの願いを優先して聞いてやるだけだ。」
「なるほど。
かしこまりました。」
そう伝えると、俺たちは領主の館を後にする。
今、領主に見せたのはアノニムとの前に刈り取った名前も知らない奴の物。
アノニムの物が一つ。
そして、ローレンの未回収のフォレストロト。
さらに、ジェンのフォレストロトで合計3つ。
取らぬ狸の皮算用。
だが、確度は高いと感じていた。
(8割、いや9割は問題無いか。)
最悪1日あれば1つくらいは何とか。
そう考えると、すぐに次の準備を進めて行く。
ローレンのフォレストロトについては、自分の中でも思うところがあり、そのままにしていたのだが、そうも言ってはいられないようだ。
(出来ればアジーンの件が片付いてからと考えていたが、、、)
アインスとフィーアをポーション屋まで送り届けると、その足で俺は【不死の森】へと向かう。
念のため、店の前に鬼月を発動させて。
✳︎
乾いた地面を踏む獣道。
辿り着いた先に見えたのは、悠然と変わらないその姿。
「ただいま。」
自然とそんか言葉が口から出る。
記憶が戻ってから僅か半年。
色々なことが一気に押し寄せた。
今、改めて1人になってみて。
(全てはここから始まったんだな。)
ここで、ゼンから鬼月を受け取って。
俺の今の物語が始まり出した。
選ばれたのが偶々俺だった。
たったそれだけのこと。
「悪いな。
ローレン。
まだ、アジーンのことまで手がまわらなくてな。」
慣れた手付きで木を切り倒し、土の魔法で地面を動かす。
鬼の手でフォレストロトをしっかり掴むと、この空間に、煌びやかに光る薄紫色の姿が現れた。
「流石だ。」
その大きさはゼンの物と同じくらいだろうか。
ローレンの能力がそうさせたのか。
時の流れが相まったのか。
握りしめた鬼の手の中から、凄まじい程の魔力を感じ取る。
(これを渡すなんて勿体無いな。)
俺はギルド長がきっと好きだったのだろう。
ギルド長が死んだ今。
冒険者ギルドへの思いが薄れている自分が居ることに気が付いた。
いつも読んでいただきありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。




