80話 2人目
「紙を1枚下さい。」
「うーん。
安いのが良いかしら?」
(俺の服装を見て言ったな。)
「ある程度しっかりしている物があれば、それでお願いいたします。」
「うーん、、、
これなんてどうかしら?」
(手触りは悪く無いか、、、)
「ありがとうございます。」
「じゃあ、銅貨10枚ね。」
(紙1枚でだもんなぁ。まぁ、安い方かな。)
一瞬の躊躇はあったものの、ポケットから銅貨を出してそのまま手渡す。
「 1、2、3、、、
はい。確かに。
ありがとうね。」
「こちらこそ。
早速この紙に文字を書きたいので、軒先のテーブルを使っても?」
「ん?ええ。
良いわよ。」
「ありがとうございます。」
雑貨店の店主に許可を得た俺は、店の前に乱雑に置かれた、ワイン樽を再利用したテーブルの上に買ったばかりの紙を置いた。
ゲートの中から、インクと羽ペンを出すと、紙の上にスラスラと書いていく。
〜雇用契約書
雇用者:ゼロ
被雇用者:フィーア
期間:特に定めない
休日:週に1日
賃金:年間金貨3枚
賞与:12月にその年の実績を考慮して支払う。
その他:食事及び衣類、住居は雇用者ゼロが提供する。
雇用及び被雇用者は、それぞれ対等の権利を有するとする。
〜
「これで本当に良いのか?」
「ええ良いわ。」
「冒険者の頃に比べれば随分安いんじゃないか?」
「そんなこと無いわ。
衣食住付きで、獲物を仕留めに行く時もゼロと一緒なんでしょう?
十分よ。」
「わかった。」
「本当に私と同じ条件で良いのですか?」
「当然よ。
私がアインスより多く貰う訳には行かないわ。
それに、私の結果次第では、上がるんでしょう?」
「ああ。勿論だ。
俺は、成果主義なんでね。」
「期待してるわ。」
「じゃあ、これで。
早速、神殿に向かおうか。」
昨日の夜、俺たちは色々なことを話した。
そこで、フィーアの能力やフィーアを雇用する条件ついても話していた。
それによると、フィーアは戦闘もある程度出来るそうなのだが、補助系の魔法が得意とのことだった。
それに、冒険者としての期間も長いため、蓄えられた知識にも期待出来た。
アインスより多い金額で契約することも考えていたが、フィーアはアインスと同額で良いとのことだった。
「本当にお金が欲しくなったら、自分でクエストを受けるわ。」
と、ワインを飲みながら笑顔で話していた。
ちなみに、俺がアノニムの魂を継承していることは、フィーアにとってストレスになるのではと気になったが、フィーアにとっては、特に問題は無いとのことだった。
そもそも、自分には何も見えていないから、アノニムの魂を継承したと言われても、あまり実感も湧いて来なかったそうだ。
(そこは、ひとまず安心か。)
しかしながら今、アインスの目から俺を見た際に、俺の背後に広がる光景は、凄いことになっているらしい。
神殿に向かうため、広場へと向かうと後ろから声をかけられた。
「フィーア!」
振り返るとそこに居たのは、商人ギルド長のレックスとその護衛達。
「レックスさん!
お久しぶりです!」
「おう。
元気か?もう、街は出歩けるのか?」
「はい!
お陰様で!
ご挨拶に行けずにすみません。
気にかけていただいていたようで、、、」
フィーアがそう答えると、レックスは顔をしわくちゃにして笑った。
「よかったな。」
「はい。
彼のお陰です。」
「そうだったのか!
恋人か?」
「何言ってるんですか。
彼は冒険者のゼロ。」
「おー。
冒険者のゼロか!
久しぶりだなぁ。
以前、少しだけ話したか?」
(少しだけね。)
「はい。
以前にご挨拶だけさせていただきましたね。」
「最近、頑張ってるらしいな。
頼まれた依頼は何でもこなせそうだ。」
「ご要望にはお応えいたします。」
「そうか!
今度ゆっくり話したい。
時間があったら一度商人ギルドに寄ってくれ。
渡したい物もあるしな。」
「かしこまりました。
時間を見つけた際には、すぐに伺います。」
「じゃあまた、、、」
「失礼いたします。」
「フィーア。
お前の元気そうな顔を見られて本当に良かった。
また、何かあった時にはよろしく頼むぞ!」
「はい!」
(全然キャラが違うじゃないか。)
フィーアに優しく語りかけると、颯爽とレックスは去っていく。
「いつから知り合いなんだ?」
「レックスさん?
以前、一度依頼を受けたことがあってね。
その時に。」
「そうか。
随分と仲が良さそうだったが?」
「仲良くなっておいて損は無いわよ?」
「そりゃそうだ。
考えておくよ。」
「それよりあなたも今度呼ばれてたじゃない?」
「何だろうな?
まぁ、楽しみにして行くよ。」
(シガルの商会の権利の話は、また今度話すか。)
「そうね!」
そうして俺たちは街の神殿に向かった。
銀貨1枚で契約書に公印をもらうと、その契約書がきらきらと光る。
前は気づかなかったのだが、押された公印には、何か魔力?のようなものを帯びている雰囲気があった。
早速、フィーアにサインをしてもらうと、契約のスキルを発動させる。
「これで完了だ。」
「よろしくね。
私の雇い主さん!」
「しっかり働いてもらうからな!」
「お手柔らかに。」
楽し気な会話が飛び交う帰り道。
冒険者ギルドへフォレストロトの報告と、ハニーベアの取り分を受け取りに行こうと考えたが、ギルド長が、ちょうどギルドから出て行く姿を遠目に捉えたため、またの機会にと改めた。
レストランで食事をした後は、セーラのポーション屋へと向かい、カプラ草を使ったポーション作りの製作。
気付いた時には、夕暮れまで没頭していた。
この数日。
充実した日々が続いていた。
楽しいと思うことが多かった。
油断していたと言われればそれまでかも知れない。
特に動きがないことは、良いことなのだと。
相手がこちらの動きに気付いていないのだと。
そうやって、どこか楽観的に構えていた自分がいたことは事実であった。
その晩、冒険者ギルドのギルド長が死体で発見された。
いつも読んでいただきありがとうございます。
過去の話の誤字脱字、改行、てにをは、一部表現の修正を段階的に行っております。
内容の変更は行なっておりません。
引き続きよろしくお願いします。




